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さよなら三月また来て四月

2年ぶりくらいに袖を通したステンカラーは記憶していたよりも思いのほか重くて、それでも、風を切る裾がポトポトと膝裏を叩く度に、ロングコートの魅力を思い出している。

ついこの間まで、「グミ・チョコレート・パイン」を読み直していた。
大学生だった頃に一度読んだきりで、読み直したりする事もなかったのだけど、急に思い出して、振り返りたくなって、グミ編、チョコ編、パイン編と立て続けに読み倒した。

当時、それまでまともに読書などしなかった僕がこの作品を読んで、そこから「読書」するようになったきっかけの作品。
あの頃は全然気づかなかったけれど、チョコ編までとパイン編では、文体も物語の描き方も大きく変わってたんだな、とか、記憶している物語と全然違ってるぞ、とか。
新しい発見にハッとして。
加えて、あの頃セットのようにして浴びるように聴いた、銀杏BOYZを聴き直してみたり、とか。
そんな風にして、15年近くぶりのグミチョコに夢中になって過ごした僕は、2度目の読破の後、つねり上げられたようなヒリヒリの残る気持ちのまま、やにわにMIDIキーボードを買った。いつの時にも勢いっていうのはとても大事だ。

そして僕は、今度はもう何度めになるのか、「海がきこえる」を読み直している。
読みながら、僕はまた、この目で触れた事のない帯屋町や成城の町並みを思い描いて、東京の事をまたちょっと好きになって、次にお酒の席で思い出した時には、コークハイでも飲もうなんて思ったりする。

たまに窓の外に目をやって、陽が長くなってきたと感じる。
セーターを衣装ケースに、ダウンジャケットをクローゼットに収める。
賞味期限が近い大量のコーヒー(だから安くて、だからケース買いした)が届く。
あまりにもくたびれたカットソーを捨てる。

今年最後の三月が終わる。

ちょっと気持ちが向いた時に、サポートしてもらえたら、ちょっと嬉しい。 でも本当は、すごく嬉しい。