坊ちゃん文学賞に応募しただけの話

先月末、坊ちゃん文学賞なる短編小説の公募に応募した。


募集要項はいたって簡単で、4000文字以下のショートショートならば応募の対象になる。別に夏目漱石の『坊ちゃん』に関連するものじゃなければいけないとか、『坊ちゃん』の舞台である愛媛の松山を舞台とした小説でなければいけないとか、そんな縛りはなく、単純に4000文字の短い物語を書けばいいだけの話である。

もっとも、名前が坊ちゃんなだけあって、ちゃんと主催は松山の自治体が行なっているものらしく、もしも受賞した暁には松山市まで授賞式に参加することになるらしい。そのときの旅費は出してくれるのだとか。

しかし、4000文字の短編小説なんてものは適当に思いついたものでもしっかりとその基準に則ってしまう。大学のゼミに充てがわれる卒論だって1万文字はあるだろう。おかげで今回で第20回目となる坊ちゃん文学賞も、前回は7000ほどの応募があったそうな。とんでもない倍率である。その倍率を聞いただけで自分の作品が選ばれる着心地が1ミリも湧いてこない。しかし大賞に選ばれると50万円、佳作だと確か5万円である。それならば宝くじに応募するくらいの軽い気持ちで書いてやってもいいんじゃないかと、自分の中にある項垂れた作家精神をうち震わせて書くことにした。

そして書こうと決めたのが応募締め切りの4日前であった。これはこれは、いくらなんでも急すぎやしないだろうか。まるでやる気もない、準備もない、何もなくて空っぽのどうしようもない作家による執筆の幕開けである。そもそも坊ちゃん文学賞の存在認知すら危うかった。坊ちゃんという名前の付いた文学賞、なんだか名前くらいは聞いたことあるなあ、で散々通り過ぎていった言葉である。今の今にしてようやく、その文学賞にたまたまフォーカスする機会があって、なんだ4000文字ならば書けるかもしれんぞと思い立って、そのときには締め切りの4日前だったという話である。

言っちゃ悪いが名前がややこしい。坊ちゃん文学賞て、なんか漱石の『坊ちゃん』について関連づけた文学賞な気がしてくるのである。となるとなんだか敬遠してしまうというか、ちゃんとお題に沿ったものが書けるかと不安になるわけである。文学賞の中にはそういったテーマづけなどをお題にしたものも少なくはない。なんていう賞だったかは忘れたが、とにかく多いのである。特定の地域に基づいた小説とか、特定の文豪の世界観に基づいたものとか。たしかあったはずである。たしか。


そもそも、そもそもの話、自分はまさしく今書いているこのnoteに小説を投稿してやろうと画策していたはずなのに、いかがして文学賞に応募してしまったのだろうか。これはどこの文学賞にも限る話ではあるが、募集の条件として未発表のものを応募することが絶対的ルールなのである。なので今回応募してしまった作品は、受賞作品が決まるまでは絶対にインターネットに公表するわけにはいかんのである。

もしネットで公開してしまって、その後万が一にでも自分の作品が受賞対象に選ばれてしまったら・・・なにもかもがおじゃんになっちゃうのだ。
でも正直、今回の作品をnoteに投稿しちゃっていいんじゃないかという気持ちにもさせられる。正直自分が賞を取れるとは露ほども思っていないのだ。自分が坊ちゃん文学賞に応募する直前の日に、過去に受賞した作品を見返してみた。なるほどこれは面白いと舌を巻くことしかできなかった。もう本当にどれもこれもが面白くてたまらないわけだ。そこのあなた、この私のnoteの戯れを読んでいる暇があれば、坊ちゃん文学賞の過去作品を読み漁る方をお勧めする。その方があなたの為ではなかろうか。


そっかショートショートって、こんな世界観でいいんだという気持ちにさらされてしまったときに、自分の書いているものを省みた。これはショートショートではないなと気づいてしまった。これはショートショートではない。ただ4000文字以内に収まっただけの小説だ。ショートショートって、もっと簡素で、わかりやすくて、それでいて読み応えもある。セリフも登場人物もはっきりとしていて、不思議な話で趣が深い。地の文であれこれ説明を回している私の物語はショートショートではないのだ。


それでももう時間もなかったということもあって応募した。締め切りの2時間前であった。まあ仕方がない。仕事の合間を縫って4日で完成させたという点においてはまあ上出来だったということにしておく。さて、次は何の賞に応募してみようか。というか自分はいつnoteに小説を投稿できるのやら。

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