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【ダイバーシティ】研究から導かれた、ダイバーシティ研修の効果を高めるためのフレームワークとは!?

今回は、これまで紹介してきた概念間の関係性を見るような実証研究ではなく、ダイバーシティ研修に関する先行研究レビューをもとに、有効だと考えられるフレームワークを提示した文献の紹介です。

Roberson, Q., Moore, O. A., & Bell, B. S. (2022). An active learning approach to diversity training. Academy of Management Review, (ja).

文献自体が56ページもあるのですが、自分の仕事にも関連する「研修」がテーマなので、少し多めに紙面を割いてご紹介します。


どんな論文?

この文献は、ダイバーシティ研修が置かれているより広範な文脈をレビューするとともに、それが受講者の動機づけ、学習、および研修転移に及ぼす影響を踏まえた、ダイバーシティ研修のデザインを提供するものです。

研修前、研修中、研修後の環境におけるデザイン要因、学習状況、学習者の特性の相互作用を考慮し、研修生が学習を導くことができる自己調整のプロセスとして、以下の図のようなフレームを提示しています。

また、受講者の典型的なペルソナを大きく三分類し(守りに入っている参加者、不安な参加者、自信過剰な参加者)、自己調整プロセスを促進するための戦略も具体的に提示しています。

今や、フォーチュン 500社のほとんどが 7 8 社と米国の中堅企業の半数が従業員に多様性研修を実施しており (Dobbin & Kalev, 2018)、年間約80億ドルのビジネスとなっているようです(Kirkland & Bohnet, 2017).

今回は、主に、研修前・研修中・研修後に行う工夫について、文献をもとに紹介していきます。一番はじめに出した図表の通り、筆者らは大きく「認知(Cognitive)」「動機付け(Motivational)」、「感情(Affective)」の3つの観点から整理しています。


研修前に行うこと

著者らは、学習者の準備の重要性として、「認知:目的の理解」「動機付け:内容理解」「感情:否定的感情の調整」を促すことを推奨しています。

まず「目的の理解」ですが、アクティブ・ラーニング的な研修において、目的を理解することは不可欠である、という説明から入ります。そのため、研修の事前に、研修の目的や情報を伝え、学習目標を設定させることを推奨しています。

そのことにより、参加者の学習意欲が高められ、学習者がプログラムに取り組む姿勢にインパクトをもたらすようです(Chrobot-Mason &
Quiñones, 2002; Holladay, Knight, Paige, & Quiñones, 2003; Sanchez & Medkik, 2004)。これにより、参加者が適切な期待を抱くことにも繋がるとのこと。

続いて「動機付け:内容理解」です。ここでは、研修のフレームをあらかじめ情報提供することで、学びに対する注意と努力の喚起を意図することが重要と説明されます(Bell & Kozlowski, 2008; Brown & Ford, 2002)。

併せて、研修で得られるスキルやその重要性を前もって理解することで、自らを研修参加に動機付けできる可能性についても言及しています。(Kanfer & Ackerman, 1989).

最後に、「感情:否定的感情の調整」です。研修参加者は、こうした研修への参加に不安やストレスを感じることがあり、かつ、ダイバーシティ研修だと一層強まる、と説明します(Bell & Kozlowski, 2008; Bezrukova et al., 2016)。

また、ダイバーシティ研修を、企業のダイバーシティ・イニシアティブの中に位置づけることで、参加者の参加が動機づけられたり、不安が解消されるようです。研究においても、組織内の多様性を支援する方針と実践は、組織の認識と実践に影響を与えるといわれるようです(Bezrukova et al, 2016; Rynes & Rosen, 1995)。


研修中における工夫

こちらも、「認知」、「動機付け」、「感情」という要素の重要性が語られます。それぞれにおける学習の必要性が語られています。

「認知的学習」については、まず、自分の現在の意識レベルを広げることの重要性が研究されていると紹介されています(Celik, Abma, Klinge, &. 50 51 Widdershoven, 2012; De Meuse, Hostager, & O'Neill, 2007; Reynolds, 2010)。

筆者らは、参加者の認知を拡げるため、発見と探究を促すデザインを推奨します。例えば、多様性に関するいくつかのシナリオを提供し、そのためのベストアプローチに関する発見と探究を検討するようなワークを想定しています。

「動機付け学習」では、インタラクティブなワークの中で、参加者が実験とエラーを繰り返すようなデザインを推奨しています。多様性に関連する様々なシミュレーションで、いろいろな行動を試し、それに対するフィードバックを受けるようなものが想定されているようです。

