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「麒麟がくる」の主人公・明智光秀とは何者なのか? 謎に包まれた前半生を探る

2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」をご覧になっている方も多いでしょう。私も毎週楽しみに視聴しています。長谷川博己さん演じる主人公の明智光秀は、美濃(現、岐阜県)の国衆・明智氏の一族で、斎藤道三(さいとうどうさん)の家臣。生真面目で鉄砲に関心があり、剣の腕も確かながら、女心にはうといというキャラクターで描かれています。しかし、実際の光秀の前半生は、実はほとんどわかっていません。本日は、そんな謎に包まれた光秀の前半生を探る記事を紹介します。

大河ドラマ「国盗り物語」の光秀

明智光秀といえば、主君の織田信長(おだのぶなが)を討った本能寺の変があまりにも有名です。光秀がなぜ謀叛を起こしたのかについては、信長からさまざまなひどい仕打ちを受け、その怨みが大きな引き金になったと古来語られてきました。

ちなみに私が明智光秀という人物を初めて知ったのは、昭和48年(1973)放送の大河ドラマ「国盗り物語」においてでした。当時、小学校に入ったばかりの私は、ストーリーはよくわからないものの、近藤正臣さん演じる光秀が、高橋英樹さん演じる信長につらく当たられる様子に、同情と共感を覚えていたようです。特に敵の頭蓋骨を盃にして、光秀が無理やり酒を飲まされるシーンは、強く印象に残りました。

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光秀は信長にいじめられてはいなかった?

こうした信長の仕打ちを恨んだ光秀が本能寺の変を起こしたということは、江戸時代から語り継がれ、芝居などでも演じられて、最近までそれが光秀の動機と信じられていました。しかし実は信長のひどい仕打ちが記されているのは、ほとんどすべて後世の編纂(へんさん)物であり、光秀が生きた当時の同時代史料からは確認できません。

つまりどういうことかというと、江戸時代の読み物や芝居が、読者や客の関心を引き、共感を呼ぶために脚色した俗説が流布(るふ)し、それが今もドラマなどで描かれて、私たちもそれを疑わずに信じてしまっているということなのです。「えっ?」と思いませんか。では、本能寺の変の動機は何であったのか。その謎についてはまた、機会を改めて紹介したいと思います。

ほとんどわからない光秀の前半生

本能寺の変もさることながら、光秀の前半生も実は謎だらけです。

「麒麟がくる」では、光秀は明智城主の息子で、父親が早世したために父の弟・明智光安(みつやす、演:西村まさ彦)が城を預かり、生母の牧(まき、演:石川さゆり)も健在です。また父の妹の小見(おみ)の方が斎藤道三(演:本木雅弘)の室となり、帰蝶(きちょう、演:川口春奈)を生みました。従って光秀と帰蝶はいとこになる、という設定です。これらは江戸時代に書かれた軍記物『明智軍記』などに基づくもので、同時代史料からは一切確認できません。では、光秀の前半生はどこまでわかるのか。それについては和樂webの記事「2020年大河ドラマ主人公・明智光秀とは何者なのか? 謎に包まれた前半生に迫る」をぜひお読みください。

実際を知った上でドラマを楽しむ

いかがでしたでしょうか。明智光秀の前半生がいかに謎に包まれているか、おわかりいただければ幸いです。前半生もわからず、本能寺の変の動機も謎であり、さらにその最期についても不明な点が多い光秀。知名度がありながら、これだけ謎の多い人物も珍しいかもしれません。逆に、そうした人物がよく大河ドラマ主人公に抜擢されたものだ、とも感じます。

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ただ私は、わからない部分が多いからドラマにすべきでないとは思いません。歴史研究とドラマは目的が別のものです。歴史研究は史料をひもとき、こつこつと史実を積み上げて実相を明らかにしていくものでしょうが、ドラマは歴史を題材にした物語であり、人間たちを描きながら何らかのメッセージを伝えることに主眼があると考えます。とはいえドラマにも時代考証が入り、最新の研究成果を映像に盛り込んでいる部分もあります。ですから、ドラマを観て、史実と違うと目くじらを立てるのではなく、「あ、この部分は研究成果を盛り込んで、ドラマにリアリティを出そうとしているな」ぐらいの感覚で観るのがちょうどいいのではないでしょうか。実際のところを押さえつつ、謎の多い光秀をどう描くのかを注視する。それも「麒麟がくる」を楽しむ一つのスタンスではないかと思うのです。

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