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【掌編物語】ごく短い物語集

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掌編サイズ(大体800-2000文字程度)の物語を載せています。
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#オリジナル短編小説

【後悔】自分だけ置いてけぼり

学生時代の同期達と飲み会があった。 皆、頑張っていた。 皆、成長していた。 皆、新しい挑戦をしていた。 すごく居心地が悪かった。 どこか置いてけぼりにされた感じがした。 でも自業自得だから仕方無い。 ◆ Aは、昨年出世した。 最速で課長になった。 土日も休まず人脈作りに励んだ甲斐があって圧倒的な営業成績を上げた。 従業員1万人以上の上場企業で、このスピード出世は珍しいそうだ。 昔は、どこか自信なさげな顔をしている奴だったが、今は自信に満ちている。 ◆ Bは、3年

ボーダー服を着ただけなのに……。

「えっ、捕まったの?」 一体、何度言われたか。 「何それ、囚人服?」 これも、何度言われたか? 大学生の頃、普通に黒と白のボーダーを 3日連続で着ていっただけなのに、 それ以来、ボーダーを着ただけで 「囚人ルック」 「収監中」 「アルカトラズ」 などと呼ばれていた。 途中から、何だか楽しくなって、 皆の期待に応えるように、 時々、ボーダーを着るようにしていた。 友達と買い物に出掛けた時に、 わざわざボーダー柄の物を選んで、 イジられ待ちしてた事もあった。 ◆ あ

行きつけの本屋さんが撤退するらしい。

自宅の最寄り駅に丁度良いサイズの本屋さんがある。 週に2度は必ず寄る本屋さんなのだが、今年いっぱいで撤退するそうだ。 個人的には愛着があるのだが、至って普通の本屋に過ぎない。何か特定のジャンルに強い訳でもない。内装に凝っているとか、カフェが併設しているとか、陳列がオシャレとか、そういう訳でもない。 でも、私の生活にとって欠かせない場所だった。 ◆ この本屋さんとの最初の出逢いは、社会人1年目の時だった。 たまたま引っ越して来たマンションのスグ近くにあって、引越2日

赤と青と緑のサンタ。

フリーライターの私は雑誌社の依頼を受け、ホテルのクリスマスイベントの取材に訪れていた。そのホテルの中庭では青いサンタのタレント達が仕切るカップル対象のパーティーが行われていた。 もちろん主役はカップルの参加者だ。皆、赤を基調としたサンタっぽいコスチュームで身を固めている。イベントは開始直後から青いサンタのタレント達の努力もあって大いに盛り上がった。 その盛り上がりの隅に緑のサンタが、緑色の袋を担いでうろついていた。見ると、どうやらイベント中に出るゴミを緑の袋に集めているみ

エンジェルはデビルの顔してやってきた

「あなたごめんなさい。月のお小遣いなんだけど、1.5万円にしてもらっていい?」 「うん、そうだね。これからお金掛かるもんね。…。分かった」 深刻な顔をした妻から夫婦会議をしたいと言われた時、夜寝付けないくらいに怖かった。でも、妻の口から出てきたのがお小遣いの件で、少しホッとした。 今年、息子が中学生になった。今迄以上にお金が掛かる。塾費に部活費に、息子は運動部に入るから食費だって必要になる。本当は息子が中学生になる段階で妻が仕事に復帰する予定だった。 だが、おじいちゃん

行きつけの店だけれども。

私はフリーでWebマーケティングの仕事をしている。 基本、自宅で仕事をしているのだが、ずっと自宅に籠もっていると息が詰まるので、昼過ぎから外に出掛けるようにしている。 そんな私には、週1回必ず通うカフェがある。自宅の最寄り駅から2つ目のA駅で降り、15分程歩いた場所にある。 少し高台になった場所にあり、見晴らしが良い。加えて、異様に敷地が広い。カフェなのに駐車場が8台もあり、建物内も無駄に広く、ものすごくゆったりとした贅沢な作りをしている。 カフェのあるA駅は都心から

生まれ故郷の衰退。

小中学校時代の友人が事故で亡くなった。42歳だった。 告別式に参列する為17年ぶりに生まれ故郷へと訪れた。故郷を出たのは20年前の就職の時。以後、年末年始に実家に帰っていたが、祖母の病気をキッカケに実家がまるごと大学病院のある都市部に引っ越した為、以来足を踏み入れる事すら無かった。 何しろ私の生まれ故郷は辺鄙な場所にある。新幹線の駅から3つも電車を乗り継ぐ必要がある上に、その電車の本数が大幅に減らされてしまった。だから、余程の用がない限り足を運ぶ気にもならなかったのだ。