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【ダイバーシティ】年齢のダイバーシティが大きいと、職場の一体感は高まる?低くなる?(小泉、2021)

今回は、ダイバーシティの中でも、「年齢」という表層的なダイバーシティに着目してみます。職場にいるメンバーの年齢が多様であれば、職場における一体感は高まるのか、それとも低くなるのか?

みなさん、どちらだと思いますか?

その答えの一つは、以下の論文が明らかにしてくれました。

小泉大輔. (2021). 職場における年齢のダイバーシティと一体感. 日本労働研究雑誌.

どんな論文?

職場における年齢のダイバーシティが、一体感に与える影響を実証的に研究した文献です。

筆者である、横浜市立大学・小泉准教授の問題意識は、職場における年齢のゆがみ、という課題にあります。
日本の総人口・生産年齢人口が減少する中,高齢者人口の割合・高齢者の就業率は増加傾向な一方,正社員の減少と非正規社員の増加という長期的なトレンドと2000 年代初頭にあった採用抑制などの影響から,企業ないし職場において年齢構成のゆがみという課題が顕在化しつつある、と指摘します。

こうした年齢構成のゆがみ、つまり職場における年齢のダイバーシティが増す中で、既存のダイバーシティ研究をレビューし,「知識ベース」と「価値観ベース」という2 つの相反する理論に触れた上で、これらと年齢のダイバーシティ、一体感の関係を定量的に調査しました。

その結果、年齢が多様な職場ほど、メンバーによる職場への一体感の満足度が高いことが示されました。

結果自体は興味深いのですが、ではなぜ、そのような結果が導かれたのか、そのプロセスや考察も見ていきます。


年齢のダイバーシティ

表層的なダイバーシティ、言い換えれば人口統計学的なダイバーシティの要素の1つに、年齢のダイバーシティがあります。特に、高齢化社会を迎えている日本においては、年齢のダイバーシティが益々大きくなると予想されます。

日本においては、65 歳以上の高齢者人口は3640 万人、総人口に占める割合は年々上昇し、2020年には29.1%と過去最高を更新。高齢者の就業者数も2004 年以降連続で増加し続け,2020 年の就業者数は906 万人(過去最多)、就業率25.1%です。

その結果、職場の課題として,人件費の増加,若手のモチベーションの低下,上下の逆転現象によるネガティブな心理的反応,実務の担い手としての能力不足などが生じるとされています(平野・江夏、 2018)。

また、高齢者の就業が高まる一方、日本企業の人手不足感も高まり、組織における年齢構成の「ゆがみ」が課題となっていると筆者は指摘します。そのメカニズムを表した図を貼っておきます(味わい深い図です!)。

P79


年齢のダイバーシティが一体感に及ぼす影響プロセス

年齢のダイバーシティが、組織パフォーマンスに与える影響はいくつか先行研究でもあるようです。例えば、組織成果にネガティブな影響がある、職場における感情的なコンフリクトと負の関係(つまり、多様であればあるほど、感情的なコンフリクトが起こりにくい)がある、といった研究群です。つまり、ポジにもネガにもなり得る様です。

なぜ、どちらにも転びえるのか。その理由が、知識ベースと価値観ベースという、2つの考え方で説明されています。

1.知識ベース
若年者と年長者、双方に特有の知識があります。
若年者は年長者に比べて最新の技術的知識に精通し,新しい環境にも容易に対応できるが,仕事上の経験は乏しいもの。他方,年長者は仕事上の経験やそこでの学習によって若年者よりも深い知識や問題解決能力などのスキルが蓄積されています。

すなわち,若年者と年長者とが知識を共有したり,統合したり,互いに補い合ったりすることで,知識やスキルが蓄積され,結果として組織パフォーマンスを高める。したがって,多様な年齢のメンバーがいることはポジティブな影響につながると説明されます。

