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ペアアクセサリーブームから感じる「エモさ」(1996年~2000年)

年中通してイベントの時期が徐々に近づいてくると、情報誌やファッション誌であふれるのが「デート特集」。流行りのデートスポットや過ごし方の提案など、カップルや恋愛が順調に進んでいる人たちにとって欠かせない情報源だ。

2020年からコロナの影響でデートの過ごし方もだいぶ変わった。

今回は90年代後半に流行ったペアアクセサリーと共に、現代のカップルのコミュニケーションについて考えたいと思う。

▪90年代後半から流行った「繋がり」を意味するペアアクセサリーブーム

現代では「匂わせ」なんていう、インスタなどSNSでパートナーがいることをほのめかす意味の言葉が生まれたが、90年代後半から2000年辺りは主にペアアクセサリーが立派な「匂わせ」ツールだった。

90年代後半、カルティエのブレスレット「ラブブレス」を筆頭に、ティファニーのアトラスシリーズ、GUCCIのIDドッグタグ、クロムハーツなど、ハイブランドをメインにカップルの人気ペアアクセサリーとして流行した。

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※2000年Popteen1月号 / 角川春樹事務所 /
キムタクから…とか安室ちゃんから…とか色々言われていたが、90後半~00年にかけて何故かIDプレートが流行っていた。ハッキリ言って黒歴史かもしれないが、当時はみんな戦場に向かう戦士の如くIDプレートを付けていたのだ。

90年代初頭のバブル期からさまざまなデートスポットの名所が生まれたこともあり、当時は総じて「デートスポット」が注目された時代でもあったが、カップルにまつわるテーマで言えばペアアクセサリーブームとそれによる「匂わせ感」も特筆すべき事象だったと感じる。

しかし、ペアアクセサリーはなぜここまで流行ったのか?

不況と言えども、90年代後半は華やかなバブル期の残り香がまだまだ色濃かった空気感もあったが、一般的に広まったのは、朋ちゃんやAYUが当時付き合っていたお相手とおそろいで着けていたことも一因にある。

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※2000年GIRL POP vol.46/ ソニーマガジンズ

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※1996年/ 華原朋美「LOVE BRECE(ラブ・ブレス)」 / ORUMOK RECORDS
第一作目のアルバム名、また曲名にもその名称を名付けたくらい、いかにラブブレスを大切にしていたかよく分かる。

いろいろなハイブランドのペアアクセサリーが流行ったが、ダントツで人気だったのが前述したカルティエ「LOVE COLLECTION-ラブコレクション-」の中の名品「ラブブレス」だ。

このラブコレクションのジュエリーに施されている刻印は「○」の中心に横線が1本引かれているもので、これは「愛を封じ込める」という意味合いを込めてビスのモチーフをデザインしているのだそうだ。このラブブレスはひとりで着け外しするのがとっても大変で、ビス(ネジ)を留めたり、外したりしなければならない作りになっている。着けるときは専用の工具で両サイドのネジを留め、手首に固定するのだ。贈る相手に着けてあげるという行為が、贈り主からの「愛を封じ込める」「愛の証」を表現しているらしい。

「愛の証」というメッセージ性がラブコレクション人気の理由だが、特にこの取り外しの作業工程は「ひとりじゃできないこと」が「ふたりでならできる」というイメージに繋がるからなのではないだろうか。

…とまぁ、つらつら書いていて大変申し訳ないが、私はラブブレスを付けたことも貰ったことすらないのでラブブレスの資料を見ながら書いている。とにかくこのお高い値段とともにのしかかる「愛の重さ」が伝われば幸いである。

朋ちゃんの場合はCDアルバム「LOVE BRECE(ラブ・ブレス)」のジャケットや曲タイトルで、AYUの場合は雑誌インタビューの中の写真で着用姿を披露。当時は誰と付き合っているとは言わなくても隠すことなく堂々と「ラブブレス」を身に着けていた。

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※2000年GIRL POP vol.46/ ソニーマガジンズ /
この時のAYUのインタビューではよくラブブレスを身に付けてる姿が多かった。

かなり値の張る物であるにも関わらず瞬く間に人気になり、たとえ実際には買えなくてもあこがれた女性は多かったと思う。

1997年~1999年頃の雑誌を振り返ると、バブルな時代では全然ないのに高価なペア物が多いのも特徴的だった。中にはロレックスなどの高級時計などもあり、その豪華ぶりに改めて舌を巻いてしまう。

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※1999年Popteen1月号 / 角川春樹事務所

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※1998年東京ストリートニュース1月号 /学習研究社

この記事に載せているのは主にティーン誌だが、CamCanやJJといった赤文字系雑誌でも同様にブランドもののペアアクセサリーはブームだった。

・現代の「匂わせ感」

比べて現代ではどうだろう?

