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民俗芸能と盆踊り

参考文献
民俗芸能入門(文研出版、西角井正大著)
民謡地図⑨盆踊り唄踊り念仏から阿波踊りまで(本阿弥書店、竹内勉著)
日本民族の感性世界(同成社、竹岡俊樹著)
日本古典芸能史(武蔵野大学出版、今岡謙太郎著)




民俗芸能とは
まつり。ハレの日。古くから伝統的に行なっていることを演じることで、日常の生活の円滑な運営が約束される。すなわち、生活の古典である。古くは、季節のいきあう変わり目のところ、神や精霊の降りてくる夜に通しで行われた。

歌舞伎や能楽、日本舞踊や舞楽といった伝統芸能と違い、技芸術の巧みさや個性とは違った固有の芸質がある。


民俗芸能の要素
名称、日時、場所、設備
演者、衣装・扮装、小道具、番組、演技、文芸、音楽、組織、観衆、文献、口碑


民俗芸能は、その地域の風土や信仰や生産などの生活以外に、政治や経済や交通、地域同士の交流とも深くかかわっている。
盆踊りでは、覆面頭布を被って踊るところは、本土やや内陸で、日本海の黒潮の流れと一致している。鹿児島県肝属郡高山町の「八月踊」、島根県鹿足郡津和野町の「津和野踊」、秋田県雄勝郡羽後町の「西馬音内盆踊」。
盆踊りは、植物の種子のような広範囲の分布をしている。

盆踊りは本来夜を徹して行うが、今では岐阜県の「郡上踊」や富山県婦負郡八尾町の「風の盆」などしか残っておらず、日付をまたがないで終わるところがほとんど。
芸能は祭りあるいは神事性をもち、女性の生理現象を穢れとしたため、男性が演じるが、盆踊りのみ老若男女入り混じる。




十世紀はじめに空也上人が「南無阿弥陀仏」と唱えて踊る「踊念仏」をはじめ、浄土信仰、専修念仏、十二世紀前半の浄土真宗のおこりにより、民衆化していく。次第に歌に比重がかかる御詠歌となり、念仏歌が庶民に親しまれるようになった。

一遍上人が参籠した熊野中心に、護摩をたき、呪文と祈祷、苦行で神験に修得する信仰で、日本固有の神道的山岳信仰と仏教を合わせた修験道をおさめる修験者がいた。山伏と呼ばれる彼らの芸能の特徴は、荒々しい舞、特に足踏み。足踏み作法は、のちの日本芸能の重要な要素となった。


秋田のナマハゲのように、古来から異形神は遠い常世国の神聖な祖先神とみなされ、尊崇する信仰があった。最も単純な異形が、盆踊りなどの覆面。鬼も本来は、祝福や悪魔払いの払い役などとして登場していた。


舞とは、まわる、身体の旋回運動主体の舞踊表現。神楽舞など。
踊るとは、こおどりする、体の上下運動、足を上下させる舞踊表現。念仏踊りはこちら。
ふりとは、状態をさす、心理面が強く、主に歌舞伎舞踊での表現。
しぐさとは、より具体的演劇的で、物真似的な舞踊表現。
囃すとは、魂を分割する意味がある。

観客を激励したり歌わせたりと巻き込んだ、「花祭」、広島県山県郡芸北町の「芸北神楽」、宮崎県の高千穂神楽など、民俗芸能では見物人も芸能構成員の一人となることがある。



〈神楽〉
様々な形態がある。神楽殿などの座。
神の信託をうけるための巫女神楽。
神霊を誘き出す鈴や御幣などを手に舞う採物神楽と演劇的ストーリーをもった能神楽。
舞庭に竈を作り湯をたぎらせ、湯玉を四方にはねかけて舞う湯立神楽。
獅子を奉斎し、獅子を舞わすことで鎮魂を果たそうとする獅子神楽。(山伏系神楽と太神楽、2人立ち)

仏教の一派で山岳信仰もある修験道の神楽は古くから民間に流布していた。
また室町末期、京都の吉田神社が信仰で全国の神道界に勢力をもったことで、神話劇的な近世神楽の展開に影響した。

