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「初めての回転寿司」の災難。

回転寿司に行ってきた。

お恥ずかしいことに回転寿司に行くのは人生初めての経験であった。
そんなこともあって粗相がないよう、一緒に行く友人に「どういう風にすればいいのか」とアドバイスを求めたところ

「時速100㎞で流れてくるからキャッチするのも命懸け」
「俺の友人は、回転寿司で左手を失った」
「たまに黄金の皿が流れてくるので、それを取れれば100万円が貰える」

と、いうようなことを言われた。


どうやら”回転寿司”というものは、相当アグレッシブなところのようだ。
私が今まで回転寿司と接することがなかったのは、もしや野生の勘のようなものが働き、自然と避けていたのかもしれない。

しかし、今後、ジャパニーズソウルフードである”回転寿司に行ったことがない”と言い続けるわけにもいかないので、今回は意を決して回転寿司に挑むことにしたわけである。


実のところ、私は大食漢だ。

申し訳ない話ではあるが、あまりの底抜けの食欲に食材が底をつき、今までいくつもの飲食店を潰してきたほどである。

そんなフードファイターである私。
友人に「何皿くらい食べれる?」と問われ、どこかで聞いたことのあるような言葉で自信満々にこう答えた。

「私の胃袋はコスモ(小宇宙)だ」


お店に着き、店内の様子を伺うと時速100㎞でお皿が流れてなければ、100万円が貰えるチャレンジも開催されていないようであった。

どうやら私を動揺させるためのウソだったようだ。

私はそんな友人を一喝し、席に座るなり、さっそく好物のひとつでもある「茶碗蒸し」を手に取った。

この不可解な行動には友人も驚いていたが、

「茶碗蒸しに含まれるカツオ出汁が胃を優しく包み込むことで食欲が増進するのだ」

そう力説した。
いきなり寿司を取るのは素人のやることだ。

だが、一口目を食べた瞬間、茶碗蒸しのマグマのような熱さに舌を猛烈に火傷するというハプニングに見舞われた。

あまりの熱さで「舌が溶けた!」と思い、友人に確認をしてもらったが幸いにも「溶けてない」とのことだったので一安心した。


しかしまて。
安心してはいられない。

フードファイターにとって、舌を火傷するということは野球選手にとっては肩、サッカー選手にとっては足、作家にとっては指を負傷するようなものだ。

友人が心配そうに見守る中、開始早々のリタイアかとも思われたが私は食べることを志願した。

リタイア・・・そんなことはフードファイターのプライドが許さなかったのだ。


その後の私はというと、まるで火傷をしているのがウソのようにバクバクと食べ続けた。

お店の店長が出てきて「もう食材がありません!勘弁してください!」と泣きついてくるまで、食べるのを辞めない!!

その覚悟は並みのものではない。

1皿、2皿・・・レーン上に流れてくるお皿に乗った寿司たちは、みるみるうちに、私の胃袋という名の最終レーンに流れ着くのであった。


「ふぅ、お腹いっぱいだ」

さすがに、”火傷”というハプニングのせいもあって、食材が尽きるほど食べることはできなかったが、実力は存分に発揮できただろう。

初めての回転寿司としては、鮮烈なデビューとなったはずである。


「1、2、3・・・」


すぐさま友人が私の食べた皿の数を数え始めた。


「7皿だ」


「7皿か、よくやったほうだな」


「私の胃袋はコンパクトスモール・・・略してコスモだ」


「なるほど、座布団一枚だな」


「おう」


そう言い残し、我々は店を後にしたのであった。


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