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【五大商社とアニメ②】子ども向けアニメの裏側に三井物産あり。キッズステーション買収、デュエル・マスターズを開発した手腕

「五大商社とアニメ」シリーズ、今回は三井物産について紹介したいと思います。

前回紹介した三菱商事(リンクはこちら)はベイブレードをヒットさせ、ジブリにも出資をしていましたが、2023年現在はコンテンツ事業にそこまで精力的ではないと考えられます。

今回紹介する三井物産は近年までアクティブにアニメ事業を手掛けていました。三井物産とアニメの関係はとても面白いと思います。なぜなら子ども達がアニメを観て楽しんでいる裏側には、資本社会の弱肉強食の食い合い、ビジネスの応酬が繰り広げられていたからです。

中堅財閥のベンチャー事業「キッズステーション」を手に入れた三井物産

三井財閥、三菱財閥、住友財閥。これらを3大財閥と呼びます。今回紹介する三井物産は三井財閥グループの中核的存在の会社です。

その財閥のくくりをもう少し大きくすると、第二次世界大戦後にGHQにより財閥解体を受けた十大財閥に五つの財閥を加え、これらを十五大財閥と総称するようです。

そんな十五大財閥の1つに大倉財閥という中堅財閥がありました。とても簡単に大倉財閥を紹介すると、渋沢栄一らと共に、鹿鳴館、帝国ホテル、帝国劇場などを設立した大倉喜八郎が創業した財閥です。

大倉財閥は1952年に大倉商事へと名前を変えます。1990年に社内ベンチャーとしてCATV局向け番組供給事業を開始します。翌年には「レモンチャンネル」の名称でテープ配信をスタート。1993年にCS放送局「ネオサテライトビジョン」を設立します。

ネオサテライトビジョンの創立者は添田弘幸氏。テレビ局への就職を目指すも夢叶わず、大倉商事に入社。入社9年後の社内事業コンペでチャンスをつかみ、社内ベンチャーとして放送局を設立したのです。

ただ、簡単な道のりではなく創業後は赤字続きでした。しかし、転機は1996年に訪れます。パーフェクTV!(現スカパー!)でデジタル衛星放送を開始、子ども向け番組を配信したところ加入者が急増。単年度黒字を達成するのです。

ですが、災難は続きます。なんと親会社の大倉商事が1998年に自己破産。社内ベンチャーで事業を始めた添田氏の当時の心情は穏やかではなかったでしょう。

そして、ここで三井物産が登場するのです。「ネオサテライトビジョン」は2000年に「キッズステーション」に名前を改め、三井物産資本で再スタートを切ります。(※Wikipediaには1996年時点で三井物産が資本参加しているとあるのですが、ソース確認できなかったのでただし書きとします。)

「自分で思うような仕事がしにくくなった」。

創業者の添田氏は2004年にキッズステーションを退職。三井物産は中堅財閥の社員が社内ベンチャーとして苦労して大きくした事業を手に入れたのです。子ども向けアニメチャンネルの草分け的存在のキッズステーション。その裏側ではビジネスのドラマがあったのです。

三井物産がキッズステーションにとっての救世主であったことは間違いないでしょう。一方で、添田氏は度重なる苦難を乗り越えたものの、より大きな資本・力に飲み込みれてしまったようにも思えます。

三井物産参加となったキッズステーションは、視聴可能世帯数が800万世帯を突破するほど大きく成長していきました。実際、キッズステーションの放送を実際に観ていた方、皆さんのお子様が観ていたという方も多いのではないでしょうか。

キッズステーションは名前の通り「アンパンマン」「デュエル・マスターズ」「ポケットモンスター」「妖怪ウォッチ」など有名子ども向けアニメ作品をメインで放送していました。

また、キッズステーションはアニメを放送するだけでなくアニメの製作委員会にも出資していました。例えば「イナズマイレブンGO」「妖怪ウォッチ」「かいけつゾロリ」の劇場版シリーズに委員会メンバーとして参加しています。(※Wikipediaには「美少女戦士セーラームーン」「とっとこハム太郎」の製作も携わっているとありますが、こちらもソース確認できませんでした。もし事実ならとても有名なIPに出資できていたということになります)

キッズステーションの戦略として「デュエル・マスターズ」を開発、「トミカ」の製作委員会に参加

キッズステーションは、2000 年頃よりオリジナルキャラクター開発・販売事業を戦略的に進めていました。

その成功事例が「デュエル・マスターズ」です。

遊戯王と並ぶ人気カードゲームですが、実は三井物産が小学館、Wizards of the Coast, Inc.と共同で開発したのがデュエマの愛称で親しまれるデュエル・マスターズなのです。

このWizards of the Coast, Inc.ですが、ハズブロの100%子会社です。そして、デュエル・マスターズはトレーディングカードゲームをタカラ(現:タカラトミー)から発売していました。

前回紹介した三菱商事の記事を読まれた方はピンとくるかもしれません。三菱商事はベイブレードをハズブロを通して海外地域で販売、タカラトミーと資本・事業提携をしていました。

