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複眼的なひとつのせかい。

小西景子「水の影、光の粒子」

染谷さんのギャラリーに最初に伺ったのは
三瓶玲奈さんとやましたあつこさんの展示のときだった。
このとき、実は会期に間に合わず、
三瓶さんから教えていただき、染谷さんと連絡をとって
会期後にギャラリーを開けていただいて拝見した。

四階まで階段を登り(エレベーターはない、しかもなかなかに急な階段だ)、ドアを開けると、染谷さんが時間に合わせて待っていてくれた。

もちろん目的は、
三瓶さんとやましたさんの合作展を拝見することだったが、
染谷さんと話した時間、一時間ほどだったろうか。
そのことが非常に印象に残っている。

息を切らし気味にドアを開けると
小さな襟の白いシャツを着た女性が椅子から立ち上がった。
作家である小西さんだった。
その奥から染谷さんが、小さなカウンターを回り込むようにして顔を出す。

展示のペーパーをもらい、会場を見渡しながら
小西さんと少しずつ話し始める。
お互いにマスクをしていて、より一層手探り感満載で。
それはまるで、パーティ会場で偶然話し始める見知らぬ者同士のようだ。

小西さんは、2017年3月に京都市立芸術大学大学 修士課程 絵画専攻(版画)を修了した作家だ。
「市立(いちりつ)の方です」と彼女は言って、きっとマスクの下で微笑んだ。
「ややこしいよね」と染谷さんも笑った。
染谷さんは、日本のほとんどの美大の卒展を巡っているそうだ。すごい。そして京都で小西さんと出合った。三年前にもTAKU SOMETANI GALLERYで小西さんは個展を開いているそうで、東京で個展を開くのは染谷さんのギャラリーだけだという。

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彼女の作品は、シルクスクリーンを使って水彩絵具で刷ったあと、水彩絵具部分を水に開放し、代わりにマーブリングという技法を用いて、水分に反発する描画材を展開し、それを転写する。すると多層的で偶然に満ちた作品が姿を表すというものだ。

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もう一つの作品群は、彼女のサイトによれば、つぎのような成り立ちをもつものらしい(説明をお聞きしたが、記憶がかなりあやふや)。


「カラープリントした写真の上からシルクスクリーンによって別の画像を載せて、表面にマチエールをつけることでイメージの読み解きを困難にする作品」(作家サイトより

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この作品たちの中には、手のひらや瓶といった具体的なものが確かに存在している(写真は、多分に映り込みが激しい)。が、そこにシルクスクリーンによって思いもよらぬイメージが付与されることで、それはどこか遠いところにあるもののように見える。時間的にも空間的にもだ。色彩がないことも影響しているのかもしれない。どこか、ハマスホイの絵画の世界のような届かなさを感じる。

小西さんは随分と丁寧に話をしてくれたように思う。主に技法のことについて尋ねてしまった気もするが、彼女の世界観を受け取ろうとすると、それはすぐにはわからなくて、後からじんわりと心のなかに広がってくるような気がする。


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