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【チームワーク】チーム単位でのリーダーシップ、プロセス、成果の関連性を示した、希少性の高いチームレベル研究(縄田他, 2023)

調査研究が山場を迎えており、更新が滞ってしまいましたが、引き続きコツコツやっていきたいと思います。今回は、チームの成果に繋がるインプットやプロセスなどのメカニズムを統合的に示した論文です。

ビジネスでは、個々人の成果もさることながら、チーム・部署レベルでの成果指標やエンゲージメントがKPIとして参照される一方、あまり、チームレベルでの成果に繋がるプロセスは明らかにされていませんでした

組織開発に関わる実務担当としては、肌感覚で「チーム・プロセス」の重要性は理解できるものの、その妥当性を実証的に示した、意義ある研究です。

縄田健悟, 池田浩, 青島未佳, & 山口裕幸. (2023). 組織におけるチームワークの影響過程に関する統合モデル── チームレベルの分析による検討──. 心理学研究, 94-21064.


どんな論文?

この論文は、21組織、812チーム、5,728人の参加者の調査データをもとに、チームワークがどのようなリーダーシップに影響を受け、どのようにパフォーマンスに影響するか、といったモデルを検討したものです。

この規模のデータ、特にチーム数の多い研究はそう多くないので、大変希少性の高い実証研究だと感じます。

簡単に言えば、

チームリーダーシップ(Input)が、
チーム・プロセス(Process)を介して、
チーム・パフォーマンス(Output)に繋がる

という、一見あたりまえのように見える全体の影響関係を示すと共に、それぞれの要素(下位項目)がどう影響し合っているのかを実証的に示したもので、以下がモデル図となります。

この複雑なモデル図だけ見ても、よくわからないと思うので、後段で上部の「チームレベル」のモデルについて検討を深めます。

チーム・リーダーシップがチーム・プロセスに影響を与え、そのプロセスを通じてチーム・パフォーマンスにつながっていく。
一見当たり前なのですが、とても示唆深い結果です。よくあるリーダーシップの研究では、リーダーシップ→パフォーマンス(業績や心理的なもの)というパスがよく見られます。

しかし、チームレベルでとらえると、プロセスこそが重要な媒介要因であることを示した研究はそう多くないとのことです。これは、通常の統計的分析より高度な、マルチレベル分析と言う手法そのものの難しさ、相当多くのデータ数の必要性なども関連していそうです。

実際のビジネスでは、個々人の成果もさることながら、チーム・部署レベルでの成果指標やエンゲージメントがKPIとして参照されます

しかし、研究の難しさから、チームでの成果に繋がる過程が実証的に分析されてこなかったと想像されます。つまり、ビジネスニーズと研究成果のギャップが存在してきたのでしょう。

このギャップに対して、十分なデータ数と複雑な分析手法を通じて、チームの成果創出に向けたインプットとプロセスを明らかにした本研究は、組織開発担当者の肌感覚を支える、大変に意義深いものと考えます

研究結果の詳細

次に、チーム・リーダーシップ、チーム・プロセス、そしてチーム・パフォーマンスの要素(下位項目)間の関係から見られる詳細な分析結果を見ていきます。

ここで、課題志向関係志向という言葉が出てきますが、いわゆるPM理論(Performance-Mentainance)という、リーダーシップ行動論でも有名な三隅二不二氏の理論に立脚した要素です。

1.コミュニケーションはチーム・プロセスの中でも土台として機能する

拡大図

上のモデル図にある通り、【チーム・プロセス】において、「コミュニケーション」から、「相互協力」や「目標共有とフィードバック」に矢印が引かれています。

著者らによると、チーム内で常日頃からコミュニケーションを取ることによって,相互に協力しあい,目標を共有しながら協働するチームとなると解釈できる、とのこと。


2.チーム・リーダーシップとチーム・プロセスの関係性

両者には、ともに課題志向的側面(P)と関係志向的(M)な側面があり,

  • 課題志向リーダーシップ(P)はチーム・プロセスの課題志向的側面(P)としての「相互協力」,「目標共有とフィードバック」との関連が強く,

  • 関係志向リーダーシップは(M)チーム・プロセスの関係志向的側面(M)としての「コミュニケーション」との関連が強い

という、P→P、M→M対応関係が見られた、と説明されています。


3.チーム・プロセスのなかでも目標共有とフィードバック(P側面)は,チーム・パフォーマンスとの関連が強い

最後に、チーム・パフォーマンスとの関係を見ていきます。チーム・プロセスからパフォーマンスの2要素に影響を与えたのは、「目標共有とフィードバック」でした。

この結果から、チーム全体の目標が不明瞭なまま漫然と働くのではなく,メンバー同士が目標を明確にして共有しながら協働できることは,実際にチームが成果をあげることに直結することが示唆されます。


従来のチームワーク研究とML-SEM

本文献で扱われたチームワーク研究において、チームワークは,組織レベル,チームレベル(集団レベル),個人レベルの3 つの水準から整理されるようです(Mathieu et al., 2008)。

欧米では、組織‒チーム‒個人という重層性に基づく検討・分析が進んでいる(Chan, 2019)一方、日本国内の研究では,個人のチームワーク行動が中心、と著者らは指摘しています。

こうした、チーム単位の統計的分析に、マルチレベル構造方程式モデリング(ML-SEM)という手法が使われています。

(以下、マニアックな統計的な説明箇所を引用しますので、読み飛ばしてください。)

ML-SEM とは,集団(チーム)の中に個人が所属するといった階層構造のあるデータに対して,構造方程式モデリングを適用した分析です。個人レベルとしてのwithin モデルと,チームレベルとしてのbetween モデルのそれぞれでモデルを構築して分析する。ML-SEM の利用によって,チームレベルと個人レベルの効果を的確に分離しながら,本研究が対象とするチームレベルの影響過程モデルの検討が可能となる。ML-SEM の結果,「コミュニケーション→ 目標への協働→ チーム・パフォーマンス」というチームレベルの過程の妥当性が高いことを示した。階層線形モデルによるマルチレベル分析は組織チーム研究でも多く利用されてきた一方で,そのSEM 版であるML-SEM を用いたチームレベルのチームワーク過程の検討は国内外ともに乏しい。
通常,SEM では大きなサンプルサイズが必要である。
(中略)
ML-SEM の場合にはチームレベルのモデルを検討するため,チーム単位のサンプルサイズを準備する必要があり,100 チーム以上が必要だという指摘もある(González-Romá & Hernández, 2017)。

感じたこと

チーム単位の研究では、チームの数だけデータが必要です。その分、研究上のハードルが高いという難点があります。

本研究は、実に800超のチーム数を得て、組織ーチームー個人と言うマルチレベルでの分析が可能になっているという点でも稀少ですし、マルチレベル構造方程式モデリングという手法を行っている点でも珍しい論文です。

人的資本開示の流れもあって、エンゲージメントサーベイがかなり普及していたり、組織開発の需要が高まっている現場感からしても、チーム単位での成果やエンゲージメントの求められる状況下、今後ますますチームレベルの研究ニーズは高まると思いますし、その研究結果が企業組織に対して提供する示唆も大きくなると考えられます。

こうしたチームレベルの研究をもう少し探っていこうと思います。

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