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【インクルージョン】「インクルーシブな組織」というバズワードを解き明かす!?(Dubusch, 2014)

今回ご紹介するのは、インクルージョンやエクスクルージョン(排他)に関する科学的言説をレビューした論文です。(釣りっぽいタイトルですが、「バズワード」となっている、という文章が実際に論文に載ってます!)

Dobusch, L. (2014). How exclusive are inclusive organisations?. Equality, Diversity and Inclusion: An International Journal.

どんな論文?

本論文は、様々な科学的言説におけるインクルージョンとエクスクルージョンの意味を明らかにすることで、「インクルーシブな組織」というバズワードを、理論に基づいた観点から位置づけることを目的に編まれたものです。

本稿では、4 つの言説(Discourse)・文脈における、インクルージョン/エクスクルージョンとその異なる用法について概観し、それぞれの言説における組織の役割を分析することで、「インクルーシブな組織」の概念を特定するための関連する側面を整理しています。

4つの言説とは、「社会秩序」、「社会的排除」、「インクルージョンとエクスクルージョンの相互関係」、「インクルーシブな組織」というものです。レビューの結果、いずれの言説も、「インクルーシブな組織」の側面として補足していることが示されました。


4つの言説とそこで語られる組織像

「インクルーシブな組織」と一口に言っても、さまざまな文脈において異なる説明のされ方があると述べてきましたが、どのような言説/文脈で、どのように語られているのかを簡単に説明します。

言説①社会秩序
最初の言説/文脈は、いかにして結束力のある社会秩序を作り、維持するかという問題を提起したものです。

近代産業社会の進化、つまり分業の進展に伴い、人の地位は割り当てられた業務役割と実績によって定義され、その結果として地位の差が生まれます。その中で、インクルージョンに対するアプローチは、「機会均等」を掲げることで、社会全体の結束を目指すものでした。

組織は、社会における分業を人々に提供する役割を果たします。組織の受け入れの条件(企業でいえば採用条件)によって、(インクルージョンと)エクスクルージョンを生み出すことにもつながります。つまり、組織は一部の人をインクルードする機能を果たしますが、エクスクルード(排除)することにもつながっています。

言説②:社会的排除
これは、1960年代にフランスで行われた「貧困層」に関する公開討論で初
めて言及されたものです。十分な資源があるにもかかわらず、恵まれた集団が富を集中させる一方で、特定の集団(周縁化された、マイノリティ)が物質的・社会的不安の影響を受けていたことが研究上の焦点です。

経済的、社会的、象徴的な資源に恵まれた集団が、排他的/排除的な区別に傾倒し、自分たちの資産を守り増やそうとします。こうした社会問題としての排除とその解決策としてのインクルージョンに焦点を当てるといった研究が多く現れました(Room, 2004など)。

この文脈における組織を対象とした研究は少ないようです。どちらかといえば、社会構造の問題として取り扱われ、排除の逆としてのインクルージョンとして、労働市場への参画(やそれを通じて、貧困層からの脱出を図る)を目指すという位置づけのようです。


言説③インクルージョン/エクスクルージョンの相互関係
この言説では、そもそもなぜ、そしてどのようにして、「インクルードされる者」と「エクスクルードされる者」の間に境界線が引かれるのか、そして境界線はどのような目的を果たすのか、に関する問題を扱っています。

少し哲学的なのですが、この論文で、インクルージョンとエクスクルージョンの相互関係は、以下の引用部のように説明されます。

「インクルージョン(包摂)とエクスクルージョン(排除)の概念は、それらが構成的な相互関係によって深く絡み合っているという視点に基づいており(中略)内面なくして外面はありえないということである。」

「『排除』は『包摂』を意味し、同じ意味で『包摂』は『排除』を意味する(Goodin, 1996, p.349)。」

正直、これだけではなんのこっちゃ、という感じだと思います。

例として、精神病院や刑務所、難民収容所があげられています。ある視点から見れば、こういった施設に人を送り込むことは、外に出すという意味で「エクスクルージョン」ですが、一方で、対象となる人を更正させたり、社会復帰させたりする場所という意味では「インクルージョン」とも取れるわけです。

こうした、コインの裏表のような「インクルージョン/エクスクルージョン」の関係という文脈においては、組織=収容所的な場所として研究がなされているようです。

言説④:インクルーシブな組織
最後の言説は、どちらかというと現代的で、今の研究に近い内容です。組織のメンバーが、差別や自発的な(多くの場合、無意識な)排除によって妨害されることなく、いかにして自分の才能を伸ばすことができるかが、研究上の関心事となっています。

この文脈では、インクルージョンは規範的なものとみなされ、目指すゴールであり、かつ分析ツールとなる、両方の役割を果たす戦略的概念として位置づけられています(O¨zbilgin, 2009)。

また、インクルージョンは従業員の多様性を最大化するための理想的な労働条件であると考えられており、研究では「インクルーシブな組織」を発展させるための、関連する構成要素の理論的(および倫理的)な枠組みを開発することに焦点が当てられています(Pless and Maak, 2004)。

インクルージョン(およびダイバーシティ)の実践的な意味や態度に焦点を当てた実証的なアプローチであるRoberson (2006)では、ダイバーシティが異なる社会集団の公正な処遇と関連しているのに対して、インクルージョンは組織メンバー全員に関するより広範なアプローチの想定であることを発見しました(例:協調的な労働条件、コンフリクト・マネジメント)



最後に筆者は、「インクルーシブな組織とは、効率性の向上を伴う場合にのみ望ましいものなのだろうか?」という問題提起を投げかけています。

インクルージョン(およびエクスクルージョン)を「多様な背景を持つ人々が組織やその作業集団にどのように関わるかを多面的に理解すること」(Mor Barak and Cherin, 1998, p.61)と捉えるには、まだまだ研究蓄積が待たれる、と締めくくられています。


感じたこと

正直、とても難解でした。。。上述の内容を理解するのも、まとめるのもとても大変でした。膨大な研究レビューに裏打ちされた整理だとは思うものの、抽象度の高い文章が多いため、纏めるのにとても苦労しました。(正直、何度か挫折しかけました)自分の理解力不足も大いにあるのですが。

ただ、こうした研究群をある程度まとめるている論文があると、それぞれの時代や問題意識によって、同じ「インクルーシブな組織」にフォーカスした研究でも、ずいぶんと焦点が異なることに気づかされます。

先行研究レビューを行う際に、研究群をまとめる際のヒントが得られたのは収穫でした。(もう一つは、論文は見てもらってナンボなので、なるべく平易な文章を書こう、という気付きです)

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