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娘に自分の仕事について説明した話

6歳(年長さん)の娘に私の仕事を説明してみました。
理解していもらえるように話すのはとても難しいですね。
もっとも難しかったのは「放射線とは」の説明でした。
というかうまく説明できませんでした。
私は放射線治療の専門医なのに。。。

さて、以下はやりとりをかいつまんで記します。
ちなみに娘は私のことを とと と呼びます。

私:ととの仕事は何か知ってる?
娘:お医者さんでしょ?
私:じゃあととは何のお医者さんか知ってる?
娘:知らない。

まぁそうですよね。
そこまで話したことはありませんでしたから。
私が専門とする放射線治療は、簡単にいえば がんを放射線で治す仕事です。
これを娘に伝えるには?

まずは対象となる がん について説明しなければいけません。

私:がん って知ってる?
娘:知らない。

ですよね。
では正常の細胞の話をしないと。

私:細胞って知ってる?
娘:知ってる。

なんと!
これは話が早い!
教育テレビの「バビブベボディ」を見ていた賜物です。

私:あのね、体をつくるときに細胞が増えていくでしょ?
娘:うん
私;細胞がどんどん増えていっちゃうとどうなる?
娘:どんどん大きくなる!
私:そう。でも普通はそうならないよね。体をつくったりするのにちょうどいい量になるように 細胞が増えすぎないように調節されるからなんだよ。
娘:うん
私:がんは、そういう調整を無視して細胞がどんどん増えていっちゃう病気なんだ。
娘:じゃあ足がこーんなに大きくなっちゃうの?
私:そう。
娘:大きくなったらどうなっちゃうの?
私:どんどん大きくなると、まわりの臓器に染み込むように広がっちゃったりするよ(医学用語だと浸潤と呼ばれます)。
娘:肝臓とか?
私:おーよく知ってんじゃん(バビブベボディの知識が活きてる!)。がん ができた場所が肝臓の近くならそういうこともあるかもね。それだけじゃなくて、がんの細胞は血管に入りこむんだよ。血管てわかる?
娘:血があるとこでしょ?
私:そうそう。それでその血の流れにのって、全然別の臓器とかに がん が出てきちゃうことがあるんだ(いわゆる転移のことです)。そうやって全身にだんだん病気が広がっていっちゃうことがある。
娘:こわい病気なの?
私:そういうところもあるね。でも早いうちに治療をすれば治すこともできるんだよ。ととはそういう仕事をしているんだよ。

怪しげなところもありつつも、病気の説明まではできました。
ここまではよかったのですが。。。

娘:どうやって治すの?
私:放射線をあてて がん を治すんだよ。
娘:放射線てなに?

む!?
放射線とは、が説明できない!!

ひょんなきっかけで話が始まったので、放射線とは の回答を準備していませんでした。
でも当然聞かれますよね。

あらためて放射線を説明しようとすると難しい。。
電離を発生させる電磁波でナントカカントカ・・という説明は完全に不適切です。

実際の診療では、「レントゲンやCTをとるときに用いるX線と同じですよ、治療用に高いエネルギーのものを使います」のような感じで説明しています。

でも子どもにそれを説明するには???
うーむ。。。
でも何とか答えないと。。

私:ええーと、目には見えない不思議な力をもった光の波だよ。
娘:光の波ってなに?不思議な力ってどんな?
私:うーん、がんの細胞をやっつける力だよ。
娘:どうやって?
私:がん細胞をとかすような感じだよ。
娘:どうやってとかすの?
私:うーん。。

モリモリ質問がきます。
もちろん答えられるのは答えられるのですが、細胞分裂やDNAの話までしていかなければなりません。

この記事は大人の読者を想定しているので、簡単に解説します。

細胞の核の中に入っているDNA、いわば細胞の設計図のようなものですが、放射線が作用するのはこのDNAです。
放射線によってDNAに傷がついた細胞は、細胞分裂の際にうまく分裂できず死滅する、というのが放射線治療の作用の仕方です。
この作用は全ての細胞に対して引き起こされますが、一般にがん細胞のほうが、通常の細胞よりも放射線に対する作用が出やすいです。
放射線に対する反応性が異なるからこそ、放射線は治療として成立するのです。


さて、話を戻します。

その場ではなんとなく有耶無耶に「ととはそういう放射線でがんを治す仕事をしているんだよ。」という感じで話は終わりました。

でも、改めてやりとりを振り返ると、とことん話してあげればよかったかなーと反省しています。
言い訳をすると入浴中でしたし、寝る時間やそのための準備などが頭をよぎりました。

せっかく興味を持って話してくれたのだから、もうちょっと時間があるときに話ができたらよかったなと思います。
きっと先ほど述べた内容をもっと易しくすれば娘は理解できるはずです。
でもまたの機会にまた詳しく話してみようと思います。

ちょっとだけシミュレーションをしておきます。

放射線は目に見えないけど、不思議な力を持っているんだよ。
がんの細胞のDNAにダメージをあたえて、最終的にはがん細胞をやっつけちゃうんだ。
DNAってわかる?
DNAはさ人の体の設計図みたいなものでさ・・・

よし、きっと次はうまくできるはずです。



翌日。

昨日話したことを聞いてみました。

私:ととは何のお医者さんだっけ?
娘:放射線治療!
私:放射線治療ってどんなことしてるの?
娘:がん とかいろいろ治すこと!


うん、娘よ。
父はもう それだけわかってもらえたら十分だよ。


おわりに

仕事の話を子どもに教えるのは難しいですね。
もし同じようなエピソードをお持ちの方がいらしたら是非教えてください!
コメントでも結構ですし、コメント欄にリンクを貼って頂ければ嬉しいです。

もちろんスキやフォローもとても嬉しいです!


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