問題多い社説の拙速掲載は許されぬ

1週間前(4月23日)の日経の社説ですが、不覚にも見落としていました。

私も、政府が提出した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」(以下「年金法案」と呼びます)の審議が始まり、それについてしっかり審議をして欲しいという記事を先日書きました。

したがって、「拙速審議は許されぬ」という部分については私も同意するのですが、如何せんこの社説が訴える年金改革の方向性は、おかしな点が多く、かえって読者に誤解を与える内容となっていることに、強い懸念を感じます。

まず一番の大きな誤りは、被用者保険の適用拡大の意義を十分に理解せずにいるところです。適用拡大について、その意義を理解していないので、下のような表面的な両論併記の解説になるのでしょう。もし、パート主婦が就業時間を減らすなら、その分を正規雇用を増やして穴埋めすればいいのではないでしょうか。

厚生年金の加入促進は、不本意なまま非正規として働いている就職氷河期世代などにとって朗報だろう。他方、会社員の夫をもつパート主婦は、新たに求められる保険料負担を避け就業時間を減らす可能性が強い。流通業などの人手不足問題には逆風になる。

また、適用拡大には基礎年金の目減りを抑える効果もあるのに、それには触れず、下のような持論を展開する意味が理解できません。

同時に、基礎年金が著しく目減りする副作用をどう和らげるか。消費税収などを活用して安定した公費財源を確保するのが、政治の責任であろう。

勘ぐった見方をすれば、日経は、適用拡大による保険料負担の増加を避けたい中小企業の味方をしていて、それは裏を返せば、弱い立場にある労働者と国全体としての経済成長を犠牲にしているということになるのです。

ここで、もう一度適用拡大に反対する中小企業の言い分について、妥当性を検討した下の表をご覧ください。

適用拡大反対意見検証

日経は、適用拡大の是非について国民に分かりやすく伝えて、国民的な議論を盛り上げる役割を果たして欲しいと思います。

適用拡大賛成反対

社説が主張しているもう一つのポイントは、年金の給付水準を抑制するマクロ経済スライドのフル適用です。

問題は、現役世代の賃金や消費者物価が下がったときなどに、年金のマイナス改定を可能にするルールを見送った点だ。デフレ基調が続けば、そのツケは将来世代に及ぶ。経済の動向にかかわらず、年金の実質価値を切り下げるルールを法制化すべきである。

これは、2014年の財政検証時にオプション試算として示され、制度改革の俎上に上がったのですが、現在の年金受給者への配慮から実現に至らず、キャリーオーバー制という形で落ち着きました。

結果として、2018年度~2020年度の過去3年分については、キャリーオーバーも含めて給付水準の調整が実施されているので、十分ではありませんが、改革の効果が出ており、もう少し様子を見る必要があるのではないでしょうか。

そして、受給開始時期の選択肢を75歳まで拡大する改正については、支給開始年齢の引上げと混同するようなことを言い、これも読者に誤解を与えているとしか言いようがありません。   

現在、年金をもらい始める年齢は65歳を基準に受給者の選択で60歳までの繰り上げ・70歳までの繰り下げができる。法案は繰り下げの上限を75歳にする内容だが、年金財政に対し中立に設計するため制度の持続性向上には無力だ。
基準年齢を70歳に引き上げたうえで、繰り上げ・繰り下げの範囲を65~75歳にするなど、年金財政を好転させる改革を求めたい。

基準年齢を70歳に引き上げることによって給付水準を抑制すると、今の受給者は影響を受けず、将来の受給者のみ影響を受けることになります。これは、社説の冒頭で懸念を示していた、「将来世代への視点が弱い」ということにならないでしょうか。

年金財政を維持するための給付水準の抑制は、現受給者も将来の受給者も、共に痛みを分かち合う、マクロ経済スライドを着実に実施することによって達成できるはずで、社説が主張するような「支給開始年齢の引上げは」不要であることを改めて強調しておきたいと思います。

日経が、独自の改革案を唱えることは自由ですが、その前に、年金部会での議論の内容をしっかりと踏まえ、評価した上で、やって欲しいと思います。

#COMEMO #NIKKEI


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