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パンデミックとビール、あるいは2020年の東京

Chim↑Pom
個展
May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic

この個展は二つのプロジェクトで構成されている。

「May, 2020, Tokyo」

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東京2020オリンピックが
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け延期となり、
緊急事態宣言が出された五月の東京を舞台にしたプロジェクト。
「Stay Home」の状況下で
Chim↑Pomがその瞬間の東京の街に目を向け制作した作品による
インスタレーション。

「Tokyo 2020」
「新しい生活様式」

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この文言が東京のいくつかの場所に掲げられている。
それは自粛という名の強制によって息絶え絶えとなった東京の
本来起こっていただろう狂騒の時と、
これから強いられる(ように仕向けられる?)
得体のしれない行動規範のようなものが
現在進行系で街のあちこちに潜んでいる様相を見るがごとくだ。

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「 A Drunk Pandemic」

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これは長い物語だ。
2019年に、マンチェスター・インターナショナル・フェスティバル(MIF)の一環として制作・発表された作品を、主に映像によって振り返る作品群。
このプロジェクトは、イギリス・マンチェスターのヴィクトリア駅地下にある巨大な廃墟のトンネルで展開された。

コレラ・パンデミックがイギリスにも広がり、マンチェスター地下(現在のヴィクトリア駅地下)の廃墟に埋葬された。

コレラは、烈しい嘔吐や下痢を引き起こし、身体から水と電解質が失われ、最終的に脱水症状が原因となって死に至る。

イギリスではこのとき、ビールを飲むものに比較的感染者が少ないことが確認された。それは醸造の過程に煮沸があるからだ。水よりも安全な飲み物になっていたのだ。

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このコレラの流行を機に、公衆衛生が前進する。排泄物、嘔吐物が感染の大きな原因だったからだ。

Chim↑Pomは、廃墟に「ビール工場」を設置し、オリジナルビール「A Drop of Pandemic」を醸造する。といっても映像を見ると、醸造経験者が主導し、メンバーはそのプロセスに補佐的に関わっているように見える(まぁ、そうでなければ人々に提供できるレベルのものはつくれない)。

パブをもしたスペースで、そのビールを楽しんだ人たちの尿は、下水管を通って集められ、その尿とセメントを混ぜたレンガがつくられた。

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このレンガは、実際の街の修復が必要な箇所に埋め込まれ、あたかもコレラで傷んだ街を癒やすかのように、欠落を整えていく。

これを新型コロナウィルスのパンデミックにあってはめて考えると
どんなことが言えるのだろう。

われわれは菌を利用し発酵から得られるものを享受してきた。
しかし時に菌やウィルスによって死に追いやられる。
都市は臭いものに蓋をし続けてきたが、蓋を開ければ、
依然として目に見えぬ微細なものたちは蠢いている。

世界が一都市であるようなグローバリズムの現代で、
そのグラデーションや凹凸、有無や可不可を活かしながら、
パンデミックに立ち向かうのは至難の業かもしれない。
あるいは、それらを失ってまで一様で平板な世界を実現したとしても
菌やウィルスを抑え込める保証はない。

最後のコーナーでは、「A Drop of Pandemic」を楽しむ現地の人達の様子が映し出される。それは一体どんな味なのだろうか。

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