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「面白さで勝負しなよ」と言われて

「作品の面白さで勝負しなよ」

初めて会った人に、面と向かってそう言われたことがある。
今から二年前、2018年のことだ。

当時の私は、ちょっと変わった演劇を作りたがっていた。(今もだけど)
ヒトとヒトによる演劇ではなく、ヒトとロボットによる「ロボット演劇」

ロボットは持っている。企画もある。それなりに資金もあった。
圧倒的に足りなかったのは、「演劇スキル」。
企画を形にするための方法が、まったくわからなかった。

知り合いに、小劇場で活動する劇団を紹介してもらった。
企画を説明し、台本を書いてもらい、役者やスタッフを集めてもらった。
数回やった公演は赤字だったが、主催者の私はそれでも満足。

しかしすぐに、欲が湧いてくる。

「もっと直接、自分の力で演劇を作れるようになりたい」

自分の言葉で、好きなモノの魅力を伝えられるような作品を書きたかった。
そこでまずは、脚本の勉強をしようと思い立つ。
戯曲の書き方や読み方を学ぶセミナーを見つけて、通うことにした。

会期は1年間。ともに学ぶ同期は、60人。
初回の講義では「ロボットが好きで、ロボットの魅力を伝えるために――」みたいな、とにかくロボット推しの自己紹介をした。
おかげで、すぐに顔を覚えてもらえたと思う。
そんな中の一人に言われたのが、あの言葉だ。

「ロボットより先にさ、作品の面白さで勝負しなよ」

内心「なんだこいつ」と思った。
でも、痛いところを突かれた気がした。

珍しいだけじゃ、すぐに飽きられる。
技術的にすごいことをやっていても、わかる人にしか伝わらない。
ロボットで演劇をやっているなんて、だいたいの人はどうでもいいのだ。

でも、面白い作品って、どうすれば……?
そう思いながら、脚本を書く勉強を始めたのだった。


1年間の講義は終わり、いつの間にかその人とは「同期」から「作家仲間」になっていて、「呑み友達」にもなった。
先日久々に再会し、近況報告を終えた後に「そういえばあの時……」という話になり、「その指摘」を思い出したのだ。

改めて思い返すと、まったくそのとおり。
その人は「お互いこじらせてたよね」と笑っていたけど。

応援したくなる主人公や登場人物。
前のめりになれるシチュエーション。
作品を通して伝えたいテーマ。
その他にも、いろいろ。

そうした要素が組み合わさって、お話の骨組みがしっかりと仕上がった時、
初めて、その上に乗っているモチーフが効いてくる。
モチーフありき、ロボットありきで考えてはいけない。

私は今もロボット演劇を作っているし、これからもそのつもりだ。
でも、新しい作品を思いつくたび、自問自答するようにしている。
「ロボットがなくても、面白い作品になっているか?」
あの手厳しい指摘は、たぶんこの先も忘れられない。

「君も、ロボットから人間になったんだ」

そんなことを言われながら、久々に高円寺で囲んだ夕飯。
インド料理とお酒がとても美味しかった。

作品を面白くするためには、もっと検討と奮闘が必要だと思ったけれど、
なんだか自分の人生って面白いなあ、とちょっぴり自画自賛した夜だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました! これからも応援いただけたらうれしいです。 (いただいたサポートは、作品制作のために活用いたします!)