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冬の心(その3)——出会いの場面。

 私たち二人がひいきにしているレストランがある。名は〈シェ・カルロ〉。オーナーのカルロとはもう十年来のつきあいだ。彼はバスクの出身で、大柄で少し東洋系の顔立ちをしている。彼も無口だから、さほど話をするわけではないが、気は合っている。気さくだが、けっしてなれなれしくはならない。だから飽きもせずにこの店に来る。
「やあ、いらっしゃい。ちょっとお待ちを、すぐにテーブルを用意させますから」
 私たちはカウンターの前で席が空くのを待った。店はいつもビジネスマンや近所の住人でこみあっている。ミシュランのガイドブックに注目されるような店ではないが、価格が手ごろでシテ島にあるにもかかわらず、観光客があまり入ってこないところもいい。活気はあるが、うるさくはない。気取らないところもいい。

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