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疲弊感ただよう教員の勤務実態

□景色
2016年度の文科省が公立小中学校教員を対象とした教員勤務実態調査によると、「過労死ライン」(月80時間以上の時間外労働)を超える教員が小学校で33.5%、中学校で57.7%を占めている。

平日の平均労働時間は小学校で11時間35分、中学校で12時間6分であり、さらに持ち帰り仕事がそれぞれ1時間36分、1時間44分となっている。

にもかかわらず公立学校教員は法律上、残業していないことになっている。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(以下、給特法)によって、所定労働時間を超えた実労働は残業とみなされない。現行では残業のように見えるものは全て「自発的勤務」と解される。

近年、教員の働き方が広く問題として取り上げられるようになってきている。

□本

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『迷走する教員の働き方改革 —変形労働時間制を考える』
内田良 広田照幸 高橋哲 島﨑量 斉藤ひでみ 岩波ブックレット 2020年

目次
はじめに 
第1章 学校の現状を見える化する
第2章 なぜ、このような働き方になってしまったのか
第3章 給特法という法制度とその矛盾
第4章 一年単位の変形労働時間制がもたらす危険性
第5章 変形労働時間制は教育現場に何をもたらすか?

要約
教員の多忙化は数字上も明確である。給特法制定前の1966年実施の教員勤務状況調査と2006年教員勤務実態調査を比較すると、66年当時に月8時間だった超過勤務は06年には月34時間と4倍以上増えている。

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顕著に増加しているのは書類作成などの「事務的な業務」と集団指導を中心とした「生徒指導」である。逆に減っているのは勤務時間中に教員が自分で勉強したり調べ物をしたりする「自主研修」で、中学校教員を例にしてみると66年は一日平均40分、16年の調査では一日平均6分である。

給特法は2019年末に改正された。2021年度より自治体単位で公立学校の「一年単位の変形労働時間制」が導入可能になる。この新制度は業務の少ない「閑散期」の労働時間の一部を、業務の集中する「繁忙期」に付け替えるという方法である。

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学校の現状はどうだろうか。繁忙期/閑散期の区分を儲けるに相応しい職場と言えるだろうか。答えを端的に示したいが、じつは文科省は国として毎月の労働時間のデータを把握していない。エビデンス(科学的根拠)なき制度改変なのだ。

文科省は現状を肯定しているわけではない。多忙化する学校の現状に心を痛め、人員確保や改善に力を尽くす官僚も多い。しかし現実として、国家の予算を管理する財務省の主導力に比べると文科省の立ち位置は弱い。

予算がないので文科省自身として費用を用意できない以上「現場で工夫せよ」という対応になってしまう。結果、教育委員会や学校に「働き方改革をやれ」という指示だけ降ってくる。教員の働き方改革は「迷走」の最中である。

□ひとりごと
後日、音声公開予定

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