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【11話】小春麗らか、希(ノゾミ)鬱

3-4 球技大会そのさん



「ピーッ!」

 試合が始まった。試合はこれまでとは変わり攻められて防戦一方だった。相手のほうがボールコントロールがうまい。さすがに部活メンバー相手では分が悪いか。フォワードの二人も下がって守りに徹する他なかった。攻めるチャンスは前半一度もなく、そのままハーフタイムを迎えた。球技大会だから前後半はそれぞれ二十分だ。つまり残り二十分で優勝のすべてが決まる。しかしここまでは勝てそうにない。攻められてばかりだ。

「咲くん、咲くん。頑張って。ファイト!」

「……小春。なんだ、こっちに来ていたのか」

「はい。女子は一回戦で負けてしまいました」

「そうか。それなら、仕方ないな。でもな、こっちも相手がやたらと強いんだ。奮闘してはいるが、なかなか厳しいかもしれない。優勝まであと少しなんだけどな」

 俺は小春とふたりで話しをしていると、そこに祐希がやってきた。

「なになに、二人で話しちゃったりして。恋の密談? いいねー、おあついねー、お二人さんは!」

「何の冗談だよ、祐希。やれやれ。ほら、そろそろ試合が始まるぞ」

 コートには人が集まって来ている。外野の数も増えた。決勝戦だからだろうか。みんな注目して見に来ている。中には声を出して応援する者もいる。そうだ、クラスの優勝が掛かってるんだ。チャンスを少ない中でも見出して、なんとか決めきりたいところだ。

「ピーッ!」

 後半が始まった。最後の二十分だ。試合始めから早々に、攻められてシュートを打たれる。なかなか危なかった。くそう、変わらない。やられてばかりだ。

 ゴールキックからボールがディフェンスへと回り、祐希にボールが渡る。うまいことやってひとり、ふたりと躱し、ボールを進ませ、やがてパスがこっちへ回ってくる。チャンスだ。良いところに某炎寺も走っている。俺は頃合いを見計らってクロスを上げると、某炎寺が飛んだ。

「フレイムシュート!」

 火の出そうな勢いのその球は、そのシュートはゴールの隅を捉え、そしてそのままーー。

「ああーっ、くそっ。惜しい。入らなかったか」
 

 残念ながらゴールキーパーに阻まれ、ゴールならず。試合は逆にゴールを決められて劣勢に。そのまま、うまくいかずに試合終了。球技大会は準優勝で幕を閉じ、祐希の軽音楽部復帰は見送りとなった。

「あーあっ、ちくしょう! 最悪だぜ。あと少しだったったてのによ」

「まあ、しょうがないさ祐希。また機会もあるだろうよ。それまで、またこうしてここで音楽やればいいじゃないか」 

「まあな? 屋上での音楽も、悪くはないんだけどな。だけども、やっぱりな……」

 球技大会の終わり、その放課後に懲りずに今日も屋上に集まっていた二人。女子二人は委員会で忙しいらしい。それは仕方ないよな。

「うごーっ! くそーっ、くやしーっ!」

 祐希はどうしても軽音楽部に戻りたいらしかった。しかし、俺にはここでこうしていても同じじゃないか、むしろ屋上で一緒にやっていたほうが楽しいんじゃないかと、そう思えてしまう。いや、そうであってほしいと思っているのだ。俺はわがままなやつだから、そんなことを考えるのだ。俺の居場所をキープするために、このままであってくれと、そう願わざるを得ない。そんなやつなのだ。俺はふーっ、とため息を付いた。

「祐希、明日からゴールデンウィークなんだから、あまり気の滅入ることを言うなよな。軽音楽部への復帰はまた機会があるって。それまでここで音楽をやればいいじゃないか。俺もこれまで通り付き合うからさ」

「まあ、そうなー。それもそうなんだよなー」

 仕方ないよな、仕方ない。そう言い聞かせるようにして、祐希は今日もギターに手を伸ばした。球技大会の日くらい休めばいいのにと思うが、ゴールデンウィークでしばらく聞くことができないと思うと、惜しみなく聞きたいという、そんな気分にもなるのであった。

 



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