2.価値観ベース
世代の異なる従業員は、世代ごとの価値観が共有されています。
仕事と家庭についての価値観が世代によって異なるように,組織の従業員は
自身の生まれた時代背景や社会によって影響を受けるため,世代ごとに考え方や価値観も異なる傾向にあるそうです。

また、若い頃は理解できなかったことが歳を重ねてはじめて分かることがあるように,価値観や考え方も年齢を重ねるにつれ変化するもの。こうした若年者と年長者の間の価値観の相違は組織内で内集団(若年世代)と外集団(年長世代)というサブグループを形成し,その間でコミュニケーションの毀損,感情的な対立を生じさせる。

結果として世代間で補完的なシナジーは実現されず,組織パフォーマンスに負の影響を及ぼす。したがって,多様な年齢のメンバーがいることはネガティブな影響につながる、と説明されます。

つまり、年齢ダイバーシティは、知識ベースの観点だと、組織成果にポジティブな影響を及ぼし得る一方、価値観ベースの観点だと、ネガティブな影響になり得る、ということのようです。


研究の結果

本論文では、建設会社における2年分のデータをもとに、○歳以上▲歳未満、という5つの群に分け、Blau(1977)の多様性指数(というものがあるのですね・・・)を用いて職場の年齢ダイバーシティを数値化しています。この指数は、ダイバーシティがないと0、高いと0.8に近づくものとのこと。

この指数と、職場の一体感を掛け合わせて分析を行ったところ、どの年のデータにおいても、年齢のダイバーシティが、職場の一体感に与える影響は、有意であることが確認されました。つまり、年齢の構成が多様な職場であるほど,職場のメンバーは職場の一体感に満足している、という結果です。

筆者は、以下のように結果を考察しています。

 多様な年齢のメンバーで構成されている職場ほど,集団間の価値観の違いは顕在化しないために協力関係が毀損されず,多様な世代によってもたらされる知識のシナジーがポジティブに利用されるために,各世代間の知識や経験が共有,統合,補完され,職場目標に向かっての一体感が醸成されていることが推察される。
 職場の人材配置については,性別や年齢に関わらず,能力にもとづいた適材適所が望ましいとの一般的通念があるが,一方で本研究の結果は職場の年齢構成を考慮に入れた異動や配置という視点も人材マネジメントの実践的含意として指摘できよう。
 また,太田(2012)が若年者と高齢者の相互の働き方の関連性として,世代間の補完性のあり方を指摘していることとも整合的である。そこでは,ある食品会社では新しい味の開発と伝統的な生産スタイルを両立させるために異なる世代から構成されるチームを形成するという人員配置の取組みを行っている事例が報告されている。

感じたこと

表層的なダイバーシティの中でも、年齢のダイバーシティに着目した研究は少ないため、貴重な文献でした。
特に、知識ベースと価値観ベース、2つの観点から、組織成果にポジにもネガにもなりえる、というのは興味深いです。

もう少し詳しく知りたいのは(今回は、二次データ、つまり、既に収集されたデータを分析した研究なので難しいのですが)、年齢のダイバーシティが、一体感に与える影響が、職場の人数や他の要素(例えば、年齢の偏り)によって上がったり下がったりしないのか、という点です。

また、フォルトラインの生成可能性にも着目してみると、発見があるかもしれません。例えば、新卒と年長者、中途と若者がカテゴリー化されると、その間に強いフォルトラインが出来てしまう、そうすると一体感は生まれなそうな気がします。(フォルトラインについては、以下拙稿をご参照ください)

ダイバーシティと一口にいっても、年齢やら性別やらといったものや、個性や価値観まで色々です。これをうまくマネジメントしていくには、もう少し、様々なパターンの研究を調べていく必要がありそうです。
言い換えると、こうした研究知見を使えば、さまざまなダイバーシティ・パターンにおける有効なうち手のヒントが得られそうです。

これこそがまさに、「良い理論ほど実践的である」(クルト・レヴィン)だと感じます。











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