鎮魂作法に起源がある、宮中の御神楽(みかぐら)
光孝天皇の885年に記載あり。
アメノウズメノミコト故事に起源がある、民間の里神楽(名前に神代神楽や岩戸神楽が多い)
熊本県阿蘇郡小国町吉原天満宮の「吉原伝承岩戸神楽」
伊勢神宮の1031年に記事あり。

明治以降神職神楽の禁止により、農民の手に移り次第にセミプロ化する。


神楽の天蓋は、神霊を外世界から内世界、または逆方向へ移行させる装置の役割がある。


〈田楽〉
田や稲づくりに関する民俗行事、田の神を祀って諸国の実り豊かになることを念ずる。

田の選定から田おこし、稲刈りや倉入れなど様々な稲作の作業過程を、すべて順調に行ったとほめて、歌ありしぐさありで模擬的に演じる芸能色のつよい、田遊び。(やがて来臨する田の神に対する感染呪術)
田植えの時期に入り、実作業とともに笛や太鼓やささらなどで田植え作業を囃す、田植神事。
陸にのぼり実作業を捨てて、囃子の態や踊りを発展させた、田楽踊り。
曲芸などと共に、謡をともなって演劇的に舞う、田楽能。
呪師が広めた、田楽舞。
東北地方で早乙女の田植えの所為を風流化した、田植踊り。

天智天皇十年(671)に天皇一同並んで、「田儛」を行った記録あり。
平安頃から、実際の耕田や田植えの時期に関わらず、芸能化して流行。


〈風流〉
御霊鎮送などを主軸にした装飾や仮装が特徴の芸能。
起源は、疫病祭り、田楽、念仏踊りより。
典型的な形態は、中央に花などを飾った大きな傘(風流傘)を立て、まわりを大勢の人が輪になって踊る、揃いの派手な衣装と頭に乗せた灯籠などで揃った振りを踊った。

もっとも身近な舞踊の、盆踊り。
今では来臨された仏、祖霊の慰安の目的だが、十五世紀には日本固有の信仰と仏教の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」に念仏はやしものなどの風流があったし、異類異形だった。
手踊りが多いが、手拭いや扇、刀を擬した棒や木刀など採物をもつこともある。

娯楽要素の強い盆踊りに対して、念仏を唱えあげて元は安楽や極楽浄土の願いのため無我の境で阿弥陀仏を唱え踊った、念仏踊り。(囃し手と踊り手が別)
踊り手が皆鉦や太鼓を鳴らして念仏を唱え踊る、踊念仏。
十世紀半ばの天台の僧空也上人から。
十三世紀半ばの一遍上人から普及。
その思想は、集団的に念仏を唱えれば、その力が融通相乗して強くなる融通念仏に踊りを加えた踊躍念仏だった。
江戸時代のみ見られた気狂い踊る「葛西念仏」
娯楽化し余興芸も多い京都府下の「六斎念仏」
念仏踊りの盛んな福島県の「会津念仏踊」「空也念仏踊」「磐城じょんがら念仏踊」「白河天道念仏」

怨霊による害虫の鎮送からきた、虫送り。
精霊供養と重なる例が多い。

大きな幟(のぼり)などを背負って、太鼓をつけて踊る、太鼓踊り。
愛知県城市の「大海の放下」
岐阜県「谷汲踊り」「鎌倉踊」

大団扇や高い幟が特徴的な、雨乞い踊り。(太鼓踊りに多く含まれる)
宮崎県西都市「下水流の臼太鼓踊」
西日本や九州中心で東日本だと一人立ちの獅子舞になる。

岩手県中心で、中世以前の修験の徒が広めた、呪法である特殊な足踏みの反閇による亡魂鎮護の念仏要素の強い、けんばい。

中世の民間歌謡である小歌に、女曲舞や女手猿楽など前代の先行舞踊手踊りを真似て、舞踊要素を加えた、小歌踊り。メロディックで美しい振り付けの扇踊りの綾子舞。女歌舞伎へと繋がる。
盆踊りでは、静岡県榛原郡中川根町「徳山の盆踊」(綾の踊り、花踊など15曲)

