見出し画像

【インクルーシブ・リーダーシップ】ILが組織学習の文化を高め、役割を超えた行動に影響する!?(Tran et al.,2019)

今回はベトナムの研究者による、インクルーシブ・リーダーシップ研究を紹介します。本当に様々な国でILが研究されているようです。

Tran, T. B. H., & Choi, S. B. (2019). Effects of inclusive leadership on organizational citizenship behavior: the mediating roles of organizational justice and learning culture. Journal of Pacific Rim Psychology, 13, e17.

どんな論文?

この研究は、ベトナムのサービス業4社268名をサンプルとして、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)と、従業員の組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior : OCB)の因果関係を検討したものです。

加えて、この関係における組織的公正と組織学習文化の媒介的役割についても、統計的な分析により明らかにしました。以下がモデル図です。

P7

組織市民行動とは、「報酬などの見返りを求めることなく、組織全体の効率を促進するため、自発的に他者を支援する行動」を指し、言い換えるなら、自分の役割を超えた行動を自発的に取ること、です。古い言い方かもしれませんが、ポテンヒットを防ぐ、ともいえるでしょう。詳しくは以下のサイトをご参照ください。

興味深いのは、ベトナムの文化との関連性です。
ベトナムは儒教の影響を受けており、集団主義、集団志向、協力的なワークスタイルが高く評価される傾向にあるようです(House, Hanges, Javidan, Dorfman,& Gupta, 2004)。

したがって、組織において学習する文化があり、メンバー同士で学び合いが起こるような環境に身を置くことで、組織に対するコミットが高まり、組織市民行動のようなポジティブな行動が促進されるのでは、という考察が述べられています。

従って、ILにより組織学習の文化を高められると、組織市民行動も高まる、ということのようです。

ILが組織学習の文化に与える影響

今回は、組織的公正については触れず、組織学習の文化を掘り下げます。

組織学習の文化(Organizational Learning Culture)とは、「知識を創造、獲得、伝達し、新しい知識や洞察を反映して行動を修正する」という規範を持つ組織を指すようです(Garvin, 1993, p. 80)。この文化は、7つの次元(継続的学習、探究と対話、チーム学習、エンパワーメント、組み込まれたシステム、システムとの接続、戦略的リーダーシップ)で構成されます。

例えば、組織学習の文化を測定する設問項目には、
「私の組織では、人々は互いに学び合いを支援している」(チーム学習)、
「私の組織は、問題解決を行う際に、組織横断的に解を求めることを奨励している」(エンパワーメント)
などが含まれます。

それでは、なぜILは組織学習の文化に影響を与えるのでしょうか?大きく、以下2点が文献では紹介されています。

1.個人のニーズや利益の尊重が、成長に向けた学習意欲につながる

インクルーシブ・リーダーは、メンバー個々人のニーズや利益に配慮すると言われています。その結果、メンバーは学習や勉強といった内的・社会的欲求を育む可能性があるようです( Choi et al., 2015; Nembhard & Edmondson, 2006)。

このように、リーダーのかかわりを通じて、メンバーの成長や学習への欲求が育まれると、メンバーは組織が学習を支援してくれたと感じ、その代わりに組織に対してコミットしようという気持ちが生まれ、最終的に組織市民行動につながると考えられるようです。

2.ILの持つメンバーの情報重視の姿勢が、学習意欲につながる

また、インクルーシブ・リーダーがメンバーの意見にオープンであることは、メンバーが自分の知識、専門性、スキルを伸ばす十分な機会を持つための継続的な学習につながると言われます(Carmeli et al.、2010;Choi et al.、2015)。

ほかにも、ILの発揮により、新しい見解やアイデアの表明を認め、古い前提や信念に挑戦し、新しい視点を刺激することで、従業員は知識の獲得や共有をさらに行うようです(Zagorsek et al.、2009)。

さらに、インクルーシブ・リーダーが、メンバーの質問や問題に対応し、支援を提供すると、メンバーは評価されたと思い、更に自らを高めるべく、新しいことを学び、スキル、知識、認知的思考を開発するための十分な機会を提供する可能性がある、と筆者は述べています。


感じたこと

インクルーシブ・リーダーシップが、メンバーの学習意欲を刺激し、学習する組織文化に影響を与え、組織市民行動にも影響を及ぼすという点は、今後益々重要になると考えています。

まず、「自律的キャリア」が重視されつつある中で、リスキルの重要性も高まっています。ILがメンバーの学習意欲を高め、学習する組織文化を高めるならば、メンバーが自律的に学んだり、キャリアを考えたりすることも想定されるでしょう。

また、世間では「ジョブ型」という言葉を目にするようになりましたが、この考えが広まっていくと、自分の職務範囲を逸脱した行動は優先度が下がると考えられます。

他方、ILが組織市民行動を高めるならば、自分の職務範囲を超えた「ポテンヒット」にも対応するメンバーが出てくるでしょう。こうした、ジョブを超えた行動の重要性はますます高まるとすれば、組織市民行動を高めるILの価値も高まるであろうと想像できます。

上に述べた必要性の視点から、ILの重要性を語れる文献はありがたいものです。今後の研究に参考にしたいと思います。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?