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「高齢議員は日本より米国の方がむしろ多い」という絶望、そして「若者の投票率が低すぎる」という希望

頻繁に老害呼ばわりされる日本の政治家

今日は2023統一地方選後期日程の投票日前日なので、選挙にまつわる話をしてみたい。
最近のこのnoteでは「老害」という言葉の実態とその問題点を指摘する記事を投稿し続けている(記事)が、
この「老害」という言葉がメディアに踊る機会は高齢の、特に70~80代の政治家に関連する場合が非常に多い。
識者の中には「高齢の政治家が実権を握り続けていることが日本の停滞の元凶で、彼らは自主的に引退すべきだ。75歳定年のカナダ上院のように年齢制限を設けるべきだ。」という主張をされる方もいる。
(ただし、カナダ上院は首相の推薦制で国民の投票ではない。国民の投票で選ばれる下院の方には議員の年齢制限は特にない。)
その主張の是非は一旦置いておくとして、そもそも日本の政治家というのは他国と比べて高齢化しているのだろうか。日本自体が超高齢化している国なので、当然政治家も高齢化していそうな気もするが、ここはちゃんと調べてみよう。

まず日本の国会議員の年齢構成を確認しよう

…としたのだが、これがめちゃくちゃ大変だった。
Wikipediaにも一覧は載ってないし、ChatGPTやBingに聞くと秒で教えてはくれるが肝心のデータが全部間違ってるし。
仕方がないので衆議院参議院のWebサイトに載っている議員のプロフィールからスクレイピングしたのだが、これも西暦と和暦がまざっていたり統一感がまるでなく、加工するのに手間がかかった。
(軽い憤りを感じたので、ここにデータを纏めておいた。使いたい人は好きに使ってほしい。)

結論から言うと、衆議院も参議院も年齢構成は見事なまでに一致している。平均年齢で見ても衆議院が56.7歳、参議院が57.3歳と、その差はわずか0.5歳しかないという一致ぶりである。

「老害」と言われやすい70代以上の議員は衆議院で11.3%(52人)、参議院で11.7%(29人)おり、こちらも構成比は衆参両院でほぼ一致している。
ちなみに、現状の最高齢は83歳の二階俊博氏である。

念のため、与野党別でも見てみよう。(細かく見るのが面倒だったので、与党所属でない議員=野党としているため無所属の議員も含まれる。)

衆議院では野党のほうがやや若年に触れていることが分かる。

参議院も野党のほうが多少若年に触れているが大差はなく、年齢構成は与野党でほぼ一緒である。
重要なのは70代以上の高齢の議員は与党にも野党にもいる、ということで、その点では「高齢議員は問題だ!」などと敢えて言うモチベーションは与野党共に高くないであろう。
補足すると地方議会に関してはNHKが2019年に全国2万人の地方議員にアンケートを実施しており、議員の定年制に賛成の議員が51.5%、反対が45.5%と意見が分かれている。

次にこの日本の国会議員の年齢構成を、

アメリカの上院、下院議員の年齢構成と比較してみよう

こっちはWikipediaにきっちり生年月日の一覧が載っていたので非常に楽だった。元データは前述のリンクに格納しているので興味のある方は参照頂きたい。
赤系の折れ線が日本の衆参両院、青系の折れ線がアメリカの上下両院である。

一見してわかるのは、アメリカの下院議員の年齢構成は日本とほぼ一緒だが、上院の年齢構成は高齢に非常に偏っている、ということだ。上院議員で70代以上なのは34人。100人定員なので34%を占めていることになる。比率で言えばアメリカの上院には日本の衆参両院よりも70代以上の議員が3倍多い、ということになる。ちなみに議員の平均年齢は下院だと56.8歳と日本の衆参両院と変わらないものの、上院議員は63.6歳で衆参両院に比べ6歳以上高齢だ。日本の国会議員より、アメリカの国会議員の方が明らかに「高齢化している」という予想外の結果となった。

なぜアメリカの上院は高齢化しているのか?

