夕日に魅かれるように、人に魅かれるコト
人は夕日に魅かれる。
皆、催眠にでもかかったように、夕日が沈む海に向かい始める。
海辺に着いた時も全ての人が同じ方を向いて座っているから滑稽だ。
夕日の美しさに魅かれない人はいない。
仕事を終え、シェアオフィスを出ると、くしくも黄昏時。
空はまだ茜い。
僕は自ら催眠にかかり海辺と歩みを始めた。
歩きながらいつか書いたnoteを思い出す。
綺麗な夕日を何回見ることができるかは、僕の人生の充実度の指標だ。
そこまで言い切るもんだから、僕の夕日への想いは人より強いはず。
僕の目の前にはジーンズの女性が歩いていた。
もちろん彼女も夕日に誘われた一人なのだろう。
やがて海辺に到着というその時、急に彼女が歩みを速めた。
と思ったのも束の間彼女はすぐに小走りを始めた。
早くあの優しいオレンジに包まれたいのだ。
…僕より夕日へ強い想いを持っている人がいたのか。
彼女のとった行動に驚く。
興味はあっという間に夕日からその女性に移ってしまった僕は浮気者です。
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一人アメリカに降り立って、1か月以上が経ち、僕も旅慣れた頃だった。
その日僕は、ローカルバスに乗って町の小さな博物館に向かっていた。
そこへ学生風の赤毛の女性が慌てて走ってきた。
汗をふきながら彼女は、バスの運転手へ照れ笑い交じりでお礼を言う。
その礼儀正しさ、清楚さが素敵で、僕はその何気ないやり取りだけで彼女に恋をしてしまった。
旅とは時々、人をロマンチストにしてしまい、人恋しさに浸してしまう、そんな魔力がある。
たった一度きりの出会いと思いきや、なんと彼女は帰りも同じバスに乗ってきた。
そして、行きと帰り両方とも僕の後ろに座った。
それは単なる偶然で、なんの意味もない。
それでもそこに運命めいた何かがあると信じたくなる。
それ以降、彼女と繋がることはなかった。
決して交わることのない、たった一往復の恋。
ただなんの変哲のないバスの中で、2席分の空間を30分間共有しただけ。
声をかけようとは思わなかった。
そのセンチメンタルさがいじらしくて、僕はそれをただただ噛みしめる。
さようなら、赤毛の彼女。
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夕日を眺めながらいつかの旅の思い出を思い出す。
小走り少女は僕の視界にはいない。
彼女は僕のななめ後ろに陣取っていたため、やはり顔は見えない。
一日の疲れ、人間関係ですり減ったこと、将来への不安…彼女が夕日に洗い流してほしいものは何なのだろう。
夕日も沈み切り、サンセットショーもエンドロールを迎えた頃、どうしても彼女の表情が一目見たくて、何ともなしに振返ってみる。
…そこに人影はもうない。
さらに後ろに目をやると、見えたのはまたもや彼女の後姿だけ。
恋ではない。
もっと単純に、僕と同じ関心ごとを持っている人への興味なんだと思う。
それでもほんの少しだけ寂しさがあるのは、きっともう夜を迎えようとしていたから。
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