BLUE GIANT─言葉の衝撃に貫かれた3月某日
横っ面を張り倒され、そのあと思い切り抱きしめられた感覚──。
それが私の『BLUE GIANT』の感想、いや体験である。
実際、誰かに張り倒されたことなんかないけれど、多分、そういう衝撃だった。
『BLUE GIANT』はビッグコミックで2013年から連載された石塚真一によるジャズを描いた漫画。このシリーズはまだ完結していない(2023.3.25現在)。アニメは今年2023年2月から公開されて今も上映中である。
とある理由からこの作品を避けていた。でも遅ればせながら3月半ばに『BLUE GIANT』コミックス10巻を一気読みし、映画館へも足を運んでしまった。
ジャズバンドを組んだ若者3人が東京で奮闘する物語である。
独学でサックスの練習に打ち込む仙台の高校生・宮本 大が、卒業後に東京で出会った天才ジャズピアニストの沢辺雪祈、ドラムを始めたばかりの旧友・玉田とバンドを組み、自分たちが信じる本物のジャズを目指す。
ストーリーは勿論、面白い。でもそれが話したいのではない。
今日は冒頭で書いたような、痛くて甘い衝撃のことを。
ジャズの話しではなく、書くことについて話したい。
オススメ映画・漫画の紹介記事でなくてゴメンナサイ。
予想外の衝撃に襲われたのは、コミックスの第7巻。
天才ジャズピアニスト雪祈の演奏について、ジャズライブハウスの殿堂「SO BLUE」支配人の平が厳しく言い放った。
「君のピアノは、つまらない」と。
追い打ちをかけるようにこう続ける。
内臓をひっくり返すくらい
自分をさらけ出すのが
ソロだろ。
私にとってこれが『BLUE GIANT』のすべてとなった。
内臓をひっくり返すくらい
自分をさらけ出すのが
ソロだろ。
この言葉が何度もリフレインする。雪祈に向けられた言葉なのに、今、私を直撃している。
これはなんだ。なんなんだ。
内臓をひっくり返すくらい
自分をさらけ出すのが
ソロだろ。
横っ面を張り倒されるような鋭い言葉。目を背けたいが、瞳が食らいついてそれを許さない。言葉が痛くて泣きそうになる。
私のソロとは。─それは書くことだ。書いて書いて、書くこと。
どこかに迷いがあった。
書くことは楽しい。
でも好きなことを書けば書くほど、なにか自分を追い込んでいるようで、
自分のなかの見せなくてもいいなにかを突拍子もなく晒しそうで怖かった。
それが「書く」意味だとは分かっている。
仕事では決して書くことのない自分自身。それを綴るために始めたnote。
でもいつの間にか、見たくないイヤな自分自身にも出会っていた。
妬み、傲慢、天の邪鬼。どこまでいっても足りない薄っぺらさ。
自分という海原に、そんな景色も広がっている。
そうなると厄介で、自分を飾ろうとしてしまう。
滑稽だ。アホらしくてやってられるか。
かつて、こんな私を「一回死ね」と言葉汚く叱ってくれるサークルの先輩がいた。
彼女はどうしているだろう。
あのひとたちはどうしているだろう。大好きだった昔の友人たち。
もう一度、彼女たちに会いたくて頼りたくて話したくて泣きたくて、記事の中で再現した。それでもまだ迷いはとれない。
内臓をひっくり返すくらい
自分をさらけ出すのが
ソロだろ。
また、この言葉の波が押し寄せる。
でも、今度は違う。
ふわりと体が軽くなった。包み込まれる感じがして、深く息をついた。
そうか、これでいいんだ。何も考えずにソロを奏でれば。
自分に向き合うのは怖い。誰だってそうだろう。
それだけのこと。
ジャズのソロはアドリブ。そのときどきの気持ちや興奮が表れる。
私もただ、自分の「今」を、オドロキを憧れを、焦りを妬みを烈しさをアホらしさを、そして全ての愛を、熱気を、ただぶつけることだけを考えよう。
自分自身の熱狂に出会う瞬間こそが、私が書き続ける理由だから。
コミックス第7巻の平氏の言葉に救われたのは私だった。
漫画や文学、映画は、時に弾丸級の衝撃を放つことがある。
『BLUE GIANT』は世界観もストーリーも好きだけれど、もっと深い関わりを持てた作品として、特別な存在になってしまった。
結局、その日のうちに10巻全部読了し、映画も観に行った。
映画はほぼライブステージ状態。ラストの思わぬサプライズに、それこそ熱狂の嵐に包まれた。
上映終了までまだ少しは日がありそうだ。
もう一度、足を運ぼう。
映画を観るというより、音に会いに、ライブに出かける感覚で。
最後に。
ジャズが大好きで聴かない日はない。自分の世界観を壊したくなくてこの作品を避けていた。つまらない考えだった。さっさと作品を楽しめば良かったと思う。
作品のなかで主人公の大は、ジャズは熱いと言っている。
私にとってのジャズは、熱さもあるけど心地よさ。思い出。憧れ。せつなさ。踊り出したくなる楽しさ。今、この記事を書きながら流れているのは、スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス。
人それぞれのジャズがある。
何を聴いても、何から聴いても構わない。
文章だって同じだ。楽しんで奏でる。
音が途切れると寂しいように、言葉が途切れるのはやっぱり寂しい。