という疑問も沸くが、これについては調べ切れていないので取り急ぎChatGPTの回答を貼っておく。
GPT-4は
"なぜアメリの上院は下院より高齢の議員が多いのか教えてください。
(Tell me why there are more elderly members in the U.S. Senate than in the House of Representatives.)"
という質問に対して下記のような回答をしている。(DeepL翻訳&一部抜粋)
本題ではないので読み飛ばして頂いて構わない。

1. 任期が長い: 上院は6年で、下院は2年。上院は任期が長いので、職の安定性が高く、高齢の政治家にとって魅力的。
2. 定員が少ない: 上院の議員数100人に対し、下院の議員数は435人。経験豊富で定評のある高齢の政治家は、競争の激しいこのような議席を目指し、獲得する可能性が高いかもしれません。
3. 年齢条件が高い: 上院の最低年齢は30歳で、下院の最低年齢は25歳である。これは大きな違いではないが一因かもしれない。
4. 年功序列: 上院は年功序列を重視し、年長者が指導的地位や委員長を務めることが多い。この制度は、年配の政治家が上院にとどまることを奨励し、若い政治家が彼らに挑戦することを抑制するものである。
5. 資金調達と選挙での優位性: 年配の政治家は、より確立されたネットワークとリソースを持つことが多いため、資金調達が容易で、下院選挙よりも高額になりがちな上院選挙で競争することができるようになる。
6. 選挙区が広い: 上院議員は州全体を代表し、下院議員は州内の小さな地区を代表します。つまり、上院議員はより幅広い層の有権者にアピールする必要があり、年配で経験豊富な政治家ほど、その能力が高い可能性があります。

老害政治家を停滞の原因としてスケープゴートにできない、という絶望

さて、ここまでの話の要点は、

・日本では、70代以上の高齢の政治家が「老害」としてよく批判され、
 「彼らが実権を握り続けることが日本の停滞の一因で排斥されるべき」
 という主張がされることもある。

・一方で、日米で国会議員の年齢構成を比較してみると
 アメリカの下院と日本の衆参両院はほぼ同様の年齢構成だったが、
 アメリカの上院は日本の衆参両院より明らかに高齢化していた。

という2点である。

もし、政治家の高齢化が国家の衰退の主因であれば、アメリカは日本以上に衰退しているはずだが現状でそうなってはいない。
考えてみれば、トランプ前大統領は現在76歳、バイデン現大統領は80歳、民主党の大統領候補選でミレニアル世代、Z世代の大きな支持を受けたサンダース上院議員に至っては81歳である。
対して、岸田総理は現在65歳。政治指導者の年齢でも日本はアメリカに比べむしろずっと若い。

「日本が停滞しているのは老害政治家が悪いんだ」というのは非常に分かりやすい主張で、彼らは国民の不満を押し付ける対象としてはとても都合の良い存在だ。
しかし、上述のようなファクトを踏まえると、政治家を高齢であることを理由に排斥しようとする意味は非常に疑わしい。
逆に言えば、日本の政治家の年齢が若返ったところで状況が改善される保証はどこにもない、ということだ。
「君側の奸を排除せねばと若者が義憤に駆られて突っ走ったら、そのまま戦争に突入しました」という事件が1936年辺りにどこかの国であった気がするが、
「老害政治家を日本停滞の原因としてスケープゴートにはできない」ということに、我々は一度正しく絶望すべきなのだ。

それにしても、アメリカの最高齢議員の1人であるサンダース議員が誰よりも若者の支持を得ている、というのは冷静に考えるとなかなかスゴい話である。

サンダース議員はなぜ強いのか?

サンダース議員は若者の社会保障拡充を訴える社会民主主義者であるが、同じような主張をする彼より若い議員もたくさんいるはずである。にも拘わらず、サンダース議員が若手議員の誰よりも広い支持を得ているのは、彼が経験豊富で政治の機微に通じた、つまり老練した政治家であることがむしろポジティブに受け取られている、ということではあるまいか。
結局のところ、その政治家が何を主張し、何ができるか、ということなのだ。その点さえクリアされれば、若手議員より高齢の議員の方が若い世代に支持される、という状況は十分にあり得る

