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【社会的望ましさ】サーベイ回答時に「自分をよく見せようとするバイアス」をどう把握するのか?(藤岡&脇田, 2023)

定量調査を行う際に「社会的望ましさ」というバイアスが、回答傾向をゆがめてしまうことがあり得ます。こうしたバイアスを踏まえた上で、量的調査できるような「社会的望ましさ尺度」が開発されています。

今回は、その「社会的望ましさ尺度」の短縮化を試みた論文を紹介します。

藤岡, 慧, & 脇田, 貴. (2023). 公募型web調査データを用いた社会的望ましさ尺度短縮化の試み. 関西大学心理学研究, 14, 53-63


どんな論文?

この論文は、心理学の量的調査で使われることが増えている「社会的望ましさ尺度」の日本語版(Balanced Inventory of Desirable Responding:谷、2008)の項目数を減らし、その信頼性・妥当性を検証したものです。

社会的望ましさとは、サーベイ回答時に「こう答えた方がよいのだろうな」という、社会的に望ましいと感じられる像を想定してしまうバイアスを指します。
言い換えれば、自分をよく見せようとする傾向、です。

特に、採用プロセスで行われる性格検査などでは、特に社会的望ましさ尺度が重視されるようです。

例えば、多くの会社で「コミュニケーションスキル」が採用基準であるとすると、求職者は「コミュニケーションスキルがあると思われた方がよい」と、自分をよく見せようとしてしまうケースがありえます。

社会的望ましさ尺度については、こちらのページにもわかりやすい解説が掲載されています。

研究では、1307名の参加者からウェブアンケートで収集したデータを用いて、様々な分析手法(因子分析、項目反応理論モデルに一般化部分信用モデル、マクドナルド・オメガとテスト情報関数等)を行いました。

細かい分析のプロセスは割愛しますが、短縮版の設問を作成し、その上で、もともとのBIDR-Jとの相関を求め、妥当性を検証しています。その結果、BIDR-Jの短縮版は十分な妥当性を示すことが示されました。

なお、著者らは、短縮版を2つのパターンに分けて作成しています。

短縮版Ver.A:自己欺瞞と印象操作、それぞれを短縮化(12項目)。幅広い特性値に対応可能。

短縮版Ver.B:両方の因子を合わせ、1因子として短縮化(6項目)。特定の特性値に対応可能。スクリーニング用。


社会的望ましさ尺度の研究

これまでの研究において、世界で最も利用されているのは①Crowne & Marlowe(1960)のMarlowe-Crowne Social Desirability Scale(MCSDS:33項目 )と、②Paulhus(1984)のBalanced Inventory of Desirable Responding(BIDR:40項目)と言われています。両方とも、邦訳版が作成されています。

両者とも個人特性としての社会的望ましさ反応傾向を測定する尺度ですが、著者らによると、①は1因子、②は2因子(自己欺瞞と印象操作)、という因子数の仮定が異なっているようです。

BIDR を開発し、2 因子を仮定したPaulhus(1984)によると、自己欺瞞と印象操作は以下のように説明されています。

  • 自己欺瞞:回答者が本当に自分の自己像だと信じて無意識のうちに社会的に望ましい回答をする傾向

  • 印象操作:故意に回答を良い方向に歪めて真の自己像を偽る傾向

ただし、本文献では、①と②の使い分けについては述べられていません。BIDR-Jを作成した谷(2008)によると、2因子構造の方が社会的望ましさを適切に確認できる可能性を、他の先行研究をレビューして説明しており、BIDRの有効性が高まっている印象を受けました。


背景と問題意識

こうした、社会的望ましさ尺度の短縮化における、背景と著者の問題意識にも触れておきます。論文では、社会的望ましさ尺度のメリットとデメリットが、以下のように説明されています。

近年では個人が社会的に望ましい反応をする傾向を測定するために,社会的
望ましさ尺度を用いた統制法がよく用いられる。社会的望ましさ尺度を用いた統制法は,関心のある構成概念を測定する尺度と社会的望ましさ尺度を合わせて回答してもらうだけでよく,調査者にとっては容易に利用できる点がメリットである。一方で,回答者にとっては回答する項目数が増え,それに伴い負担も増えてしまうというデメリットがある。社会的望ましさ尺度の利用法の詳細については登張(2007)を参照されたい。

P54

回答者の負担というデメリットを解消するために、短縮版の開発が進められているようです。著者らは、まだ短縮化が進められていない、BIDR-Jの短縮化に着目しています。


感じたこと

研究論文を作成するにあたっては、どれだけ、調査が確からしいか、という点が益々問われるようになっており、バイアスの低減のための手法を、あらかじめ想定する必要があります。

特に、量的調査だと、後から「これも取っておけばよかった・・・」とならないよう、予めさまざまな想定をした上で、設問設計をすることが大切。一方、どこまで丁寧にやるのかは悩ましいところです。丁寧にやろうとすればするほど、設問数が増え、負担が増えていくので、、、、

2023年に出たばかりの論文なので、まだまだ引用数が少ない本論文ですが、短縮版は実用性が高いので、今後使われていく気がします。

ただ、①と②の使い分け、また②の短縮版Ver.AとBでの使い分けに関する記載が少なめであり、実際にどう使うのかについては若干疑問が残りました。



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