夏はワクワクミステリを。子供の頃の興奮、再び。
夏、真っ盛り。
涼を求めて図書館で読書なんて方、けっこういらっしゃるかも。
そんな図書館の本にも、思わぬガッカリがあるものです。
コーヒーの染みがついていたり、ページが破れていたりとか……。
いえ、これは「たとえば」のお話し。
実は図書室本にまつわるオモシロ小説を見つけたんです。しかもnoteで。
山田星彦さんが書かれた創作小説『小学生探偵 小寺理緒』です。
お話しはこんな感じ。
この物語、シンプルで読みやすい文体に、コミカルで二転三転する展開。
最後まで飽きずにズンズン読み通せます。
というわけで、今日はこの『小学生探偵 小寺理緒』の面白さを語りたいと思います。
推理小説に犯人名のラクガキなんて、殺人より気になる事件!
ネタバレになる結末や詳しいストーリーには触れません。未読の方も安心してお読み下さい。
◉1 子供の頃に戻る感覚
主人公の理緒は探偵小説マニアですが、探偵としては新米です。
足で情報を稼ぎ、本好きの友光先生や友だちと話したことをヒントに、ラクガキ犯を絞っていきます。
まるで、理緒と一緒になって学校で捜査をしているような読み心地。
あるいはミステリの読み手さんなら、理緒よりずっと早くに“犯人と思しき人物”をマークするでしょう。それでも全然シラケることはありません。
ストーリーは二転三転して思わぬ方向に転がりますし、マークした犯人だって最後まで確信が掴めない仕組みになっています。
とにかくワクワク感でいっぱい。
子供の頃に戻って、夢中で駆けずり回った楽しさが蘇ります。
◉2 魅力的な登場人物
個性豊かなキャラクター(登場人物)たちのおかげで、物語世界がとても楽しいんですよ。
ちなみに私のお気に入りは横溝正史好きのダニエルくん(アメリカ人)。
ほかにもひとクセありそうな生徒たちが登場してくれます。
キャラクターの魅力は作品世界を彩る大きなパワー。読み直して、もう一度会いたくなってしまいます。
◉3 謎は、日常にこそ潜んでいる
この物語は、犯人が巧妙に仕掛けたトリックを楽しむものではありません。
日常の中には、たくさんの見落としや勘違いが溢れています。
“真実“はそんな中にひっそり影を潜めている。
それを丁寧に見つけ出すのが、この物語の謎解きです。
例えばこんなこと─。
理緒はラクガキされた推理小説の図書カードに注目します。
そこからラクガキ犯を絞り出し、最も怪しい人物に辿り着きます。
でも、学校内にそんな人物は存在しない……。
転校したとか偽名だとか、そんなことじゃありません。
これこそ、日常の落とし穴。
こんなことあるなと、膝を打つようなカラクリです。
(答えは記事では言えません)
さてさて、物語はココから面白さに拍車がかかります。
◉4 謎が二転三転する面白さ
ラクガキ犯探しは難航します。しかも理緒は、決定的な捜査ミスを犯している。こんな二転三転する展開に、飽きることはありません。
真相に結び付く伏線(ヒント)は、物語の随所に仕掛けられています。
それらが真相へときれいに繋がるストーリーの気持ちよさ。
ミステリ小説の醍醐味がしっかり味わえ、読みながらニンマリしました。
物語の中、“日本語の面白さ”は大事なポイント。
勘違いの妙味が凝縮されています。
『小学生探偵 小寺理緒』は本格的な推理モノではないけれど、破綻のないミステリ構造の中で私たちを楽しませてくれます。
面白い設定、イキイキ動き回る登場人物、「謎」の張り方、それらを物語の中で展開する構造。
山田星彦さんは、きっとワクワクしながらこの作品を書かれたんでしょうね。構造を組み上げるパズルのような作業は大変そう。それさえ楽しくて仕方なかったのではないでしょうか。
だからと言って自己満足で書かれたのではないはずです。
だって、そこかしこに読者を驚かせよう、楽しませようという工夫がいっぱいですから。
◉5 理緒の苦悩は物語の深み
捜査の途中で、理緒は壁にぶち当たります。大失敗を犯した小学4年生の迷探偵が、大いに悩む─。
探偵とは何か。いったい何をする者なのか。
コミカルな展開とは一転して、グッと理緒の深みが描かれます。
◉最後に
ラストでは、いよいよ理緒の推理が花開きます。
ここに向けて、終盤戦では「正義は人によって解釈が異なる」という深遠なテーマが投げかけられました。
かくして、小学生探偵・理緒の捜査は終わりを告げます。
犯人像に対してはいろんな意見も出てきそうですが、この物語は爽やかで気持ちのいい結末を迎えます。
気分的にはスッキリですが、読み終えた後はちょっぴり寂しい。
今はただ、続編を読んでみたいと願うばかりです。
─了─
*本文中のイラストはイラストAC、photoACよりお借りしました