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最近の記事

伊勢原_1

9時前に新宿駅に着いた。元旦の構内はそれなりに空いていた。 毎年祖母の実家には父の車で向かっていたが、 今年は大晦日に実家まで帰れず、 僕だけが都内から電車で伊勢原に住む祖母の家まで向かうことになった。 急行でも十分座席は空いていたが、久々にロマンスカーに乗りたくなった。 昔、まだ僕が小学校に上がる前の頃、兄と一緒にロマンスカーに乗って、 祖母の家まで向かったものだった。 子どもだけで電車に載せるあたり、いかにも父と母らしいというか。 自立心を育てる為に敢えてそうさせたの

    • アルタ前_4

      「おう」 どのタイミングで僕に気づいたのか。 僕が近寄るとKの方から声をかけてきた。 僕が何か言おうとするよりも前に、 Kは僕をそれ以上見ることもなく、歌舞伎町方面に歩き始めた。 ・・・ (そういう話をしているんじゃないんだ) ひとしきりKが話し終えて、僕が何かを言った後だった。 恐らく的を射ていなかったのだろう。よそよそしさに満ちた他人を振る舞うかのように、Kは僕に対してこれ以上無いほどの冷たい視線を浴びせた。 僕も無性に腹が立った。何が気に食わないんだ。 それ以上会

      • アルタ前_3

        何故このタイミングなのだろう。 もやもやした気持ちを抱えながら地下道をひた歩く。 (遥か彼方の記憶として、少しばかりの引っかかりをもって 蓄積されたものにすぎなくなった) 連絡を取ることが減り、互いのことを思い出すこともままならなくなった。 Kに限らずだが、多分そのようにしてかつての旧友を忘れていく。 結びつきのようなものが、気づいた時にはさびだらけになっている。 18:38。アルタ横の階段から地上に出る。細かな霧雨がほの白く辺りを覆いつ くしている。電光掲示板やネオンの

        • アルタ前_2

          二十歳になった時、10代が終わってしまったことを まるでこの世の終わりのように、絶望的に捉えていた。 僕とKは、大学からほど近いコンビニで温かい缶コーヒーを買い、 Kの車で二十歳を迎えた心境を語りあっていた。 酒やタバコは誰に咎められる訳でもなく享受できること。 同時に、もう言い訳が効かないこと。 学生とはいえ大人なんだと否応なしに突き付けられている感覚。 ただ、おそらくこのどうしようもない、くだらない性分は 自分たちが30になったとしても、多分、きっと同じなんだろうとい

          アルタ前_1

          階段の一段目に足をかけて そのまま駆け上がり外に出ようとしたが、止めた。 雨が降っている。 地上から感じる湿り気で、なんとなくそう思った。 目の前の中高年と思しき背の低い女性が 小さめの鞄から傘を取り出している。 横目に灰色のパーカーを羽織った細身の男性が ビニール傘を畳みながら駆け降りている。 すぐに振り返り、それまでの人の流れとは逆行する形で、 元来た道を一旦戻る。 18:30にアルタ前で待ち合わせている。 JR新宿駅のプラットホームに着いたのが18:24。 アルタ