諸国の風流踊りの小歌の中で、綾を織る姫を様々に歌い込んだ踊りの、綾踊り。
男性の綾竹踊りが多い。
各地の盆踊りで、男女問わず踊る。

男性が六尺棒を振ったりついたり打ち合わせることで、宗教的に悪魔を鎮め、心身の鍛錬と武技を鍛えるための、棒踊り。刀や鬼退治や餅つきもある。

江戸時代に、武家の下僕であった小粋でダテな奴の姿を真似て踊った、奴踊り。
盆踊りでは、宮崎県日南市「奏平踊」、岡山県笠岡市「白石島の盆踊」、青森県北津軽郡嘉瀬地方「嘉瀬の奴踊」


大掛かりな盆踊り

秋田県雄勝郡羽後町「西馬音内(にしもない)の盆踊」
亡者をならって黒く長い彦左頭巾で顔を隠す踊り子、端縫いの着物
亡者踊り、篝火をたいて細長い輪を作って踊る

佐渡の古い盆踊り
覆面頭巾にさらに、白鳥や鷺(さぎ)のような鳥のかぶりものを被る、独特な仮装。

長野県下那軍阿南町「新野の盆踊」
街道に細長い輪をつくる、盆の数日間毎晩夜を徹して踊る。
精霊送るため、最終日の朝に「踊り神送り」、「あき歌」を歌いながら帰路につく。

徳島市「阿波踊り」
典型的な練行式盆踊り、軽快で滑稽みもある男踊りとなまめかしい女踊りがある。鳥追笠。輪踊り形式もある。

岐阜県郡上郡八幡町「郡上の盆踊」
校庭で夜を徹して踊られる。歌謡と踊りの種類が豊富。三十三日の期間。

栃木県日光市「和楽踊」
群馬県桐生市「八木節祭」

富山県婦負郡八尾町「風の盆」
今もしっとりとした情緒を失わずにいる。
愛知県東加茂郡足助町「綾渡の盆踊」

沖縄県「エイサー」
円陣形式、手踊りと太鼓踊りがある。


昭和四十二年頃まで、中国地方の盆踊りの音頭取りは、長篇の盆踊り唄・口説節を語って、傘を持っていた。
傘の役割は、
阿弥陀仏の目に留まるため
大衆に音頭取りの存在を示すため
大衆の踊りやはやし詞を揃える指揮棒代わり
唄の声が空に逃げないように
という理由が考えられる。



〈獅子舞〉
もっとも古く変わらず広く数も残る、作り物の獅子頭を頭に被り舞い踊る芸能。行道や舞楽や祭礼の場を清める悪魔払いの思想。日本元来しずめられるべきものがだ、中国渡来の知識でしずめる側にかわり、豊年予祝のかまけわざなど意味もさまざまに展開した。

一人が頭一人が尻尾役の「二人立ち」
中国古来の伎楽(ぎがく)や舞楽から伝来。
江戸時代安定期から伊勢参りがブームになるが、参宮できない人のために、獅子をもって参詣と同じ功徳が授かるとして歩いた太神楽。祈祷の神事舞、奉納神楽芸、曲芸の放下芸。

多数の獅子で一人一頭形式の「一人立ち」
関東中心の「三頭獅子舞」と東北地方の八頭の「鹿踊り(ししおどり)」
鹿踊りには太鼓踊形と幕踊形がある。

〈祝福芸〉
身分の低いものが旦那をほめたたえる形式。
江戸時代に盛んだったが、零落した。

昭和初期まであったもので、旧正月過ぎに、太夫(たゆう)と才蔵の二人づれが舞いながらめでたい言葉を歌い合いの手ではやす、万歳(まんざい)。
北九州の「松囃子」、佐渡の「春駒」、兵庫県の「大黒舞」

〈人形操り〉
人形=ヒトガタは、人間のけがれを吸い取る役割。
寛永中頃に、傀儡子(かいらいし)の遣う人形と三味線入り浄瑠璃が結合して、人形浄瑠璃が発達。
三人遣いと、後に増えた一人遣いがほとんどを占める。

