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【ダイバーシティ】ダイバーシティに対する肯定的な信念があると、違いや個性に対する見方が変わる?(Homan et al., 2010)

今回はダイバーシティについての文献をご紹介します。

ダイバーシティ界隈では、アンコンシャス・バイアスを低減する取り組みなども多く聞かれますが、こちらは逆に、持っていると良いとされるポジティブな信念となります。

Homan, A. C., Greer, L. L., Jehn, K. A., & Koning, L. (2010). Believing shapes seeing: The impact of diversity beliefs on the construal of group composition. Group Processes & Intergroup Relations, 13(4), 477-493.


どんな論文?

この論文は、Diversity Beliefs(多様性に対する(肯定的な)信念)が、所属するグループのメンバー内における多様性の解釈に影響を与える、ということを示した論文です。

Diversity Beliefs(DB)ですが、リーダーとメンバーにおける関係性(LMX)や、リーダー行動、業績に影響するといわれる概念です。
異文化関連、経営学関連など様々な側面から研究されており、研究者間で統一された尺度もなさそうな印象です。

ざっと様々な文献を探る限り、民族的な観点(Ethnic diversity)を考慮に入れた尺度が多いのですが、この論文では、もう少しシンプルに「ダイバーシティという考え方」に対する信念を測定する尺度が紹介されています。(特に、妥当性検証などは行われていません)

著者らは、肯定的な多様性信念は、メンバーがグループ内のサブグループ(カテゴリー)を知覚する可能性を低下させ、メンバーが個人差を知覚する可能性を上昇させるという仮説を立てました。要するに、DBが高いと、安易にカテゴリー化せず、個々の違いに目を向けられる、と言うことです。

論文のタイトルにあるように「信じることは見ることを形成する(Believing shapes seeing)」、つまり、人の信念が、その人の見る世界を構築する、と著者らは考えました。

その仮説を、組織内のチームを対象としたフィールド調査と、企業における実験室調査の2つの調査で検証しています。

結果としては、予想された通り、グループメンバーのDBが肯定的であればあるほど、サブグループの認識度合いは低くなりました。
逆に、DBが否定的な場合は、サブグループの存在を知覚することに関連しています。


Diversity Beliefsの有効性と意義

論文では、「DBとは、集団機能にとっての多様性の価値に関する信念と定義することができ、人々は多様性の肯定的な価値を信じれば信じるほど、集団の多様性に好意的に反応する」という、Ely & Thomas(2001)の文献からの説明が紹介されています。

また、Homan et al.(2007)によると、タスクに関連する情報が異なる多様なワークグループのメンバーが、類似性の価値ではなく多様性の価値を信じた方が、より多くの情報を交換・処理し、より良い意思決定に至る、という研究も紹介されます。

このように、DBは、多様な集団の行動や成果に影響するが先行研究によって実証されています。

研究の背景と問題意識

上述の通り、著者らは、肯定的なDBがあればあるほど、人々は一般的に異なる他者に対してよりオープンになり、その結果、集団を、対立するサブグループ/カテゴリーに分かれているという見方をしなくなる、と考えました。その論拠が、先行研究からレビューされています。

  • 多様性を重視する人ほど、「私たち対彼ら」という区別をする傾向が低くなるはずである( Brewer, 1979; Tajfel &Turner, 1986; Turner, Hogg, Oakes, Reicher, &Wetherell, 1987; cf. Homan et al., 2008)。したがって、好ましい多様性信念を持つ人は、好ましくない多様性信念を持つ人に比べて、客観的な多様性をサブグループの観点から解釈する傾向が低いということができる。

  • Homanら(2008)は、ダイバーシティに寛容なチームは、ダイバーシティを下位グループという観点よりも、個人の違いという観点で捉えているため、ダイバーシティをより有効に活用していると示唆した。

  • 多様性にオープンであることは、たとえ差異がまだ目に見えるとしても、有害な「我々と彼ら」の区別を生じにくくする(Flynn, 2005)。

こうした先行研究はあるものの、著者らは、「何が、人の多様性の見方・捉え方を決定するのかは不明」と言う点に問題意識を持ちました。その上で「自分たちの集団の多様性をどのように解釈するかは、多様性の価値に関する集団成員の信念によって形成される」という考え方に至り、その仮説を検証するための調査を行っています。

パーソナリティとの関連

ここでも、パーソナリティ研究で有名な「ビッグファイブ」が登場します。ビッグファイブについては、過去の投稿でも触れているので、ご興味あればこちらも参照ください。

ビッグファイブの中でも、「経験に対する開放性」は、集団構成に関する知覚に関連していると、過去の研究においても考えられているようです。

  • 経験に対する開放性とは、新しく見慣れない考えや経験を探求し、許容し、考慮しようとする個人の意欲のことである(McCrae & Costa, 1987)。

  • Ekehammar とAkrami (2003) は、他のどの5大要素よりも、経験に対する開放性が、多様性に関する信念や態度に関連することを実証している。

  • Flynn (2005)は、経験に対する開放性のスコアが低い人よりも高い人の方が、マイノリティのメンバーに対してより肯定的な態度を示すことを示した。

今回の研究では、経験に関する開放性を、グループにおける知的作業(ブレインストーミング)と、身体的作業(紙で輪をつくるもの)に分けています。

その結果、身体的作業では、経験に対する開放性が多様性の認知に影響を与えない一方、知的作業では、経験に対する開放性の得点が高いほど、サブグループに対する認知は弱く、個人差に対する認知は強く出ました。

こうした結果から、経験に対する開放性、というパーソナリティ特性は、多様な集団で働くことの潜在的なマイナス効果を緩和するだけでなく、チームにおける多様性のプラス効果の前提条件である、集団内の個人差に対する認識も高めることが示されています。

DBに肯定的な信念を持ち、多様性に価値を見出せば見出すほど、人々はグループ内のカテゴリーではなく、一人ひとりの個性をより強く意識するようになる。そして、この傾向は特に、人々が知的集団作業に取り組むことを予期している場合に顕著、というのが、本稿の結論です。

最後に、筆者らはDBを変えることの有効性・重要性を以下のように述べ、本論文を締めくくっています。

多様性に関する信念を変えることは、実際の集団の多様性を変えることよりも実行可能であり、より効果的であるように思われる。社会や組織は既存の差異に対処しなければならず、集団構成の可鍛性には限界がある。特定の構成のグループを作ることに焦点を当てるよりも、多様性に関する信念を改善することに焦点を当てるべきである。

P503

感じたこと

少子高齢化、価値観の多様化がすすむ日本において、今後、職場はますます多様化することが予想されます。一方、職場の管理職や人事が、多様なメンバーを常に適切に配置することは困難です。

そんな中で、多様性に関する信念を肯定的に変えることで、個々人の多様性を認められるようになる、という研究結果は示唆深いものがあります。

教育的に同調圧力が強い(と私が感じる)日本で育つと、どうしても多様性にちょっと否定的になってしまいがちかな、と個人的に感じます。

(以前、息子の参観日で「皆さんどうですか?→同じです!」というのが、各発表でデフォルトになっているのを見て、愕然としました)

しかし、多様性に対する肯定的な信念がはぐくまれると、多様性・「異」なるものへの見方が変わり、行動が変わる、というのは、人材開発においても活かしたい考え方です。

もっと言えば、学校教育において、多様性に対する肯定的な信念を持てるようにしておくことが、多様性を活かす人・組織をつくり、結果としてイノベーションを生む、とも感じました。

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