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(4) しらさぎ経済圏構想(2024.2改)

日本海側の豪雪により、平壌から戻った政府専用機は自衛隊・岐阜基地に着陸した。

岐阜基地内は行先変更のためにメディアの姿はなく、政府専用機に搭乗した29名の家族・親族と拉致被害者の再会の模様は内閣府のスタッフが撮影した映像と写真が公開された。
拉致被害者一行は岐阜県内で暫く逗留すると知らされるが、宿泊滞在地での取材は制限された。
日本国内には朝鮮総連の関係者や所属するスパイが潜伏しているので、万が一を想定して、奥飛騨温泉郷の街全体のセキュリティレベルを異常な程に上げていた。

奥飛騨温泉郷から、富山県警のヘリで戻った村井幸乃副知事の到着を待って、拉致問題の状況を取材中の記者達に映像と写真で村井副知事から説明した後、会見の残り時間を使い、今年のプロジェクトの一つ、「中部日本海ー太平洋大動脈圏」構想を記者会見として発表した。

「社会党ならびに富山県は、太平洋側の名古屋と岐阜県を挟んで日本海の富山までのエリア全体を、中核経済圏の一つとして長期に渡って投資・開発して参ります。また、同エリアを平仮名で”しらさぎ経済圏”と呼称いたします」

金森知事の隣で村井副知事がプラカードを持っている。凄まじい数のカメラのフラッシュが焚かれた。
「2県1都市の他にも、岐阜と名古屋の隣県である「長野、滋賀、三重」3県との近い将来の拡大と連携を視野に入れながら、製造生産物をエリア内で適切に分配し、エリア全体での経済成長と拡大を目指してまいります。

製造業で言えば、富山・長野が精密機器製造・半導体生産を請け負い、岐阜、滋賀、三重が車両・航空機等の大型機器を開発・製造する、各県内の企業様を業種別にマッピングして、協業や提携を行政からも推奨していこうと考えております。
名古屋港と富山港間を専用列車・専用貨物で繋ぎ、名古屋空港と富山空港間を専用輸送機で繋ぎます。道路路線として東名米原から抜ける北陸自動車道も輸送路として引き続き活用してまいります。
米原と金沢間を「しらさぎ」と言う特急電車が走っておりますが、2024年の北陸新幹線の延長で無くなる予定です。
JRさんとご相談しているのですが、JRの路線をお借りして、別会社運営による専用列車と貨物列車を走らせようとしております。その専用列車に”しらさぎ”の名前を継続利用させて頂く予定です。

1月27日の岐阜県知事選には副知事の村井が立候補中ですが、4月25日の名古屋市長選にも、優れた候補者を擁立しようと考えております。富山、岐阜、そして名古屋の3首長が音頭取りとなってしらさぎ経済圏を牽引してまいります」

金森知事に続いて、次期岐阜県知事にほぼ内定している村井副知事が詳細の説明を始める。
岐阜中心の開発方針が大勢を占めるので、2週間後に迫った岐阜県知事選に村井が立候補した理由を、会見上に集まった記者たちは合点する。

同時に、日本で3番目の経済規模となる政令指定都市・名古屋の市長選候補者に記者たちが注目する。母子が両サイドに位置取る配置を誰もが想定する。もし、そうなれば名古屋の新首長のネームバリューだけで投資が舞い込み、新経済圏の成功は半ば約束されたものとなる。

「名古屋市長選にはどなたを擁立されるのですか?」

「おそらく皆さんと私が想像している人物は同じです。実は、年が新たまってから本人と会えておらず、会話が出来ておりません。候補者については確定次第、追ってご紹介させていただきます」
金森知事の思わせぶりな発言だけで、3大証券取引所のひとつである名古屋証券取引所に上場している企業の株が買われた。特に富山とのパイプが太くなるJR東海、セントレア中部国際空港、名古屋港等に関連する輸送業者の株式取引が活発となった。
知事の作為的な発言によって、モリの名古屋市長選立候補が確定したかのように広がると、日本一の政令指定都市である横浜市民は落胆の声を上げる。地元を優先せずに、モリは横浜を見捨てるのかと。

春には第二弾となる「京浜経済圏構想」を社会党が打ち出して、有耶無耶になるのだが。

☆☆☆

同日、プルシアンブルー社のゴードン社長は2種類のプロペラ機と新型貨物列車と新型車両を発表する。
58人乗りの航空機と輸送機、そして富山と名古屋間を走る専用列車「しらさぎエクスプレス」と「しらさぎライン貨物列車」をこの夏から製造開始するという。

