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【インタビュー】 研究者 ピート 「 イノカならいろいろな業界や分野で仕事ができる。難しい研究もありますが、それもやりがいになっています」

イノカはグローバルです。スタッフに国境はありません。今回は日本から4300km離れた「タイ王国」からイノカの研究に参加しているティーラノクーン・パッチョンスクさん、愛称ピートを紹介します。タイ王国マヒドン大学生物学科を卒業後、チュラロンコン大学海洋科学科 生物海洋科学専攻課程にて理学修士を取得、2017年に来日し静岡大学でPh.D取得後、国立遺伝学研究所で1年の学資研究員を経て、2023年3月にイノカに合流しました。


Profile

出身:タイ王国

年齢:30代

イノカとの出会い:イノカがサンゴの産卵に成功したニュースがきっかけでした。「サンゴは飼育だけでも難しいのに産卵までできるとは」と、イノカの技術に興味を覚えました。その後、科学技術振興機構の業務紹介サイト経由でイノカに応募し、今はリサーチャーとして研究をしています。

好きな食べ物:刺身、特にハマチが好き。「北海道で食べて大好きになりました」

最近のお気に入り:スノーボード。「タイではできないスポーツで、日本で初めてトライしました。本当に面白いですね。北海道と白馬で滑りました」


Interview


好きな生き物は「シュモクザメ」「マンボウ」

−−好きな生き物はなんでしょうか。

ピート シュモクザメとマンボウです。シュモクザメは別名ハンマーヘッドシャークとも呼ばれる、両眼がとても離れているサメです。眼が離れていることのメリットは広い範囲で獲物を見つけられることです。あのトンカチのような頭の形状と、その先端に眼がついているというのは大変特殊だと思います。なんでこのような形になったのか、不思議です。

マンボウは、眼が小さく、ヒレも小さくて泳ぎが遅い。それでも今の時代までどういう生存戦略を持って生き残ってきたのか、こちらも不思議です。シュモクザメ同様、興味をかきたてられます。


今取り組んでいるのは各種物性の海洋環境への影響。それを飯田橋の研究室で行っています

−−現在進めている研究について教えてください。

ティーラノクーン・パッチョンスクさん(以下、ピート) 海岸で使う日焼け止めや、製鉄の最終副産物である鉄鋼スラグが海洋環境にどういった影響を与えるのか調査しています。

例えば日焼け止めのある成分が海洋環境に悪影響を与えるなら、その物質の使用は避けなければいけません。実際、西大西洋のパラオでは、サンゴ礁に有害な成分を含む日焼け止めの利用が2020年から禁止されました。また鉄鋼スラグは、サンゴの再生に有効であるかその可能性を探っている最中です。

こうした物質の影響を実際の海で正確に測るのはとてもハードルが高いです。天候や季節の変化によって海の環境は変化するため、何が海洋生物に影響を及ぼしているのかが見えにくくなってしまいます。例えば海水といっても場所が違えば水の成分も異なりますから、サンゴへの影響が、特定の物質に由来するのか、海水の成分の変動によるのかを判断するのはとても難しいのです。オキシペンゾンという物質はサンゴに悪影響があることは世界的に認められているのですが、ではどの程度の濃度から悪影響が顕著に見られるかの研究はまだ少ないのが現状です。


ラボの様子

しかしイノカの「環境移送技術®︎」では人工海水を用いた水槽で実験を行うので、水質の影響を一定にできます。特定の物質だけの影響を測定することができます。また実際に海に行かなくとも、研究室で実験を行えるという点も大きな強みです。実際、研究の多くは東京飯田橋のビル内で行っています。


大学の研究室との違い「いろいろな体験ができる」

−−海洋環境の保全にも役立つ研究というわけですね。ただ、そうした研究は大学の研究室などでも行えるのではないでしょうか。


ピート 大学の研究室で研究を行うこととイノカで行うことの違いは、いろいろなことができるという点です。大学の研究室では、日焼け止めを作る化粧品会社、製鉄を行う鉄鋼メーカーなどと一緒に研究する機会はそう多くはありません。でもイノカなら、いろいろな企業や自治体とコラボレーションできる可能性があります。

