文芸サークル青春白書 1 〜愛すべき先輩、ジョンさんへ
本が好きで読書が好きで考察が好き。
noteに文芸記事を書くのもすごく楽しい。
私が書くことに闘志を燃やすのは、やっぱり高校文芸サークルの影響だろう。
元祖・腐女子の巣窟のようなサークルだったが、活動は熾烈だった。
たった7人の私設サークルながら、
同人誌の編集・執筆に明け暮れ、
資産家の娘を勧誘し、お宝蔵書を漁りまくるお宅拝見活動に勤しんだ。
この活動を牽引していた先輩がいる。
呼び名をジョンさんといい、その名の通りジョン・レノンを敬愛している女子だった。ロン毛に丸メガネ、黒ジャージの襟を折り返してのトックリ仕様。春夏秋冬、年柄年中、このスタイルで通した筋金入りの非モテ女子。
ジョン先輩は、牽引と言うよりハチャメチャに暴れまくっているだけの人だった。まるでSOS団の涼宮ハルヒのようだが、ジョン先輩にその例えは酷すぎる。ハルヒファンに殺されそうだ。
影響力の大きさは認めるが、まったく尊敬できない先輩だった。ヘンなことばかり教わったけど、印象だけは強烈である。
だからジョン先輩のこと、noteに綴ろうと思う。
本人の許可はとっていない。
大体、本人、生きているのか死んでいるのかわからない。どこで何をしているか、誰も情報を持っていないのだ。
ジョン先輩、きっとどこかで生きててや。
先輩がただのアホか、それとも偉大さを秘めていたのか、書きながら見つけていくわ。あれもこれも書かせてもらうわ。
「そんなこと暴露すんな!」って、怒って名乗り出てきてくれへんかな。
ジョン先輩のたくらみ譚
ジョン先輩のことを思い出したのは、前回、田山花袋の『蒲団』の記事を書いたことがきっかけだった。
高校時代、文芸サークルでも『蒲団』は話題だったのだ。
正しくはジョン先輩ひとりが騒いでた。女子高生にはこんなダサいタイトルの近代文学なんかどうでもいい。自然主義属性の要点と文学史での影響だけをサクッと頭に入れてスルーしたい。
でもジョン先輩は熱かった。
ジョン(高3)
「授業では『蒲団』の内容に触れへんかったやろ」
ハルカ(高2)
「今から筒井康隆読むんで、近代文学どうでもいいです」
サークル部員一同、一気に「それってナニナニ?」と『蒲団』への興味に沸き立つ。いや、ジョン先輩は自分が喋りたいから煽っているのだ。
そんなことを言う先輩、まだ1度も男子と付き合ったことがない。
非モテ女に説得力はないのだが、我々はまんまと煙に巻かれてしまった。
ジョン先輩によると、『蒲団』のキモは、処女性の保存にあるという。
これは我々純真な乙女にとって力強いエールだった。
無理やり大人の扉をあけなくていい。
今にして思えば、先輩は自分に都合良く解釈しているだけだった。『蒲団』の本質はそんなものではないし、むしろ間違っている。先輩は自分を、そして我々を肯定する方便として『蒲団』を利用したのだ。
でもこのときのサークル部員の晴れやかで穏やかな表情といったらなかった。
「良かったなあ」「ほっとしたわ」「ウフフ」
「酒とセックスかー。私はいつでも溺れる覚悟でおりまっせー」
南米帰りの帰国子女、牧野さん(高2)が歓喜している。
彼女もまた相当なクセモノであり、スペイン語の隠語を我々に伝授しまくる人だった。脳髄に染み込んでいるので今でも覚えているが、言ったところで誰に褒められよう。
ジョン先輩がこんなことを言うのには理由があった。
彼女はアメリカン・ニューシネマ(反逆とフリーダムの映画群)に凝っていたのだ。だから「暴力・セックス・ドラッグ」が青春三種の神器なのである。勿論、ただの耳年増。かぶれ具合も甚だしい。
その影響を受けないよう、私はそれこそ親の前で口を滑らせないよう細心の注意を払っていたが、先輩は事あるごとにこの言葉を近未来の目標として連呼した。
迷惑極まりない。
当時は映画配信どころかビデオもない。京都では美松劇場や祇園会館の3本だてに通い詰めるのがお約束。映画鑑賞に小遣いをはたき、記憶装置としての脳をフル稼働させていたジョン先輩。それこそ思い入れはひとしおだったに違いない。
同じようなことを言うヤツを、私はもうひとり知っている。現夫だ。
「オレは中学時代に暴力とセックスとドラッグは全部制覇した」
これ、翻訳するとアメリカン・ニューシネマの作品群を見倒したってこと。
中二病は昔からあったのだ。伊集院光が命名する前から、中二病をこじらせる若者で地方都市はムンムンしていた。
いっそ現夫とジョンさんが結婚すれば良かったのではないか。
ふたりで『イージー・ライダー』とか『バニシング・ポイント』で沸きまくれ。
ジョン先輩のひらめき譚
話しを戻そう。
実はジョン先輩、我がサークルの部長でもあった。
我が校は、はばかりながら女子高である。お嬢様学校などと呼ぶ人もいた。そんな中でセックスとかドラッグとか堂々と口にし、教師の前や生徒会で主張する反逆者、ジョン先輩。
今昔物語のエロネタを拾って現代口語訳の同人誌を我々に作らせたり、先輩はいかがわしいことにかけるエネルギー持続率がすこぶる高かった。
わが文芸サークルが正式クラブへ昇進できなかった大きな要因である(と思う)。
『蒲団』については他にもクドクド語られ忘れていたが、最近読み直し、先輩の言葉を鮮明に思い出した。
このコトバ、今となっては私の考えが付加されている気がしないでもない。
でもアガサ・クリスティとポワロのくだりは、確実にジョン先輩のオリジナルだ。
了(1)
(不定期にまだまだ続く)
●「蒲団」のことをジョンさんではなく、私なりに綴った記事↓
●この記事には、別の観点から文芸サークルのことを綴っています↓