書評 くもん出版『大坂城のシロ』
今回は、くもん出版『大坂城のシロ』をご紹介しよう。
著者は、童話作家のあんずゆきさん。
表紙のイラストは中川学さんの作品で、帯には「中学生から読める歴史エンタメ」「大阪市内や大阪府の北部 能勢町の言い伝えをもとにしたお話」とある。去年12月に発売された。
あらすじ
「シロ」と名付けられた白い犬が主人公。
豊臣秀吉の大坂城には、朝鮮出兵で捕獲された虎が飼われていた。
虎の餌にするため、大坂中の犬が捕まえられ、北部の村で可愛がられていたシロもついに大坂城の虎の檻に入れられてしまう。
対峙する虎と犬のシロ。その運命や如何に!?というお話。
村で暮らすサチとシロとの出会い、そして悲しい別れを経て、
虎との壮絶な戦いの末に待っていたものとは!?
読後感爽やかな歴史エンターテインメントに仕上がっていて、小学校高学年~中学生向けに書かれたものだが、大人も楽しめる。
さて、本当に秀吉の大坂城には虎がいたのか!?
朝鮮出兵にまつわる虎退治の話で有名なのは加藤清正だ。
他の武将も競って虎退治をしていて、毛皮や肉を秀吉に送っていたそうだ。
だから、生け捕りにした虎を大坂に送った武将がいても不思議ではない。
また、能勢町の歴史を記した能勢町史にはこうある。
「秀吉の命によって、挑戦に出兵した黒田長政の家臣、後藤又兵衛は、槍の名人とその名を知られただけあって、トラを生け捕った。又兵衛は、わが国では見たこともないトラを、大坂城の関白豊臣殿へ送り届けた。秀吉は、トラが生肉を常食とすることから近在の犬を調達し、餌にあてさせた。」
具体的に書かれている。
さらに、吉川家に伝わる吉川家文書には「吉川広家に対し、秀吉の家臣・木下吉隆が、広家が献上したトラを秀吉が「庭上(ていじょう)にお下りになり、ご覧になって感動したこと、豊臣秀次、徳川家康、前田利家や、秀吉のお咄衆も見物した。」とあり、吉川家文書には「豹」も献上したと書かれている。
その他「大坂城内にて猛犬、トラと闘う」という記述が明治時代に書かれた霊獣奇譚にも見られる。
くもん出版『大坂城のシロ』。
人の命が木の葉のように軽かった戦国時代のリアル、その中で結ばれた人間と犬の絆が生き生きと描かれている。
京阪神を中心に書店で好評発売中(税抜き¥1,400)。
大阪はもちろんですが、全国の小中学校の図書室に置いて欲しい作品だ。
是非手に取ってみて頂きたい。
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