伊勢原_1

9時前に新宿駅に着いた。元旦の構内はそれなりに空いていた。
毎年祖母の実家には父の車で向かっていたが、
今年は大晦日に実家まで帰れず、
僕だけが都内から電車で伊勢原に住む祖母の家まで向かうことになった。

急行でも十分座席は空いていたが、久々にロマンスカーに乗りたくなった。

昔、まだ僕が小学校に上がる前の頃、兄と一緒にロマンスカーに乗って、
祖母の家まで向かったものだった。
子どもだけで電車に載せるあたり、いかにも父と母らしいというか。
自立心を育てる為に敢えてそうさせたのだろう。

ただ、僕はいつも兄の後ろをついていくだけで、
覚えているのはロマンスカーの赤みがかった車体や
窓際に備え付けられている面長な折り畳み式のテーブル、
蛇腹のカーテンだったり、断片的で細々とした記憶ばかりだった。

当然切符の買い方も分からず、その頃には既に自分で切符を買えた兄とよく比べられ、なんとなくそれが面白くなかった。


僕は電車が苦手だった。どこに向かっているのか、
自分が今どこにいるのか見当がつかなくなり、不安になった。
母の手に連れられ、ただ人の往来をすり抜け、電車を乗り降りする。
母に行先を聞いて説明されてもいまいちピンと来ず、
余計に落ち着かなくなった。

地下鉄は特に苦手だった。
それまで太陽の光が煌々と照らされた道を歩いていたかと思えば、
少し階段を下ると、格子状のタイルが組まれた壁や床の無機質な空間が
広がり、どこまでもうす暗い通路が続いている。
あのよそよそしさがなんとも言えず嫌いだった。

ホームで電車を待っていると、次第にどこからか風が吹き、
僕の髪や衣服をなびかせた。
けたたましい金属音と新堂が僕の足元に伝わる・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?