同社はスウェーデンSAABb社が事業撤退している民間航空機製造部門と自動車部門を破格値で買収し、58人乗りのプロペラ機サーブ2000の中古機5機と機体と車体の製造データを入手した。プルシアンブルー社は、SAABbブランドの自動車製造と販売を始める方針を明らかにした。

除雪が済んで運行が再開された富山空港に、エアライン各社で使われていたサーブ2000、5機が着陸し、空港に隣接するPB Air社の格納庫へ運ばれていった。

ーーー

隣接する国に侵入しているとはいえ、米軍の監視衛星と通信衛星と繋がっているので、世間の動向は一応把握していた。
モリは穴ぐらの中で頭を抱え、翔子はその隣にピタリと張り付いて、名古屋空港ー仙台空港間の航空便数を調べたりしていた。

日中の外気温はマイナス2.3度だが、穴の中は、無音モーターとバッテリーにより18度の温風が絶えず送り込まれ、厳冬期の登山服を着用し、足は寒冷地仕様のシュラフに突っ込んでいるので、それなりに快適な空間となっていた。
日中は睡眠時間に当てており、夜になって移動を始める日々となり、この日はしっかり7時間半睡眠を取って目覚めた所で、「しらさぎ経済圏構想」なるものを初めて知った。
出発はしっかり闇に包まれる18時以降で、まだ数時間有る。
バギーに搭載されている125CCのディーゼルハイブリッドエンジンとハイブリッドモーターを可動させる2つのバッテリーボックスの一つを電源として小型空調機を動かし、小型電子調理器で湯を沸かしていた。沸騰すると翔子が茶を入れてくれる。

「そんなに困った顔しないで下さい・・まだ訂正する時間は有りますよ。
でも、私が驚いたのは日本一の貿易港名古屋だけの事はあって、領事館や姉妹都市はもの凄く多いです。仮に先生が市長になられても、外交手段として活用できるのではないかと思いました」

「名古屋は大き過ぎます。それなら、岐阜県知事の方が良かったです・・」

「立候補者名は村井幸乃なんですから・・あ、次回の選挙で幸乃と知事と市長を交代してはどうでしょう?幸乃は学生時代は名古屋でしたし」
話を振ってみても乗って来ないので、翔子は余ったお湯で体を拭こうと衣服を脱ぎ始める。
お湯を沸かしたので穴の中では薄っすらと額が汗ばむくらいだった。シンガポール以降、毎晩の様に抱き合っているので、恥じらう感情は互いに消え失せていた。
「背中、お拭きします・・」モリがタオルを取ろうと手を差し出して来た。

「ありがとうございます・・」と言って絞ったハンドタオルを渡す。ふと股間を見やると元気はあるように見えた。

「幸乃さんのご主人も、同じ大学だったんですよね・・」
タオルで肌を擦る具合に優しさを感じていたら、思いついたようにモリが話し始めた。

「幸乃の旦那様はとっくに先生なんです。亡くなったご主人に対する想いが段々と小さなものとなっているのは、幸乃だけじゃありません。里子も私も、主人が亡くなって十年以上経っています。とっくに塗り替えられているんですよ、先生の色に」
「塗り替えられる?」

「先生は関心を持たれていないようですが、私達関係者全員が、亡くなった主人や別れた夫と先生の行為を比較して、満足しています。私達は日々満ち足りた気分を味わせて頂いているんですよ」

「そこですか・・えっと、ちょっと両腕を上げて下さい。脇を拭きますので」

「ありがとうございます・・あの、私、今まで黙っていましたが、先生以外の男性を知らないんです。だから私には比較が出来ないんです。まぁ、比較する必要もないんですけどね」

「え?玲ちゃんは?」予想通り手が止まった。
翔子は体を反転させて、互いが向き合う形を取った。彼の視線が自分の胸に注がれている。翔子にとってはアピールの場、胸は自信があるものの一つだ。
「玲子は人工授精で生まれました。亡くなった夫は最後まで勃たなかったので、私はこの年まで男性を知らずに参りました」手を伸ばして登山用のズボンの上から擦り始める。
「先生なしの生活なんて、もう考えられません。今も勝手に濡れて、先生に抱かれることしか考えていません。
半年前はこのまま性も知らずに人生が終わるんだって思っていたのに、あなたに出会って、こんなにも端ない女になりました。今となっては母と玲子、由真と真麻にも、セックスで負けたくありません。里子にも、幸乃にも、そして蛍さんにも、です・・」
ズボンのバックルを外し、下着の中に手を入れて硬くなっているモノを上下にシゴキ始める。
「里子や樹里の見様見真似で覚えたに過ぎません。まだ半年ですから、どうすれば気持ちが良いのか、実は良く分かってはいません。ですので、全部教えて下さい。先生の一番の女に・・どうしてもなりたいんです。お願いします・・」
そう言ってから、モリを咥えて吸いながら、舌で舐め始める。
彼が喜んでいるのがボンヤリと頭の中に浮かんでくると、口を激しく上下していった・・