しかし、ここでもう一つ重要な要素がある。
サンダース議員の場合、若者からの支持がきちんと政治的なパワーにつながっている
ということで、日本とアメリカで状況が異なるのはまさにこの点なのだ。

真の問題は政治家ではなく有権者側にある。

有権者側の問題の一つは、少子高齢化の影響で人口がエルダー側に偏っており、今後はより偏りが大きくなっていく、ということだ。その結果、政治家がエルダーに配慮するあまり社会保障などの面で必要な改革に手が付けられない、いわゆるシルバーデモクラシーの状況が発生する。

これは前回記事でも指摘しているが、例えば人口ボリュームにおけるエルダー(55~69歳)の対若者比率は上昇の一途を辿っており、2021年段階では120.2%、2037年には現状の更に3割増し、156.2%に達する。選挙は数のゲームだ。それだけ若者の相対的な政治力は減少する。

対して米国の場合、エルダーの対若者比率は増えてはいるものの、100%を超えるタイミングは当分来ない。頭数でエルダーよりも若者の方がそもそも多いのだ。

これが日本とアメリカの大きな違いの一つだ。そのため、仮に日本にもサンダース的な政治家が現れて若者からの大きな支持を得られたとしても、本家サンダースに比べ政治的なパワーが小さくなる可能性が高い。

この点を解消するために「投票制度を変えるべき」という議論もある。例えば選挙区を世代別に割り振って若い年代の支持を得た議員が一定数国会に送り込まれるようにするとか、さらに余命が長い若者の票の価値を重くする「余命投票」という制度も提案されている。
この”世代間における1 票の格差”を解消する投票制度の詳細については国立国会図書館 政治議会課の藤原佑記さんという方が2021年に肯定・否定両方の意見や他国での議論も含め非常に分かりやすいレポートを出されているのでぜひご覧頂きたい。国会図書館はいい仕事をしている。
しかしやはり、このような新制度導入のハードルは高く、世界を見渡しても導入できた事例はまだない。

「若者の投票率が低すぎる」という希望

やや絶望感が強まってしまった印象があるが、希望もある。上述の藤原さんのレポートでは以下のようなデータが紹介されている。

これは2017年の衆議院議員総選挙における20~24歳世代と65~69歳世代の有権者数及び投票数の推計値を図示したもので、両世代の投票数を比較すると約4.0倍の差がある。
しかし、有権者数自体の差は約1.7倍程度である。投票数で4倍の差がつくということは、投票率が約2.4倍違うということなのだ。(同レポート内の下記グラフは年齢区分が少し違うが、確かに60代と20代でそのくらい差がある。)

つまり、
若者の政治におけるパワーのなさは、
有権者数自体の差ではなく、投票率の差の方が原因として大きい
のだ。

対して、アメリカはどうだろうか。
2020 年の大統領選挙時のデータによると、投票率は65~74歳が76.0%と最も高く、18~24歳が51.4%と最も低かった。
若者の投票率が低いのは日本と変わらないが、上世代との投票率の差は1.5倍程度だ。

もし、20~24歳の投票率がアメリカと同程度の50%になったら、前述の65~69歳との選挙における投票数=選挙パワーの差は約4倍から2.4倍程度に一気に低下する。
ここは試しに、さらに頑張ってみよう。
60代と同じ70%まで投票率がいけば、選挙パワーの差は約1.7倍まで縮まるのだ。

アメリカではエルダー人口の対若者比率は90%程度で若者の方が頭数は多いが、投票率の差でエルダーの方が若者より選挙パワーは1.4倍くらい大きい。

乱暴な計算ではあるが、

若者が60代と同じくらい投票に行くようになれば、アメリカの若者と遜色のない選挙パワーを持つことになる。

和製サンダースの出現も夢じゃなくなるのだ。
「若者の投票率が低すぎる」というのは一見するとネガティブだが、伸びしろと捉えれば大いなる希望といえるだろう。

とても長くなってしまった。
繰り返すが、
本日4月22日は2023年の統一地方選後期日程投票日の前日である。
つまり、この記事の言いたいことは下記の一言に集約される。

若者のみんな、希望はあるんだ。
選挙行こうぜ!!!!!

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