現代でもペアアクセサリーをはじめとする、いわゆる「ペアもの」はまだまだ人気があるが、90年代と比べるとよりカジュアルな傾向にあるという印象だ。

例えばペアウオッチだとダニエル・ウェリントンやアディダスのスタンスミスシリーズなど、普段でもあまり気負うことなく身につけられるカジュアルものが多くなった。



その一方、現代ではインスタなどでおそろいのカップや、ふたり分の手料理が映り込こんでいるような、データーによる「匂わせ感」が主流にあると私は思う。

また普段はおそろいのアイテムを身に着けていなくても、東京ディズニーランドに行けばペアルックの「カップルコーデ」をするなど、現代でも人気の「ペアもの」はある。

その背景にはやはりSNSの発達があり、インスタに「映え」る画像をアップするという目的もかなえるため、「モノ」ではなく「データー」というのが90年代とは大きく異なる点と言える。

ただ、いくらSNSが主流と言えども、モノよりデータが多くなったのにはほかにも理由がありそうだ。

感情や思い出が詰まったモノと、単純にモノそのものに価値を見出しているのとで意味合いは違ってくるが、感情や思い出が残るモノの場合、後々あまり手元に置いておきたくなかったり、次の恋愛に進みづらくなったり、また次に付き合った人になんとなく申し訳なく思ったりするようになるというのが常である。

熱が帯びているカップルには酷な話だが、モノで残すと破局後に結局いらなくなるのだ。別れ方が最悪な場合、その「モノ」に対して見るたびにキーッと苛立つ者もいるだろう。ましてや、「ペア」なら尚更だ。正直言って、私も全て捨てた。

また、現代はマッチングアプリなどのツールのおかげで男女の出会いや交際までの流れがより気軽になったのも変化の一要因なのではないだろうか。

あまり重苦しくなく、より気軽によりライトに。現代は「マッチングアプリ戦国時代」とも言われているが、コロナ年の2020年からその傾向により拍車がかかったと思う。

そして、もし別れた後にモノが残ったとしても、メルカリなどフリマアプリで簡単に売りに出せるようになった。このことも、ライトな感覚をいっそう推し進めた一因だと私は考える。

・一周回ってモノで思い出や繋がりを感じる「エモさ」

2020年は瑛太の楽曲「香水」が大ヒットした。

前年4月に配信でリリースしたのにも関わらず、約1年たった2020年4月頃からコロナの影響によるステイホームが後押しとなり、TikTokなどに「歌ってみた」動画を上げる人たちが急増し爆発的な人気となった。

この曲の第一印象で「ドルチェ&ガッバーナ」というワードが耳に残ったのも私だけではないはずだ。
私は「香水」を聴いたとき、ブランド名を歌にのせるということを「なんだかエモいな」と感じた。

1996年に朋ちゃんの「LOVE BRECE(ラブ・ブレス)」という名の曲が流行したが、アルバムジャケットからカルティエの「ラブブレス」をイメージさせるところやモノを通して相手への想いを感じるという点で、どことなくこの「香水」という曲にも「LOVE BRECE(ラブ・ブレス)」と似たような懐かしさを感じた。(曲の雰囲気やテイストは全然違うけど)

ポケベル、PHS、携帯と、通信手段が着実に発達していった90年代だが、現代と比べるとやはり通信手段の遅さや不便さやまどろっこしさがあった。

比べて現代はSNSで気になる相手の様子を知ることができ、LINEですぐ連絡が取れ、また相手が文面を読んだかどうかも「既読マーク」で確認することができる。

コロナ禍で恋愛様式も変化してきている現代だが、いつでもつながっているこんな時代だからこそ、あえて「ペアのモノ」を通して相手を想うのも、なかなか乙なことなのかもしれない。

私も次にお付き合いする人が見つかったら、値段とともにのしかかる「愛の重さ」がたっぷり伝わるペアものを身に付けたいと思ってる。

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