ーーーー

横須賀基地での視察と会談を終え、京急線に乗り込むとサミア一行は都内へ向かっていた。空母搭載用のUAV機の次は、頭をガラリと切り替えて民間機となる。

僅かな金額でスウェーデンSAABb社から民間機部門の技術譲渡を受けたサミアたちは、中古機S2000の改修作業と並行して、全く同じパーツを製造して、1999年で生産を中止したS2000の再生産を始めようとしていた。

SAABb社が民間機の製造を止めた背景には、競合会社との競争に負けたからなのだが、同社の製造技術が劣っていたからではなく、端に価格で勝てなくなったからだった。
両翼にターボプロップエンジンをつけて、2つのプロペラで飛ぶ機体の世界標準速度と高度は、プロペラ機市場ではガリバーとなりつつある仏伊企業アエリタリア社の「AIT42」では、巡航速度550キロ、最高高度7600mとなっている。

SAABb社のS2000は30年前の設計でありながら低騒音性能に優れ、高速巡航性能665km/h以上、実用上昇限界9450mと、ジェット機並みの性能を誇る。
性能を求めたが故にコストが嵩み、SAABb社はビジネスチャンスを失ってしまった。
しかし、プルシアンブルー社がS2000を製造すれば価格は抑えられる。改良も都度行ない、プルシアンブルー社の新たなノウハウとして蓄積されてゆくだろう。
唯一問題なのがプロペラを回転させる2つのエンジンだった。ターボプロップエンジンを製造している日本のエンジンメーカーが実は無い。また、日本の空港を飛行するのでメンテナンス可能なエンジンを搭載する必要がある。
そこで、日本の重工メーカーが販売している海外製のエンジンを搭載する必要があった。S2000オリジナル機の速度と高度を維持するエンジンが求められるので、慎重に選定する必要がある。

サミアが速度と高度に拘る理由があって、機体上部に大型レーダーを取り付ければ早期警戒管制機(Airborne Early Warning & Control)としても活用できる。且つ58人乗りで機体全長が27.28mもあるので、座席を取り外せば輸送機としても使える。
5機のS2000の改造を終えて、早期に就航させるのが狙いだった。

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正月明けから都内に勤務している平泉里子は、部下の元CA30名のCA復帰と再教育に動き出していた。
台湾資本のサザンクロス海運との共同出資で、昨年「サザンクロス航空」を国土交通省に事業登録申請を提出し、年末に仮認可を取り付けていた。

サミアをチーフとする航空エンジニアチームが手掛けているS2000の改良後の審査を受ける必要があるが、既に中古の95年製B747を5機入手し、改良作業も済ませている。
航空機の法定耐用年数は5年〜10年とされている。一方で航空機として使用できる経済的耐用年数は30年〜40年ともいわれている。
不具合の調整などを考慮すると、10年経過した中古機体の方が安定した運航ができると、航空業界では見做されている。

因みに旧政府専用機ボーイング747-400型機(1991年製)が利用10年で30億円以下で売り出された。室内が改良されているので実際はもっと高額だろうが、標準品の1/4程度となる。
最新のB777だと400億円と跳ね上がるので、新規参入者にとっては中古航空機は極めて有り難い存在となる。

プルシアンブルー社の航空子会社PB Air社は、中古自動車と同じ様に新しいエンジンに積み替え、内装シート類を新品に交換する。更に、UAV機B117に搭載している航空用AIを、改造したB747に搭載し、自動離発着、自動航行を可能とする。
また、法定義務では正副2人のパイロットが搭乗せねばならない。
全ては安全の為なのだが、サザンクロス航空の機体にはAIが搭載されるので、パイロットの負担や飛行運転中のストレスは、世界一少ないものになるだろう。

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プルシアンブルー社へ去った同僚CA達に声を掛けられ、条件の良いパイロット募集要項に目を通す。

海運会社と設立したというサザンクロス航空は、日本と東南アジア各国を繋ぐ路線をメインとして就航する。

プルシアンブルー社はコロナ禍に東南アジア各リゾート地のホテルを買収しており、「パシフィックホテル」と名を変えた他系列のホテルを共同所有しており、航空機と4つ星ホテルの2本立てで、比較的安価なパッケージ料金を設定している。

「コロナが明けた後、真っ先に回復するのは観光だろう・・」
もう1年近く休業中のパイロットは、面接を受けるべく候補日時をPCで入力していった。

(つづく)


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