千葉県多様性尊重条例について考える一「善意の押し付け」が「逆差別」を助長する

●女性スペースと女子スポーツに関する法律の制定

 11月9日に参議院議員会館で「全ての女性の安心・安全と女子スポーツの公平性等を守る議員連盟」の第4回総会が開催され、性同一性障害者特例法に関する令和5年10月25日の最高裁決定(生殖能力喪失要件の違憲判決)について、法務省、参議院法制局等による解説が行われ、団体等からのヒアリングと意見交換、さらに、国交省から公園におけるトイレ設置要件の面積要件緩和についての説明(自治体等の要望を受けて女性専用を作り易くする)が行われた。
 参院内閣委員会参考人の滝本太郎弁護士は、これらを踏まえ、7月11日の経済産業省トイレ裁判についての職員側勝訴の内容から、女性スペースの安心安全の確保のために、最低限、以下の3つの法律を早期に同時に成立させる必要があると訴えた。
 ⑴ 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の改正一最低限の
  修正一
 ⑵ 女性スペースに関する法律 の制定
 ⑶ 女子スポーツに関する法律 の制定

●千葉県多様性尊重条例案への賛成・反対意見

 新聞報道によれば、千葉県は11月22日開会予定の12月議会に「(仮称)千葉県多様性が尊重され誰もが活躍できる社会の形成の推進に関する条例案」を提出する方針を決め、来年1月1日施行を予定しているという。
 条例制定は熊谷俊人知事の公約の一つで、「全国で唯一、男女共同参画条例が制定されていない千葉県を変革し、女性・障害者・LGBTなど『違いを認め、違いを力に変える』多様性尊重の条例の制定」を目指している。
 千葉県が実施した意見公募(パブリックコメント)には、669人・団体から延べ1279件の賛否が寄せられ、「女性を自称する男性が女子トイレや更衣室を利用する可能性が高まり、不安だ」という意見もあったという。
 主な意見の内訳は、「条例の趣旨に賛同」47件、「条例制定後の施策への期待」42件、「条例制定に対する懸念(外国人関係)」81件、「条例制定に対する懸念(LGBT関係)」175件、「『性自認』の文言を修正・削除すべきとの意見」42件、「条例化する必要性がないとの意見」112件、「時期尚早・議論不足との意見」58件、「社会の活力向上や活躍よりも、その人らしく生きられることや生きづらさの解消を重視すべきとの意見」155件、「差別禁止や罰則規定を設けるべきとの意見」44件、「男女共同参画条例に関する意見」56件であった。
 LGBT関係の懸念に関しては、「性自認を主張するだけでそれが尊重されることには反対。一般的な県民や女性や子供の安全な暮らしが損なわれ性犯罪などの可能性が増加してくると思われ不安」などの意見があり、「日本はもともと多様性に富んだ国柄なので、わざわざ条例を作る必要はない」などの意見もあったという。

●千葉県多様性条例案の最大の問題点

 11月22日の県議会開会前に集計結果の詳細が公表される見通しであるが、県民の意見の全体が公表されない場合には、開示請求する必要があろう。同条例制定に対する反対論・慎重論も多く、十分に議論を尽くすことを避ける拙速は慎むべきである。
 最大の問題点は、9月に公表された骨子案で「目指す社会」の一つとして挙げていた「国籍及び文化的背景、性的指向及び性自認その他の様々な違いにかかわらず、全ての県民及び事業者がこれを理解し、尊重し合うことで、誰もがその人らしく活躍している社会」の一文がそのまま使われていることである。
 6月9日の衆議院内閣委員会における国重徹委員の答弁によれば、「性自認に関しては、その字面だけを見ますと、言葉の本来の意味と異なる、勝手な主張として、今は女性ですなどと称して、女性用の施設等を悪意を持って利用しようとするような行為を許してしまうと誤解されかねないとの懸念も一部上がっていた」ことから、LGBT理解増進法では「性自認」という言葉を避けたという。
 このように、「性自認」という用語は、言葉の本来の意味はき違えた勝手な主張を許し、「性自認至上主義」に基づく女性施設の悪用などを助長しかねないことから、千葉県の多様性条例から「性自認」という用語は削除すべきである。「性自認至上主義」の問題点については、10月31日付のnote拙稿を参照されたい。また、10月28日付のnote拙稿「道徳と性の視点から『多様性』について考える」も参照してほしい。

●LGBT当事者の意見の多様性と「そっとしておいてほしい」という声

 また、LGBT総合研究所代表取締役社長の森永貴族彦氏が『正論』4月号の「LGBT像を一括りにしない」と題する論文で指摘しているように、声を上げているLGBT当事者のみに耳を傾けていては十分でないことを認識する必要があり、「報道を通じて国民が抱いているLGBT像や当事者の望みが、あまりに実態からかけ離れていること」に留意する必要がある。
 同氏が実施した40万人(うち6,5%がLGBTと判明)を超える大規模調査によれば、「自分の性の在り方を、他人にからかわれたり差別されたりしたことがあるか」という問いに「ある」と答えたLGBT当事者は17,9%に過ぎない。また、「自分の性の在り方に不安や生きにくさを感じる」と回答した当事者は25、7%に過ぎず、差別や不安、生きにくさを感じていないLGBT当事者の多くは「そっとしておいてほしい」と思っているという。
 性的少数者としてLGBTは一括りにされているが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルは、「性的指向」(恋愛感情、性的感情の対象となる「好きになる性」)に基づく区分であり、トランスジェンダーは「性自認」に基づく区分であり、悩みや困りごと等には大きな違いがあり、LGBにはトイレの悩みはない。
 同性婚の法制化についてのLGBT当事者の賛否も二分されており、渋谷区が導入した「パートナーシップ制度」についても賛否が二分しているにもかかわらず、「そっとしておいてほしい」という当事者たちの声や当事者たちの考えの多様性についてマスメディアは正しく伝えていない
 性的少数者(LGBT)に配慮した自治体や企業の取り組みが、逆に「差別を助長する」と当事者の反発を招いており、大阪市は男女どちらでも使える「多目的トイレ」にLGBTを象徴する虹色のステッカーを貼ったが、当事者から批判を受けて取りやめた。
 当事者から「入るとLGBTと見られる」などの苦情が寄せられ、シールを貼ることがかえって差別を顕在化させ、「善意の押し付け」によって、「そっとしておいてほしい」というLGBT当事者の多数意見が踏みにじられている現実を直視する必要がある。

●「多様性」と「共通性」の「バランスと調和」を図れ

 千葉県多様性条例の制定にあたっては、こうした問題点について十分に論議を尽くし、とりわけ「性自認」という文言を盛り込むことによって、「性別は自分が決める」という子供の「性的自己決定権」を強調する過激な性教育が教育現場に持ち込まれ、教育基本法第10条が定める「親の養育権」との対立が深刻化し、全米に広がっている親と学校の対立が裁判闘争に発展する危険性がある。
 森永貴彦氏は、当事者の話を尊重して聞いた上で、受け入れる、受け入れないは好き嫌いも含めて個人の自由でいいという。「それはあなたのあり方でいいと思うが、自分には受け入れられない、ごめんなさい、でいいのです。多様性とはそういうものです」と指摘する。
 そもそも「多様性」とは一体何かという本質的論議が必要不可欠であり、人間としての尊厳性という縦軸の「共通性」について、「多様性に通底する価値を探る」という観点から掘り下げて考え、横軸の「多様性」とを包括的に捉え、日本的ウェルビーイングの視点である「バランスとハーモニー(調和)」を図ることが求められている。
 


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