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【マッチョイズム】男らしさを競う文化があると、組織市民行動が下がる?別の組織文化との比較を通じた調査研究(Koc. et al., 2021)

ここのところ、一気にマッチョイズム関連の文献を読み漁っています。今回は、MCCによる組織市民行動の影響を示した論文です。

Koc, Y., Gulseren, D., & Lyubykh, Z. (2021). Masculinity contest culture reduces organizational citizenship behaviors through decreased organizational identification. Journal of Experimental Psychology Applied, 27(2), 408.


どんな論文?

本論文は、男らしさを競う文化(Masculinity Contest Culture;MCC)が、熾烈な競争と地位争いを引き起こすことで、組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior;OCB)にどのような影響を与えるかを調査したものです。

研究では、MCC文化と対照的な「女性的な育成文化」(Feminine Nurturing Culture;FNC)で、MCCがOCBに与える影響がどう変わるか、という点にも着目しています。
FNCとは、ワークライフバランスを重視し、協調性を育み、弱さを見せ、弱さを認めるといった文化で、MCCの持つ要素(弱さを見せるな、強さとスタミナ、仕事第一主義、弱肉強食)と対照的なものです。

調査参加者には、MCCやFNC(あるいはその中間)といった文化に属しているといった状況が説明され、その状況に属する一員としてアンケートに回答することが求められました(ビネット調査と呼ばれます)。
これにより、どの組織文化に属しているかにより、回答傾向が変わるかどうかを見ています。

もう一つ、本研究では、組織アイデンティフィケーション(組織同一性)の媒介効果も調査されました。つまり、MCCは、組織への同一感を介して、OCBに影響する、というメカニズムが定量的に調査されています。

(組織市民行動;OCBや、組織アイデンティフィケーションについては、後段で補足します)

いくつかの研究の結果、以下のことが明らかになりました。

  • MCC群(MCC状況を説明された参加者)は、FNC群と比べて組織とそのメンバーに対するOCBの度合いが低い。(MCCとFNCの中間で設定した「中立群」とは有意差なし)

  • MCCは組織アイデンティティの低下を通じて、特に組織員に対する貢献意向を低下させる

  • 性別による調整効果は見出されなかったことから、MCCは女性、男性ともOCBと組織アイデンティフィケーションを阻害することが示唆される


組織市民行動と組織アイデンティフィケーション(組織同一性)

本研究の調査では、MCCが影響を与えるものとして、組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior;OCB)と組織アイデンティフィケーション(Organizational Identification)が使われています。

OCBとは、自由裁量的で、公式的な報酬体系では直接的ないし明示的には認識されないものであるが、それが集積することで組織の効率的および有効的機能を促進する個人的行動、と定義されています。つまり、自発的でお金にならない組織貢献行動、と言えます。
なお、OCBには、OCB-I(個人に向けられる行動),OCB-O(組織に向けられる行動)の 2 次元があり、今回の研究でもこの2次元が使われています。

組織アイデンティフィケーションとは、「自分がこの組織の一員である」と強く認識し、そのことに感情的な意味を感じている、ということを指します。

こうした変数を利用し、MCCが、OCBに対して与える影響と、そのメカニズムとしての組織に対する同一化度合い、そしてその影響関係が文化(MCC文化か、FNC文化か)による違いでどう異なるのかを明らかにしました。

1つ目の研究

この調査研究は、オランダの大学における心理学専攻の1年生191人に対して、「ビネット調査」として行われました。
ビネット調査とは、「回答者に対して、研究者の側で構成した一定の状況を提示し、仮に回答者がそのような状況に置かれた場合に、どのような行動をとるかについて回答を求めるという方法」のようです。

大学生191名を2群に無作為に分け(MCC群:96名、FNC群:95名)、各群において、以下のように状況を提示しています。

  • MCC群:参加者に自分たちの職場環境は厳しく、競争的であると伝えた。また、仕事で成功するためには人を圧倒しなければならず、ミスは許されないと伝えた。

  • FNC群:参加者に、職場環境はリラックスしており、友好的で競争的ではなく、仕事で成功するためには他人とうまくやっていかなければならず、ミスをすることは許されると伝えた。

この結果、FNC群と比べて、MCC群では、MCCが組織アイデンティフィケーションにマイナスの影響を与えることや、MCCがOCBに与える影響(特にOCB-I、個人に向けられた組織貢献)を組織アイデンティフィケーションが媒介することがわかりました。

