【無料記事】日本の学生野球の素晴らしさ
今週から選抜高等学校野球大会が開幕しました。私事ですが、私が卒業した八幡浜高校は私が入学する直前の第76回大会に出場しました。もう20年も前の話ですが、入学して甲子園に出た先輩たちと同じグラウンドで練習できることがうれしかったのは今でも鮮明に覚えています。
さて、今回この記事を書こうと思ったのは、タイトルの通り、日本の学生野球の素晴らしさを、日本の外に出た私の目線から皆さんに知っていただきたいと思ったからです。
アメリカの学生野球
高校野球
アメリカにも高校野球はありますが、学校としてのシーズンが二月下旬から五月上旬までで、六月上旬から八月下旬までの夏休みの間、希望者は「トラベルチーム」に所属して試合経験を積みます。だれでも好きなチームに所属することができるわけではなく、有名なチームに入ってスカウトの目に留まるためにはトライアウトに合格しなければなりません。
野球がオフシーズンに入ると、多くの子どもたちはフットボールやバスケットボールなど、シーズンが被らない別のスポーツに参加します。
日本の甲子園のような学校単位で参加する全国大会は存在せず、任意で参加したチームが招待される形でそのような大会に参加することになります。↓のリンクは「USAベースボール(アメリカ選抜チームを運営する団体)」が主催する全国大会です。
学校外で参加するチームのことを”prep(準備の意味)チーム”と呼び、大学もしくはプロのスカウトにアピールすることが最大の目的となっています。このようなシステムは民間の団体によっても運営されており、Perfect Gameが有名です。
このようなチームに参加するためには実力を身につけることはもちろんですが、自分でプロフィールを作り、同団体が開催するイベントに参加してその実力をアピールし、少しでもいい”履歴書”を作っていかなければなりません。なのでアメリカではリトルリーグで野球をしているくらいの段階から、子どもたちは将来を見据えて”就活”をしているようなイメージです。
大学野球
日本の高校野球に近いのはアメリカの高校野球よりも大学野球でしょう。多くの熱狂的なファンが存在し、プロスポーツは観ないけどカレッジスポーツなら観る、という人もたくさんいます。
アメリカの大学野球には全米大学体育協会、NCAAを筆頭にいくつかの組織が存在しますが、高校時代に秀でた成績を残した選手はMLBからドラフト指名されるか、ほとんどはNCAAの一部リーグに所属する大学に進学します。以前から奨学金の制度はあり、学校に通う費用やその他を免除されることは一般的でしたが、昨年から民間企業とスポンサー契約を結ぶことができ、実質的に給料をもらいながら学生スポーツをプレーすることができるようになりました。
大学野球に関わるお金は桁違いで、有名な地区の一つ、サウスイースタン・カンファレンス(通称SEC)の中には9千万米ドル、日本円にして年収1億円以上に上る監督も存在します。
審判も例外ではなく、週末の金・土・日曜日の四人制で1試合あたり1千ドルが支払われるカンファレンスもあります。
商業化がもたらしたもの
教育機能の空洞化
このようにアメリカの学生野球はかなりシステマチックに営利化されています。もちろん花巻東高校の佐々木麟太郎さんが今度進学するスタンフォード大学や名門イエール大学などに入るためには、野球の実力もさることながら、勉強でもその大学を卒業することができるだけの学力を入試の段階で証明しなければならないため、一切の妥協は許されません。
ただ、いわゆる”野球エリート”たちを輩出するシステムとその華やかさの一方で、商業化が進みすぎたあまり、学校が本来果たすべき教育としての側面が機能していないという懸念があります。
派手なパフォーマンス
アメリカの野球には不文律(Unwritten Rules)が昔から存在し、それは相手への敬意を表するものでしたが、近年それが破られるケースが増えてきています。
時代が変わるにつれて「いいもの」「悪いもの」は変わっていきます。また、その行為をする人物によっても反応は違うため、一概にすべてを画一化するのはいいことではありません。例えば、大谷選手はホームランを打った後にいわゆる「確信歩き」や「バット投げ」をしますが、それについて文句を言ったり次の打席でぶつけようとされるようなことは今までありませんでした。それは大谷選手に実績があり、また普段の素行が認められているからです。
ただそれが度を越えたため、大学野球では新たなルールが作られました。
調べたところ、日本にも↓の取り決めがあるようです。
アメリカと日本における「パフォーマンス」の違い
私の個人的な意見ですが、日本で見られる「ガッツポーズ」は、本当にうれしいときに心からの叫びを体現したもので、相手を侮辱する意図はありません。昨年話題になった「ペッパーミル」のジェスチャーも、流行りというのもありましたが、あくまでチーム内で楽しむためのもの。
ただアメリカでは、相手を侮辱する意図を持って大きなジェスチャーをすることが多々あります。審判の立場からなぜわかるかいうと、ジェスチャーをしながら、またはした後に相手を睨みつけたり、相手に向かって叫んだりするからです。
あとは打たれた側や押さえられた側が相手の行動に敏感になることもあります。日本人と比べると、アメリカ人はその辺りは非常に繊細でガラスの心を持っています。私の感覚では、日本人はホームランを被弾したり、三振を奪われたら”負け”を認め、相手が喜ぼうが何しようがそれは勝負に”勝った”から許されるべき、と捉えるのだと思います。
日本の学生野球の素晴らしさ
攻守交代のはやさ
高校野球では平均試合時間が2時間を切ることも珍しくありません。これはピッチクロックのような無機質な物がなくても、選手一人一人が駆け足で攻守交代に努め、それを促す指導者、審判員そして高校野球連盟の指導及び呼びかけが徹底しているにほかありません。
対戦相手への敬意
育つ国が違うと言っても、中身はみんな血気盛んな10代の子どもたちです。うれしい気持ちは目一杯表現したいし、悔しいときは腹が煮え繰り返るほど怒りを覚えることだってあるでしょう。でも日本のスポーツではまず相手を敬うことをその習慣によって身につけ、娯楽としてではなく、教育としてスポーツが育まれてきた背景があります。なので↑のような、ホームランを打った打者が投手を馬鹿にすることもなければ、ホームランを打たれた投手が打者が喜ぶ姿を見て”報復”することがないのです。
規律正しい日本野球をいつまでも
アメリカ人はマーケティング能力に長け、物事を商品化する力は世界一です。アメリカの野球は学生野球の段階から巨額の資金がつぎ込まれ、メジャーリーグの契約金は桁違いです。近年、ヨーロッパサッカー界でも同様の契約が見られますが、その裏ではアメリカの企業や代理人が暗躍しています。
ただ皮肉なことに、そして私たち日本人として誇らしいことに、メジャーリーグで最高額の契約を結んだのは日本で生まれ育った大谷翔平選手なのです。そして彼が中心となって戦った昨年のワールド・ベースボール・クラシックでは日本が決勝でアメリカを破り、世界一に輝きました。
マーケット規模には大きな差ができ、人口が減少傾向をたどる日本はこれからも商業面では差をつけられることでしょう。それは日本の政治家や実業家、経営決定権のある方々にどうにかしてもらうとして、日本がこれまで作り上げてきた”ベースボール”ではなく、”野球”というスポーツはこれからも守り抜いていかなければならない、と私は思います。
アメリカからベースボールが輸入されたとき、多くの著名人は否定的な態度を示しました(「野球害毒論」)。しかしそれがなければ、今日のような規律正しい日本野球は生まれなかったかもしれません。
アメリカが見せるものはいつもきらびやかでついつい引かれてしまいますが、私たちの国、日本が作り上げてきた文化を守り、これから世界に発信していきたいものです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?