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【社会的交換理論】社会的交換の考え方が研究で使われる1つの事例ーPOSやLMXに着目して(Settoon et al., 1996)

ここのところ、社会的交換理論に焦点を当てて文献をレビューしてきましたが、今回は、社会的交換理論が実際に理論的根拠として使われている実証研究の論文を紹介します。

Settoon, R. P., Bennett, N., & Liden, R. C. (1996). Social exchange in organizations: Perceived organizational support, leader–member exchange, and employee reciprocity. Journal of applied psychology, 81(3), 219.


どんな論文?

社会的交換の理論に基づき、知覚された組織的支援(POS)やLeader Member Exchange(LMX)という、交換関係に近い概念と、それらが影響する概念との関連性を調べた研究です。

POSは、従業員―組織間の「交換」と捉えることができ、LMXは部下―上司間の「交換」と捉えることができることに着目し、社会的な交換を具体的な概念に置き換え、定量的な調査研究を行っています。

具体的には、これらの「交換」が、組織コミットメントや、役割に基づいた行動(In role behavior)、組織市民行動(役割を超えた行動)、にどう影響するかを、構造方程式モデリングという分析方法を通じて示しました。結果が以下の図のようになります。

まとめると、従業員と組織における交換を表すPOSは、組織コミットメントに影響を及ぼし、上司と部下における交換を表すLMXは、役割内行動や組織市民行動に影響を及ぼす、ということが明らかになっています。


社会的交換理論をベースにした概念

今回の研究では、POSとLMXが、社会的交換の考え方に沿うものとして扱われていますが、それぞれに関して、著者らの補足を紹介します。

1. POS

Eisenberger et al.(1986)は、組織が従業員の貢献をどの程度評価し、従業員の幸福をどの程度気にかけているかについての信念を、知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support)と名付けています。

POSのレベルが高いと、個人の中に組織に報いる「義務」が生じると考えられています。さらに、著者によると、組織に対する「信頼」とも関連しているようです。

組織と従業員の間にある義務や信頼によって、従業員は組織に対する忠誠心を返す、ということが、社会的交換の背景から論じられています。その忠誠心を表す概念として、本研究では、組織的コミットメントが測定尺度として用いられています。

後述する、上司ー部下間の交換関係においても、組織コミットメントが作用しそうですが、他方で、正式な雇用契約から大きな利益を得ているメンバーは、たとえ上司ー部下間の交換の質が低くても、組織に貢献する義務や意欲を感じている可能性がある、と述べられています。

つまり、組織から与えられている支援や報酬を知覚(受け取る)と、組織への忠誠心を高める、ということかと思います。


2.LMX

LMX(Leader-Member Exchange)は、交換型リーダーシップの文脈で説明されることの多い概念で、簡単に言えば、リーダーとメンバーの関係の質です。

論文では、「上司は、影響力や支援といった価値ある誘因を提供することで、さまざまな仕事において部下の協力を得る(Graen & Scandura, 1987 )。」と説明されます。

上司が、影響力を発揮したり、部下の支援を行うことで、互酬性の規範の観点から、部下の側にはその支援に応える義務が生じます。
この義務感により、部下が、自分の時間を割いて上司の要求に応じたり、上司と一緒に残業をするなど、上司の利益になるような特別な役割に従事したりするといった恩返しをする、ということが想定されました。

こうした、返礼の義務が湧くことで、役割内行動(いわゆる、ジョブ・ディスクリプションに記載される行動)だけでなく、役割外の行動の組織市民行動が高まるのではないか、というのが著者らの仮説です。

簡単に言えば、上司との関係性が良ければ、決められた仕事以外も頑張っちゃう、という感じでしょうか。

研究から得られた示唆

上述のように、社会的交換理論や互酬性の規範から、以下のような研究結果が示されています。

  • POS→組織コミットメント(つまり、組織からの支援を受け取ると、コミットメントを返す)

  • LMX→役割内行動、組織市民行動(つまり、上司から質の高い関係性となる支援を受けると、役割における行動に加え、役割を超えた行動も返す)

こうした結果から、以下のような実践的示唆が述べられています。

我々の結果は、それぞれの交換関係が行動や態度に異なる影響を与える可能性を示唆することで、社会的交換理論を拡張するものである。社会的交換に関する過去の研究と今回の結果を組み合わせると、従業員にとっても組織にとっても、複数の交換関係が必要であることが示唆される。従業員は各交換関係から異なる形態の資源や支援を確保し、組織は各交換関係に関連する、望ましい従業員の態度や行動から利益を得る。このように、我々の知見は、それぞれの交換関係が異なる従業員の行動と関連している可能性を示唆しており、実践上も重要である。このことは、従業員の態度や行動を変化させるプロセスは、当初考えられていたよりもさらに複雑である可能性を示唆している(Krackhardt & Hanson, 1993参照)。

感じたこと

この論文で興味深いのが、社会的交換理論を援用する際の、交換の主体者の設定の仕方です。

上司―部下間の交換(LMX)は比較的思いつきやすいですが、組織ー従業員間の交換、というのは、まさにBlau(1964)が述べた、2社間の交換関係が、集団における社会的交換へと展開するものであり、理論を深く読み解かないと発想できなかった観点でした。

社会的交換や互酬性というのは、組織人としての行動の中に、多く組み込まれている原理のような気がします。その原理を深く理解することで、集団における人々の行動の説明要因がよりクリアになりそうです。

社会的交換理論のような古典を読むのは大変ですが、意味合いが随分と理解できてきて、楽しくなってきました!(ようやく・・・)

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