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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILの新しい指標!?(Hamilton, 2022)★博士論文

今日はILに関する博士論文をご紹介します。ポートランド州立大学の方の博士論文がPDF化され、見られるなんて素晴らしい・・・本当に便利な時代です。

Hamilton, K. M. (2022). Clarifying and Measuring Inclusive Leadership.

どんな論文?

インクルーシブ・リーダーシップの測定尺度に関する論文を丁寧にレビューし、測定尺度の妥当性に関する検証が不十分であることに着目し、尺度作成や妥当性検証を行った文献です。

筆者は、Randel et al.(2018)や、Perry et al., (2020)で提起された理論モデル(つまり、先行研究の結果を組み合わせると、このようなことが言えそう、という理論値)をベースに、ILの測定尺度を作り上げました。構成要素は、以下の3つです。

  • Facilitating Belongingness(帰属感の促進)

  • Supporting Uniquness(独自性/自分らしさの支援)

  • Preventing Mistreatment(虐待の防止)

P80

研究は、以下のような6段階のプロセスで行われています。(Hinkin (1998) と DeVellis (2003) の研究デザインに従ったようです)
※専門的な言葉が多くてすみません。。

(a)設問項目作成:専門的な第三者を交えた設問づくり
(b)内容検証・項目削減:設問を第三者に示し、各設問を次元(上の3つ)に当てはめてもらうと共に、他の第三者が設問の関連性と明確性を検証
(c)探索的因子分析:定量調査・分析により、項目の因子構造を確認
(d)確認的因子分析:別サンプルに対する定量調査・分析により、想定した3次元の因子構造を確認
(e)収束・判別妥当性:
作成した尺度・設問が、他の類似する概念の尺度・設問とどの程度相関「する」か、また、異なる概念の尺度・設問とどの程度相関「しない」かを定量調査で確認
(f)予測妥当性:他のIL尺度研究で示された成果変数との関連と比較し、より強い関連が見られるかを確認する

(設問1つ作成するのにも、このようなプロセスを経るのかと思うと、気が遠くなります。)

結果として、他のIL尺度よりも説明力のあるIL尺度となったようです。


既存のIL尺度に対するツッコミ

筆者によると、Carmeli et al.(2010)のIL設問9項目と、Nembhard and Edmondson(2006)のLeader Inclusiveness3項目がツートップだとのことです。これは私のレビューとも一致しました(一安心)。

それ以外にも、5つのIL尺度が使われているようで(今後、これらもレビューしなくては、、、)、ILを測定する尺度は計7つあるようです。

また、妥当性の検証が不十分であることに加え、文脈がある業界に偏っている場合も、普遍性に対する疑問が生じると筆者は述べています。(例えば、医療業界や軍隊)

以下が、7つのIL尺度の一覧です。

P74

さらに、筆者は、これらの尺度研究に対して、ILの要素を網羅できていないのでは?という観点で、ツッコミを入れています。このように批判的に過去の研究をレビューすることで、自分の研究の正当性を示すことは、論文構築の基本となります。

(この投稿では、研究内容やレビューの詳細は割愛します)


感じたこと

博士課程在籍者としては、このような論文は大変参考になります。博士論文をどのように作成するか、という気の遠くなるような作業に対して、道しるべを置いてくれたような気さえして、感謝の念が湧いてきます。

また、既存のIL研究において、設問に関する妥当性が検証されていない点は、自分の研究においても大変重要な示唆でした。既存の尺度・設問を扱う場合、その妥当性についてどう考えるのか、という点は考えなくてはならなそうです。

また、尺度設計の研究プロセスも勉強になりました。7つのプロセスが丁寧なようですが、専門的な第三者による項目チェックや、複数回にわたる定量調査・分析を行う必要性を考えると、本当に気が遠くなります。。。


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