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【MLB】退場の基準

メジャーリーグの試合では、監督・コーチや選手が退場になることが珍しくなく、平均で毎年200件を超えます(画像↓)。

『2000年から現在にかけての退場数年表』 Close Call Sports調べ(2019)

昨年2023年シーズンの公式戦での退場件数は239。年間総数2430試合開催されるメジャーリーグにおいて、1日15試合(30チーム)で単純計算すると、1日あたり1.48件になります。日本のプロ野球で「危険球」を除けば1シーズン10人も退場にならないことを考えると、かなり大きな数字であることがわかります。

「どういったケースで退場が宣告されるの?」

と疑問に思う方もたくさんいらっしゃると思います。そこで、今回はMLBアンパイアマニュアルに記載されている「退場の基準」を解説してまいります。


Standards for Removal(退場の基準)

まえがき

MLB Umpires are entrusted with the authority to remove any participant from a game. This responsibility should never be taken lightly. Major League Baseball recognizes that every situation is unique and that umpire discretion is essential to proper rule enforcement. While there are unique and extraordinary circumstances, players and Clubs look to the MLB umpiring staff for uniformity in applying consistent standards for ejection. The following general principles should be considered when deciding whether to eject a player, coach, manager, or other person from a game:

拙訳:
メジャーリーグの審判員は、試合から参加者を退場させる権限を与えられている。この責任は決して軽んじてはならない。メジャーリーグ機構は、すべての状況は異なっており、審判員の裁量が適切なルール適用に不可欠であることを認識している。稀で特別な状況もあるが、選手や球団は、退場させる際の基準を統一して適用する点で、MLB 審判員に一貫性を求めている。選手、コーチ、監督、またはその他の人物を試合から退場させるかどうかを判断する際には、以下の原則を考慮すること。

MLB Umpire Manual, Conduct and Responsibility of Umpires Ⅳ Standards for Removal

審判員に対する直接的な罵倒、または侮辱的な言葉遣い

これはおそらく一番わかりやすいもので、知っている方もたくさんおられるのではないでしょうか。英語では「magic word(魔法の言葉)」と揶揄されることもあります。

一番単純なものだと

「You are ◯◯!」(お前は◯◯だ!)

の◯◯の部分に侮辱的な表現が入った場合に退場させるというものです。
この◯◯の中に入る言葉としては

  • terrible(ひどい)

  • horrible(最悪)

  • horseshit(<直訳>馬の糞→ナンセンス)

が一般的です。

日本語に意訳するとそうでもありませんが、「shit(糞)」が語尾につく言葉はとても卑猥・不躾と受け止められるため、たとえば日常会話で使用するときは間柄の知れているもの同士ならそこまで違和感はありませんが、知らない人がまわりにいたり、職場などでは気をつけなければならない言葉遣いです。

ちなみに

「That's horshshit!」

となれば、退場の対象にはなりません。理由は事象に対して「ナンセンス」と言っているので、審判員への”直接的な”罵倒や侮辱には当てはまらないからです。同様な表現に

「That's bullshit!」

があります。直訳は「牛の糞」ですが意味としては「ふざけるな!」や「デタラメだ!」が日本語としてはしっくりくる表現になります。
意味的には「ナンセンス」の「horseshit」と似ていますが、審判員への直接的な侮辱として

「You are bullshit!」

と使われることは基本的にありません(スペイン語圏の南米の選手が勘違いして使ったのは聞いたことがあります。)
なぜなのかはっきりした理由はわかりませんが、人に対して「bullshit」は使わないのだそうです。

他にも、

  • Why don't you go buy a pair of glasses?!(メガネを買ってこい!)

  • You screwed me twice today!(今日2回も俺をひどい目に遭わせやがって!)

  • You've been bullshitting all day!(一日ずっといい加減にやりやがって!)

などがあります。ポイントは、発言が個人的な侮辱であることです。「You are ◯◯」のように「あなたは◯◯だ」だと直接的で個人的な侮辱であることは一目瞭然ですが、そうでない場合はたとえば「メガネ買ってこい!」だと、「目が悪い」ということをほのめかしており、これは侮辱にあたります。

「2回もひどい目に遭わせやがって!」もその審判員の以前の判定と関連づけており、侮辱が個人的になっています。

また「bullshit」が出てきました。今回の使い方は動詞として使われていて、「いい加減にやっている」みたいな意味になります。これも個人的な侮辱にあたります。

また、日本では若干誤解されているいわゆる”Fワード”についても触れておきましょう。

言わずもがな、「fuck」という言葉は英語の中で一番下品な言葉で、教育現場はもちろん、公共の場での使用は控えるべきNGワードというのは知っている人がたくさんいると思います。

ただ、これは使い方によってはこの単語が入っていても必ずしも退場の扱いになるわけではないことを覚えておきましょう。

  • 「Fuck!」

これは「クソッ!」のように、悔しさを表現するときに使う感嘆詞です。

  •  「That's fucking horshit/bullshit!」

これは先述した「That's horeshit/bullshit(ナンセンスだ/デタラメだ)」にvery(とても)の意味合いで「fucking」が入ることにより、より強調された表現にはなります。判定に対する不満とは捉えられますが、少なくとも直接的・個人的な罵倒・侮辱には値しないため、即退場とはなりません。


審判員への身体的接触

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