異例の大ヒット! 映画「2発続けて撃て!」監督インタビュー!
この夏、日本映画界にとって予期せぬ事態が起きた。
ウェスタン映画の大ヒットである。それも往年のアメリカ製やイタリア製のリヴァイバルではない。『2発続けて撃て!』は正真正銘、現代の日本で制作された映画だ。しかも監督は過去にメガホンをとった15作がすべて青春恋愛映画という、足野浦平良(あしのうらたいら)なのだ。はっきり言えば、公開時の期待値はそうそうに低かったはずだ。
「まったく想定外の反響に、正直ビビってますね」
てらいのない口調でそう語ったのは、監督の芦野浦本人だ。その柔和な笑顔からは、あの埃っぽくも力強い映画を撮った人物を連想することはできない。しかし彼は煮えたぎる情熱を持った、まぎれもない映画人なのである。
芦野浦監督・インタビュー
——まずはこの映画を撮るに至った経緯からお聞きしたいのですが。
芦野浦:これまでずっと少女漫画の原作つきで撮ってきましたからね。もちろんそれはそれで好きなジャンルなんですけど。そろそろ自分の原点に戻ってみてもいいのかな、と。
——それが西部劇だったと?
芦野浦:子どもの頃、父親がよく観てたんですよ。「夕陽のガンマン」とか「続・荒野の用心棒」とか。あと「砂塵に血を吐け」とかもそうなんですけど、イタリア製のいわゆるマカロニウェスタンを、ぼくも一緒になって観賞してました。
——なるほど。それが映画監督になったそもそものきっかけだったんですね。
芦野浦:そうですね。それはもう原風景っていうか、砂漠とかサボテンとか、そういうのがDNAに刻まれちゃっているんでしょう。
——その砂漠とかサボテンとかについてお聞きしたいのですが。撮影はすべて日本国内で行われたそうですね。
芦野浦:はい。
——CGもほとんどつかわれていないとか。
芦野浦:そうですね。あくまでこの島国の環境で、どこまでウェスタンできるのか勝負してみたかったんで。だから砂漠もサボテンも手作りなんです。スタッフみんなで北海道某所の廃校跡に行ったんです。そこのグラウンドに砂をめちゃくちゃ撒き散らして。サボテンは紙粘土にいっぱいつまようじを刺して作りました。そういった風景のディティールとクオリティには、そうとうこだわったつもりです。そこでつまずいたら、物語の説得力が失われてしまいますからね。
——本編を観ていて、何度も「これ本当に日本で撮ったの!?」と思わされるスケール感でしたよ。
芦野浦:それは、してやったりです(笑)。
——ではストーリーについても触れていきたいのですが。
芦野浦:どうぞどうぞ。
——2080年代の荒廃した日本で、主人公の「タケシ・ザ・ロックウェル」が大事に飼っていたダンゴ虫を殺され首謀者のギャングに復讐するといった内容で。シンプルなのにすごく力強い物語になっていると感じました。
芦野浦:ありがとうございます。そのへんは脚本家の小手咲(こてさき)くんと打ち合わせているうちに、自然と復讐モノになりました。さっきも言った通り、マカロニウェスタンに強く影響を受けているので。マカロニといえば復讐ですから。
——ペットを殺されての復讐といえば「ジョンウィック」のような犬や、あるいは猫なんかの可愛い動物を連想しますが、ダンゴ虫とは斬新ですね。
芦野浦:実はそれも父親が関係してまして。
——と、言いますと?
芦野浦:父親がジャムの瓶で、ダンゴ虫を飼ってたんですよ。ところが当時小学生だったぼくが、うっかり庭に逃がしてしまったんですね。父親はめったに怒らない人だったんですが、その時のブチ切れ具合はすごかったです。ツームストンパイルドライバーかけられましたから。その時の衝撃が脳に焼きついていたので、復讐者であるタケシのキャラクターにそのまま活かしました。
——過去の名作だけでなく、監督ご本人の懐かしい記憶も制作に影響を与えているんですね。
芦野浦:思い返してみると、そうみたいです。
——その反面、西部劇でありながら現代的にブラッシュアップされているところも本作の特徴です。特に主人公タケシの師匠である女性ガンマン「ワイルド・サクラ」が印象的でした。
芦野浦:あー、サクラはかなり人気あるみたいですね。襲ってきたコヨーテを逆に食べちゃうシーンとかのインパクトですかね。ただ、ぼくとしては彼女のキャラクターを意識的に現代化したとか、そういうつもりはないです。
——おや、そうなんですか?
芦野浦:そもそもウェスタンはアメリカの時代劇であり、ジャンルとして流行っていたのも過去のことです。だから現代の我々からすると、どうしても違和感を感じてしまう部分っていうのはあるんです。でも今回の作品は未来の設定ですから。人間的にひたすら自由で頑強な人物にしようとした結果、あのキャラクターになっただけの話なんです。
——なるほど。ちなみにタケシとサクラの師弟のような関係は、当初から予定されていたものなんですか。
芦野浦:そうですね。師弟ガンマンが好きなんです。「怒りの荒野」とか「バンディドス」とかですね。それからウィスキーの酒樽を銃身に乗せて修行するシーンは、カンフー映画をイメージしました。
——修行シーンのサクラは、すさまじかったです。
芦野浦:ですよね(笑)。サクラを演じた拳原殴流(こぶしはらなぐる)さんとは、ぼくの監督8作目である「捻挫彼氏とリュウマチ彼女」からの縁なんですけど。火のついたダイナマイトを他人の口にぶちこむのは、さすがに初めてだって言ってました。でもタケシ役の山田くんはそのダイナマイトを平然と口に咥えていたので、若いのにすごい役者だなと思いましたね。
——今名前が挙がったお二人を始め、演じる俳優陣も若手からベテランの方まで、日本の名優が勢ぞろいです。
芦野浦:そこは長年のキャリアで培った人脈と、あとはお金ですね(笑)。ギャングのボスを演じていただいた広能剛三さんは、駄目もとでオファーしたんですけど、すぐに快諾してもらえました。子どものころからスクリーンで観てきた役者さんなので、「これ夢なんじゃないの?」って疑いましたよ。ラストの10000丁拳銃でタケシと決闘するシーンなんかすごい気迫で、ぼくまで圧倒されてしまいました。さすがにここはCGなんで、広能さんは1丁も銃を持ってないはずなんですけど。それでもやっぱりすごかった。
——そんな迫力満点の本作が大ヒットした要因は、監督自身どこにあると思われますか?
芦野浦:うぅん……シンプルさと、あと勢いですかね。台本も2ページしかありませんでしたし。まぁ現代は複雑でストレスのたまりやすい世の中ですから、IQが3くらいしかない登場人物たちの衝動に、感じる部分があったのかもしれないですね。しらないですけど。
——では最後にこれから映画を観るという方にメッセージをお願いします。
芦野浦:はい。すごくリアルな砂漠とすごくリアルなサボテンがいっぱいでてきて、すごく埃くさい映画になってます。どうぞ、そのにおいをスクリーンで堪能してください。
芦野浦平良(あしのうらたいら):1970年。鹿児島県生まれ。映画「恋するひざ裏」(01年)にて監督デビュー、脚光を浴びる。2014年には「夏風インフルエンザ」で大銀河シネマ大賞監督賞を受賞。チーズフォンデュが好き。
※Photo by Denisse Leon on Unsplash
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