見出し画像

音楽エッセイ:STINGのブルー・タートルの夢というアルバムのこと

2020年11月3日筆

1985年に発売されたこれは私が初めて自分の金で買ったCDだった。
(レコードの話はまた別、時代はレコードからCDへの過渡期だった)

STINGのアルバムではNothing Lile The Sunが一番好きなのだが、今はこのアルバムのことを話したい。

POLICEのことはもちろん知っていて、Every Breath You Takeがヒットしていたことも知っていたが、そのバンドにはさほど思い入れはなかった。

Every Breath You Takeはむしろ敵愾心を掻き立てる歌だったし、それなのに何故、このアルバムを買ったのかというと、たまたまラジオで流れた、このアルバムに入っていた「Russians」に衝撃を受けたからだ。

ロックというのが革新と反抗の歴史を刻んでいるのは知っていた。
けれど周りに流れるのは腑抜けたラブソングばかりで、恋愛以外の愛を描いたメッセージソングを耳にすることはほとんどなかった。
MTVもまだの時代、洋楽も、日本のチャートに上がってくるものはそんなものばかりだった時代に、ラジオで、夜、この曲を聞いた。

画像1

歌詞を一部引用する。

How can I save my little boy from Oppenheimer's deadly toy
There is no monopoly in common sense
On either side of the political fence
We share the same biology
Regardless of ideology
Believe me when I say to you
I hope the Russians love their children too

オッペンハイマーの死の玩具から我が子を救うにはどうすればいい
常識では考えられない
政治的主張がどうあろうと
我々は同じ生物学を共有している
イデオロギーに関わりなく
信じて欲しい
ロシア人もまた子供たちを愛していると

(和訳:高梨)

東西冷戦の時代だった。
ハリウッド映画ではソヴィエトが悪に描かれるのが常で、アメリカへの懐疑を抱えながら共産主義にも共感できず、いつか過ちで核のボタンが押され、第三次世界大戦が始まるのかもしれないと思わされていた。

ブルー・タートルの夢の一発目に入っていたIf You Love Somebody Set Them Free(セット・ゼム・フリー)は好きではなかった。

POLICEを非常に引きずっているように感じられたからだ。
今更評価を見たら、軒並みソロ初の非常に素晴らしい楽曲扱いで感性の違いに驚くが、改めて今更知ったのがこれがEvery Breath You Takeに対する、アンサーソングだった事実で「ずっと見つめていたい見張りたい」という前者に対し、「セット・ゼム・フリー(自由にしろ)」というものだったらしい。
POLICE時代の曲に呼応しているという意味では、まあ合ってたらしい。

脱線したが、このアルバムにはこのRussians以外にも政治、反戦の色の非常に濃い曲が数曲ある。

主義主張がはっきりしているからいいという話でもないのだ。
だが、当時私があの曲に衝撃を受け、音楽の持つ役割を真剣に受け止めるようになった一曲のことを、ここに書き留めておきたい。

I hope the Russians love their children too



もしサポートをして頂けたら、とても嬉しいですし、そのサポートは他のクリエイターにも循環させたいと思っています。