要するに、男らしさを競う文化度が高いと、組織アイデンティフィケーションの度合いが低くなり、結果として(特に個人向けの)お金にならない組織貢献活動も減る、ということです。


2つ目の研究

1つ目の研究において、①学生を対象としている、②MCCとFNCの中立的条件がない等の弱点があったため、それらを克服するための2つ目の研究が行われました。

まず、参加者は、Amazon Mechanical Turkというオンラインサービスを利用して、調査協力に参加した社会人239名が対象となりました。そして、MCCとFNCのちょうど間となるような「中立条件群」を設定し、3群での比較を行いました。

中立条件群では、激しくタフでもなく、リラックスしてフレンドリーでもない職場環境が描かれた。この文化では、他人を支配する必要はなかったが、他人とうまくやっていく必要もない、という説明がなされます

239名の参加者が、MCC群、FNC群、そして中立条件群に無作為に割り当てられました(MCC(n=64)、FNC(n=69)、中立条件(n=66))。
この条件説明を受けた対象者に、MCC、組織アイデンティフィケーション(組織同一性)、そしてOCBに関するアンケートに答えてもらった結果、全体として、研究2の結果は研究1と同様の結果が示されました

FNCと比較して、MCCは組織アイデンティティフィケーションのレベルを低下させ、OCB(OCB-O、OCB-I)を低下させることがわかりました。
また、媒介分析により、MCCとFNCを対比すると、組織同一化の低下を介して、OCB-OとOCB-Iに有意な負の間接効果を示しました。他方、直接的効果は有意ではなかったため、組織アイデンティフィケーションの度合いが、OCBを完全媒介すると言えそうです(以下図の通り)。

ちなみに、研究2でMCC群と中立条件群による有意差が出なかったことを受け、条件を変更して研究3も行われていますが、研究2とほぼ同様の結果で、MCC群と中立条件群の間には有意な差がありませんでした。

得られた示唆


MCCが組織のアイデンティフィケーションに影響を与えることを発見した。個人には所属したいという基本的な欲求があり、組織との同一性を高めることはこの欲求を満たすことになる(Wiesenfeld et al.)
男らしさを競う文化は、熾烈な競争環境を表現することで、帰属意識の
認識を脅かす。その結果、従業員は組織との同一化の程度を抑制することで反応する。また、組織同一性が、裁量的パフォーマンスに対する文化の影響を説明するメカニズムとして機能することもわかった。

また、今回の研究では、男女による違いに有意差はありませんでした。つまり、MCCが内在化されている従業員は、男女といった性別にかかわらず、望ましい仕事の成果を阻害する可能性を提示しています。

このことは、MCC組織で働くことになる男性従業員も女性従業員も、MCC文化に対して同様の反応を示す可能性を示唆しています。

筆者らは、これらの研究の結論として、MCCの価値観は支持されないことを労働者に明確に伝え、FNCの価値観が受け入れられ、評価されるような文化を醸成することを目指すべき、と述べています。

研究2においては、MCC群と中立条件群との間に有意差が見られなかった理由も説明とも合致すると説明されます。なぜなら、中立的な組織文化には具体的な目標や価値観(例えば、MCCと両立するか、FNCと両立するか)がなく、かなりあいまいな職場文化を提示していたためです。

したがって、著者らは、組織はFNC の価値観を明確にミッションに含め、それを推進すべき、と結論付けています。


感じたこと

本文献では、マッチョイズムとしての組織文化を示すMCCの負の影響がかなり強調されています(仮想敵かのように)
ここまで見てきた文献では、どちらかといえば負の影響ばかりが取りざたされていますが、一方で、成果指標によってはMCCによる正の影響もあるのではないか、とも思います。

多様性を受け入れ、力に変え、イノベーションを起こしていくためには、MCCに注意しなくてはならないと思うものの、営業組織などでは、一定のMCCも必要な気もします。

「ある一定程度までは、MCCが成果に正の影響を及ぼし、閾値を超えると、負の影響に転じる」

とか、

「MCCがインクルージョンに負の影響を及ぼし、その結果として創造性が落ちる一方で、組織コミットメントに正の影響を及ぼし、その結果として生産性が向上する」

といった実証研究も面白そうな気がします。

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