研究分野が広いことも特徴です。私は博士課程を魚類の遺伝子研究で取得したので遺伝が専門なのですが、2023年に[22] は、サンゴのゲノム遺伝子配列の解読に成功したOISTマリンゲノミックスユニット研究室 佐藤矩行教授とディスカッションができ、サンゴ礁保全を目指すOISTサンゴプロジェクトに参画することが決まりました。こちらは私の専門である遺伝分野での活動です。イノカなら海洋環境の調査だけでなく、広い分野での活動が可能になるのです。

また研究室ですと、どうしても専門が同じ分野になりがちですが、イノカには様々な分野の専門家がいて、研究に煮詰まった時に誰かに質問ができるのも良い点ですね。CTOである関西大学の上田正人教授はチタンの研究開発を行っているので、先の鉄鋼スラグなどではいろいろ聞くことができます。研究で使用する水槽内の環境構築については、Chief Aquarium Officer(チーフ・アクアリウム・オフィサー)の増田に助言を求めます。彼は自宅の巨大な1トン水槽でサンゴ礁生態系を再現している、アクアリウムのプロフェッショナルです。またイノカの経営顧問には、科学技術で様々な課題に取り組む株式会社リバネスの方が参画してくださっています。リバネスからもプロジェクトの効率的な進め方等について貴重な助言をもらっています。


−−イノカの研究環境には、知識や分野の多様性を感じます。ただ、多様ゆえに迷ってしまうことはないですか? どうでしょう。

ピート 問題ないと思っています。なぜならイノカ社内がとてもフレンドリーでアットホームなので、お互いに質問しやすい環境だからです。わからないことがあれば「おーい、増田さん、教えてー」とフランクにお願いできます。だから仕事は楽しいし、新しいタイプの実験や研究を始めるときはワクワクします。

もちろん新しいことや先進的なことの研究では、新しい知識や技術の導入も必要です。こうした部分は、ハードルが高いですね。それに課題にも当然ぶつかります。課題を解決するのは本当に難しいですが、難しいほどある意味面白い。そして、みんなの意見を参考にして課題を解決できたときは、難しさの分だけ一気に喜びに変わります。本当に、難しさと面白さが共存している感じですね。



環境保全だけでなく、業界や社会の大きな流れを良い方向に

−−イノカの研究の方向性についてはどうでしょう。

ピート 水槽という閉じられた環境ですが、企業の製品やプロダクトが海洋環境にどういう影響を与えるかを検証し、企業や業界の流れを変える契機になる。だからイノカが提供する成果はとても価値があると思います。

またイノカは研究以外にも、子ども達に海とサンゴを題材にした「サンゴ礁ラボ®︎」という環境教育プログラムを提供しています。研究を通じて業界や世の中に影響を与えるだけでなく、教育の分野でも社会と関わっています。


タイの学会でポスター発表を行った


−−こうしたイノカの方向性に、ピートさんは賛成ですか。

ピート もちろんです。実は私はダイビングを長くやっているのですが、潜る度に海の中が良くない方向に向かっていることを感じます。実際に自分で海洋生物学を学ぶ中でも、悪い方向への変化を確信しました。だからこそ「今を変えなくては」という思いを強く感じます。また、わざわざイノカに連絡をしてきて研究を依頼する企業がいるということは、その企業も何らか現状を変えたいと思っているわけです。世界を変えなければいけないと思っている人たちは、徐々に増えていると思います。


Message


左:弊社研究スタッフ 中央:マングローブ水槽 佐々木 右:ピート

世界を変えることは、一朝一夕にできるものではありません。ステップバイステップ、歩みはちょっとずつです。イノカも、まだ全てをやりきれているわけではありません。これからもできることが増えていって、イノカだったらこうしたやり方で世界を変えられるということが、目に見えてくると思います。

人間がいなくても地球や自然、生態系は成り立ちます。ですが今は、人間がいることによって自然が成り立たないようになりつつあります。だから人間がいても成り立つ、自然と共存できる生態系を目指したい。人間が自然と一緒にやっていける方法を目指したいのです。

少しでも世界を良くしたいと思っている方、海やそこに暮らす生き物が好きな方は、ぜひイノカに来て一緒に研究をしましょう!


採用サイトはこちらから : https://corp.innoqua.jp/recruits

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