そうです、三菱商事と三井物産は玩具の展開、アニメやマンガのメディアミクス、タカラトミーとビジネスを行うという似たようなことをしていたのです。

三井物産とタカラは2004年に共同事業覚書を締結し、三井物産はコンシューマーサービス事業本部を新設します。タカラにとっては三井物産は収益拡大のための重要なパートナーだったようです。中国への展開力などをもつ三井物産の商社としての海外ネットワークにも期待していたようです。

実際、2004年のタカラの投資家に向けたアニュアルレポートには三井物産との連携が高収益体質を実現できるであろうと書いています。

出典:https://www.takaratomy.co.jp/ir/financial/pdf_takara/annualreport/annual_2004.pdf

2007年、タカラはトミーと合併し既にタカラトミーとなっています。この時も三井物産とつながりがあったのでしょう。タカラトミー自社IPの「トミカ」を実写化。その製作委員会には松竹、白組に並んで三井物産もいたのです。

出典:https://www.takaratomy.co.jp/product_release/pdf/p071205.pdf

ソニー・ピクチャーズとアニメ事業を展開する合併会社「AK Holdings」設立、そしてキッズステーションとの別れ

2017年、三井物産はソニー・ピクチャーズ・エンターテインメントと合併会社「AK Holdings」を設立します。

ソニー・ピクチャーズは子会社の株式会社アニマックスブロードキャスト・ジャパンでアニメチャンネル事業を展開。アニマックスがアニメ専門チャンネル業界1位、キッズステーションが業界2位でした。両社とも視聴可能世帯数が800万世帯を突破していました。

2017年といえば、NetflixやAbemaTVなどが登場して配信サービスが盛り上がりを見せ始めた時期。ソニー・ピクチャーズ、三井物産ともに新しいことを始めようという意識が働いたのかもしれません。

「キッズステーションとアニマックスは、これまで長きに亘り、魅力的な日本アニメを視聴者へお届してきました。これまで強化してきたアニメ放送事業を、さらに拡大し、ソニー・ピクチャーズと共に、両社の事業を益々発展させていきます。また、これらチャンネル事業を核として、国内だけでなく、グローバルに様々なアニメ関連事業を展開していく方針です。両社の総合力を活かして、新しいビジネスモデルの開発にも挑戦していきます。」

リリース | ソニー・ピクチャーズ及び三井物産、アニメ事業を行う合弁会社を設立 - 三井物産株式会社 (mitsui.com)

三井物産のソニー・ピクチャーズとの合弁会社設立のリリースを見ると、三井物産側からのコメントに「新しいビジネスモデルの開発に挑戦」とあります。もしかするとNetflixのような配信サービスを仕掛けようとしたのかもしれません。

ただ、AK Holdingsは2021年にソニー・ピクチャーズがAK Holdingsの権利義務引き継ぐ形で吸収合併、解散します。キッズステーションはソニーグループ傘下になるのです。

これは予想ですが、ソニーグループはソニー・ピクチャーズを通してクランチロールを買収したので、三井物産と組む理由がなくなったのかもしれません。タカラが三井物産の海外ネットワーク力に期待したように、ソニーグループも三井物産の海外展開に着目しつつも、アニメのグローバル配信で世界最大規模を誇るクランチロールという良い買い物ができて満足したのかもしれません。

もしくは、AK Holdings設立の際に既に三井物産はアニメ事業から一歩引いていたという見方もあります。AK Holdingsの代表取締役にはソニーピクチャーズの代表取締役社長である滝山正夫氏が就任。滝山氏はアニマックスの代表取締役でもあり、キッズステーションの代表取締役にもなりました。(1人で4社の代表取締役を兼任)。それだけソニー側の人間で固めているので、三井物産はソニーにアニメ事業を任せたのかもしれません。

中堅財閥の社内ベンチャー事業を買収してアニメ事業に参入した三井物産。「デュエル・マスターズ」を共同開発するなど、実は子ども向けアニメの裏側には三井物産がいたのです。そして、ソニーグループというより大きな企業にアニメ事業を明け渡したのです。

三井物産のアニメの歴史とは、キッズステーションの歴史であり、より大きな資本が事業を飲み込んでいくというビジネスの歴史でもあるのです。

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次回は伊藤忠商事とアニメについて紹介します。Vtuber事務所にじさんじを運営するANYCOLORに出資するなどエンタメ色の強い伊藤忠はどのようにアニメと関わりがあるのでしょうか。

全記事は読めるのですが、note有料版の設定にしています。もし本記事が面白ければ支援のほどよろしくお願いいたします!

引用・参考記事

会社概要 | ベストフィールド (bestfield.com)

フジサンケイ ビジネスアイに社長インタビューが掲載になりました! | ベストフィールド (bestfield.com)

2004年5月【18】日 (takaratomy.co.jp)

annual_2004.pdf (takaratomy.co.jp)

<報道関係各位> (takaratomy.co.jp)

リリース | ソニー・ピクチャーズ及び三井物産、アニメ事業を行う合弁会社を設立 - 三井物産株式会社 (mitsui.com)

ソニー・ピクチャーズ、アニメ事業を展開するAK HOLDINGSを吸収合併 AK HOLDINGSは解散へ | gamebiz

アニマックスとキッズステーション、2大アニメ専門チャンネルが経営統合 (animationbusiness.info)

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