研修において、「実験の場である」という点を強調し、エラーは歓迎されるもので、学習の一部だと強調することにより、多様性の課題に直面した際のイメージややる気を促進できるようです。

「感情学習」では、自分の信念、態度、その他の原因について自己点検を行うことが推奨されます。こうした自己点検を行うと、時に自分のネガティブな感情と向き合うことが求められます。(自分が気づかないうちに、マイノリティを無視していた等)

こうした否定的な感情の調整が、ダイバーシティ研修には重要と筆者らは主張し、否定的な感情を抱いた際の身体的な反応や心理的なサインを学んだり、「ヒューリスティック(問題に対して、ある程度正解に近いレベルの答えを簡略的に導き出す方法)」を提供することで、否定的な思考の頻度を減らしたり、自己調整する方法を提供することが重要、とのことです。


グループ構成が、参加者の学習におよぼす調整効果

こう書くと「研究論文」っぽい雰囲気ですが、要するにグルーピングも大事、とのことです。

本文献では、性別や人種、年齢などの多様性をグルーピングに活かすことは、あまり効果が大きくないという研究(Bezrukova et al, 2016)や、研修に効果があったのは、グループの中にダイバーシティ研修の参加者がいるかどうかであった、という研究を紹介しています。

そのうえで、ダイバーシティ研修では、「ダイバーシティ研修への参加経験」を持つ人がをうまく各グループに配置することを推奨しています。その人が、他者の研修内でエラーを恐れない姿勢や、否定的な感情への調整をサポートしてくれるだろう、と説明します。


研修後における工夫

研修中は「とても学びになった・・!」と思っても、日常に戻るとすっかり忘れてしまう、というのはよくある風景です。本文献においても、成功のための環境整備が重要、と説かれています。

例えば、抵抗勢力や非協力的な同僚、研修転移を阻害するリスクや恥ずかしさによって、うまく適用が進まないという研究もあるようです(King, Gulick, & Avery, 2010; Paluck, 2006)。

著者らは、研修後の転移を促進するために、「認知的転移」「転移への動機付け」「感情的な転移」の三点を重視しています。

まず「認知的転移」ですが、ダイバーシティ研修で学んだ知識やスキルの背景を思い出させ、それらを活用する機会を提供することが大事、とのことです。

例えば、特別プロジェクトやストレッチ・アサインメントといった仕事の割り当てや、学習したことを活用するための目標設定とその継続、実践共同体の設定、といった取り組みが紹介されます。

次に「転移への動機づけ」です。Blume and colleagues (2010) らの研究によると、上司からの支援(成果の意識、報酬、フィードバック)や同僚の支援は、転移への重要な環境特性とのこと。

また、上司の働きかけとして、参加者が学習したスキルを使ってみるだけでなく、その結果を意識させることが重要、という研究もあるようです(Roberson et al, 2013)。そのため、上司とのディブリーフィング(報告や振り返り)が有効なツールになりえるとのこと。

最後に、「感情的な転移」です。筆者らは、研修で学んだ、多様性に関する状況の伝達によって、自分の感情をマネージすることが大切である、と説明します。

例えば、ダイバーシティ研修で行った、多様性に直面した際の感情やサインをリマインドし、自己調整することの大切さを思い出させたり、学習内容を効果的に使ってみることを奨励することが有効、と紹介されています。

なお、研修転移を上司の支援が調整する効果も、研究で示されているようです。文献では以下のように説明されています。

上司が研修参加者に対して、学習した多様性に関するスキルを使うことで、組織目標の達成や、結果として個人的な成功につながるという、学んだことを生かすことの価値を示すことで、ダイバーシティ研修の参加者は、学んだスキルを行動し、たとえそれが失敗につながったとしても、実験的な位置づけとして捉えることができるようになる。

そのほかにも、本文献では、ダイバーシティ研修の効果をどのように測定するかについて、過去の先行研究を紹介しつつ、これまで紹介してきた3つの観点、つまり、「認知」「動機付け」「感情」の側面から効果測定することを主張しています。
(詳細は長くなるので割愛します)


感じたこと

普段、仕事で研修の開発や講師を行っているのですが、研修(しかもダイバーシティ研修)のデザインや効果測定に関する研究が色々とあることを知らず、大変勉強になりました。

認知・動機付け・感情といった観点や、それらと研修前・中・後によるフレームワークは、今後のダイバーシティ研修開発に使えそうです。研究による実証結果もあり、説得力のあるコンテンツになるかと思います。

56ページにもわたる文献なので、一部しか紹介できていませんので、興味のある方はご一読されることをお勧めします。(AOMジャーナルの掲載記事ですので、信ぴょう性もそれなりにありそうです)

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