県知事は総務官僚OBばかり?その裏側を解説!

0)兵庫県知事選は総務官僚同士の一騎打ち

兵庫県知事を選ぶ選挙が7月18日にありました。

今回の選挙面白い、と思いました。なぜなら

総務省の元官僚同士の実質的な一騎打ちだったからです。

現職の井戸知事が支援していた金沢和夫さんも総務省の官僚出身、自民党などが推薦した斎藤元彦さんも総務省の官僚出身です。

おまけに、現在の井戸知事も元総務官僚。

総務省の影響力すごい。

皆さんのお勤めの会社OBが2人も同じ選挙に出るなんてことありますか?

ないですよね。

同じ省庁OBが同じ選挙で戦うことは、さすがに珍しいと思います。

でも、総務省が将来県知事になる人材を多く輩出することは、実は霞が関ではよく知られているんです。

あまり行政に関わりのない人からすると、なぜ総務省の官僚が都道府県のトップになるのか、理解している人は少ないかもしれません。

私も、なんとなく総務省の同期の連中は、将来県知事に転身したりするのかなあ、なんて思っていましたが、実際のところをきちんと調べたことがありませんでした。

今回は、自治体と総務省の関係や、官僚出身者の自治体トップに占める割合など、色々調べてみました。

1)そもそも、総務省って何だっけ。

今は住民が直接選んでいる都道府県知事ですが、実は戦前までは、国の官僚が任命されて派遣されていました。

この官僚を任命する権限を持っていたのが戦前の内務省で、この内務省の流れをくむのが、かつての自治省です。

自治体の親玉が内務省(のちの自治省)だったんですね。

総務省は、2001年、省庁再編の年に、この自治省が他の省庁と合併する形で誕生しました。

このように、歴史的に地方自治体と総務省は深いかかわりがあります。

現在も、総務省は都道府県などの地方自治体のために税金を集めたり、その税金を配りなおしたりする制度を担当していて、地方自治体のお財布に深く関わりのある省庁となっています。

お金を握っている人は強いですよね。

夫婦の場合も、お財布を握っている方が立場が強いですね。一旦、お小遣いの額を決めてしまうと、その値上げ交渉に苦労します。それは、お小遣いの額を決める権限をお財布を握っている側が持っているからです。

2)地方自治体のトップの多くは昔も今も元官僚


下の地図は、いわゆる元官僚(経歴から事務系総合職と思われる人物)が知事を務める都道府県を色で塗ったものです(2021年7月20日調べ)。自分で3時間ぐらいかけてつくりましたw

総務省:緑色
経産省:ピンク色
国交省:茶色
財務省:青色
農水省:黄色

47の都道府県のうち、元官僚がトップなのは、約半分の24つで、多い出身省庁から順に総務省(12)、経産省(7)、国交省(2)、財務省(2)、農水省(1)でした。

思ったより多い、と感じますか?

ちなみに、戦後初の都道府県知事選挙では、46都道府県中27人の当選者が、かつて国から派遣されていた官僚だったとのこと

戦後直後の構造が今もさほど変わることなく引き継がれている、というのはとても興味深いですね。

3)総務官僚は地方行政の専門家


総務省は、1)で説明したように、地方自治体と深いかかわりのある省庁なので、キャリアパスも他の省庁と少し違います。

簡単にいうと、自治体勤務と国での勤務を繰り返すのです。

総務省に採用されると、入省後3か月程度霞が関で過ごしたのち、すぐに地方自治体に派遣されます。

社会人としての第一歩を、採用した中央官庁ではなく地方自治体でスタートするのです。

その後は人によって自治体勤務の回数はばらつきがありますが、人によっては、そのキャリアの半分以上を自治体で過ごす人もいます。

これが、他の省庁の場合は、自治体への出向は多くて2回、いかない人は一度も行きません。

総務省の官僚は、中央政府では地方自治体に関わる制度を担当し、自治体では地方自治の経験を多く積むことで、地方行政の専門家としてキャリアを重ねます。

ちなみに、24人の元官僚知事のうち、その自治体に官僚時代に出向していた経験があるのは10人で、副知事を経験した後に知事になっている元官僚は7人でした。

出向している間にその自治体の状況や有力者との関係を深め、また、副知事として知事の信頼を得ていることが、選挙で選ばれる一つの理由となっているのかもしれません。

4)元官僚が都道府県知事として重宝される理由


よく、元官僚の都道府県知事には国とのパイプが期待される(※)、といいます。それはどういう意味なのでしょうか。
※兵庫県知事選に関するニュースでも言及されています。

私の解釈は、単に中央官庁に知り合いがいる、いうことのほかに、国からお金を取ってくるための知識を持っているという意味だと考えています。

政策人材の教科書でも書きましたが、国の政策決定のプロセスやそのタイミングは政府外部の人間からはわかりにくいです。

また、政府に受け入れられやすい提案の仕方というものも、政府内部の仕事をしたことで、体で覚える、という類のものなので、体系だった資料は当然ありません。政府での経験がないとなかなか身につかないものだと感じます。

仮に、自治体の財源や権限だけでは実現が難しいような政策があるとします。
その場合、自治体は、補助金や、特区等を作ってもらうように国に働きかける必要があります。

そのためのノウハウを元官僚は持っている、ということです。

パートナーの機嫌が悪いときに、どんな対応をすれば機嫌がよくなるか、長年連れ添った夫婦であればなんとなくわかりますよね?

それと一緒で、どんなスイッチを押せば国が動くか、という知識を、元官僚は持っている、ということです。
これは、裏でズルいことをする、という意味ではありません。国を説得する正しい方法を知っている、ということです。

5)まとめ


今回は、兵庫知事選を題材に、どうして都道府県知事に官僚経験者が多いのか、を説明しました。
都道府県知事の半分近くが官僚経験者だとは私も知らず、新鮮な驚きがありました。

ちなみに都道府県知事と同じぐらいの権限を持っている政令指定都市の市長についても調べてみましたが、こちらは20都市中4都市のみしか官僚が市長を務めていませんでした。この違いはどこにあるのか、今後知ることができたらまた追記したいと思います。

また、日ごろのニュースの背景を解説する記事をかいていきますので、応援よろしくお願いします。


参考資料
笹口裕二、地方統治機構の改革経緯と新しい動き-国と地方の関係を考える-、立法と調査、2015年
小西徳應、第一回知事公選と内務省--旧官選知事大量当選の背景、政経論叢、1999年