〈民謡〉
文字楽譜を媒体とせず、多くの人の間で口から耳への直接伝承で、自然に出来上がったもの。
作業唄が多い。盆踊りの際に、自然と踊りがはずむように歌う、遊唄もある。

分類表示
唄…素朴な、労働作業にかかわるうた
節…盆踊りや酒席でうたわれる、地域色ある複雑技巧的なうた
音頭…誰かのリードで集団があとに続いてうたう形式のもの、本来雅楽の演奏で最初の一節を独奏する役のこと。
「河内音頭」「江州音頭」のように多くが長篇物語的な口説型式で、音頭とり格のものしかうたえず、他の人は囃し詞を唱和する程度になる。
甚句…民謡の7割。七七七五の短詩型。越後より上の地域のみ。
追分…軽井沢の追分宿の飯盛女が騒ぎ唄ったもの
口説…盆踊歌に多く、くどくど事の成り行きを語るもの

四大民謡
松阪、新保広大寺、追分、ハイヤ節(阿波踊りやおけさへ)

民謡輸入のうまい秋田県
福島県相馬地方の民謡は、移動があまりない
明治時代の末から、三味線伴奏がつき始める。尺八もその後つけられる。


地域ごとの民俗芸能

北海道
狩猟民族としてのアイヌ固有の芸能
(イョマンテなど、シンプルな表現でも意味は細かい)
松前藩時代の芸能
開拓時代の芸能
尺八伴奏の難しい民謡の「江差追分」

東北
修験による山伏神楽(番楽)
式舞や女舞、番楽舞や神舞、狂言は、能楽大成以前の能の残存の中でも最高峰。
東北独特の鹿踊り、風流獅子
鎮魂呪術としての剣舞
津軽や秋田県角館町の「飾山囃子」などの民謡民舞
霊的な音色のイタコの口寄せ

関東甲信越と駿河
元来民間のもので、江戸中心の、里神楽
神主が願主に代わり祈祷の神楽を奉納する、太々(だいだい)神楽
直面の採物の舞と、仮面の能とからなる。
獅子舞
一人一頭形式の風流獅子と、二人一頭形式の太神楽とからなる。

東海、近畿、北陸
古き芸能伝承が残る、田楽
風流の中でも特に太鼓踊り
花の早散りを凶とし花を留めようと花の鎮魂を行う、京都府の「やすらい花」
奈良県吉野郡の「十津川村の盆踊」

中国、四国
佐陀神社に代表される、鎮魂の採物の舞と劇的な舞踊の能の二重様式からなる、出雲流神楽
鳥取県と四国には少なく、高知県は独特の形。
瀬戸内の地理的特徴により、村々で風流が盛んに
西日本に多い口説節の盆踊り(地踊りと仕組み踊り)
岡山県笠岡市白石島の盆踊り「白石踊」(重要無形民俗文化財)
源平合戦の死者の霊を慰めるため、それぞれ違う四つの扮装と踊り振りで輪で踊る。
海岸に音頭用と太鼓用二つの櫓を組む、音頭は口説節で浄瑠璃もの中心
岡山県高梁市「松山踊」、真庭郡八束村川上村「
大宮踊」、島根県鹿足郡「津和野踊」
途中てんこという変装者加わるなど仮装の発想あり
亡者送りをにぎやかにした、徳島県「阿波踊り」(阿保踊、ばか踊)、瀬戸内の盆踊り、広島県三原市「やっさ踊」
雨乞い踊りが多く、香川県の「左文の綾子踊」「滝宮念仏踊」「南鴨念仏踊」

九州、沖縄
笛や太鼓や鉦で賑やかに囃し踊る、浮立(=風流)
佐賀鹿島市七浦町音成の面浮立が有名
「両岩の小浮立」、長崎県「坂本浮立」、鹿島市「浅浦の面浮立」
佐賀県武雄市西川登町「高瀬の荒踊」の奴踊り
大分県大野郡野津町「西神野風流・杖踊」の杖踊り
熊本県人吉市「大塚の棒踊」、「八代市の棒踊」
、沖縄県にも広く分布
盆踊り「エイサー」などの腰鼓の太鼓踊り
福岡県山門郡「幸若舞」、八女市「灯籠人形」





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