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ダイアリー21/10/27 JAPAN GETS KINKY FOREVER

ちょうど1年前の2020年10月27日。YouTubeにとある動画が公開されました。

僕が見た中で一番好きなミュージカル「キンキーブーツ」。日本版で俳優の三浦春馬さんが主演を務めたミュージカルです。

2020年7月。彼の早すぎる訃報を受け、多くのファンから「キンキーブーツ」上演の映像化を求める声が多く上がり、ネット上での署名活動では5万人以上が活動に賛同しました。残念ながら全編映像化はかないませんでしたが、2020年10月27日、公式から特別映像が公開されました。それがこちらの動画です。

僕が一番好きなミュージカル

倒産寸前の靴工場を継いだ小池徹平さん演じるチャーリーが、三浦さん演じるドラァグクイーンのローラと出会い、ドラァグ向けの”キンキーブーツ”で再起を図るという物語。

強烈なビジュアルであるドラァグクイーン姿の三浦さんが注目されがちですが、一つの作品、一つのエンターテイメントとして素晴らしいです。

小池さんや三浦さんをはじめとするキャストの歌・演技・ダンスは圧巻の一言。正直この作品を見るまで、三浦さんのことは「いわゆるイケメン俳優のひとり」としか認知していませんでしたが、この舞台を見て考え改め平謝りです。ハイヒールで舞台を優美に舞う姿、そして何より表情や歌声が素晴らしい。(ちなみに僕は2019年の再演版、大阪の千秋楽を見に行きました)

楽曲はシンディ・ローパーさんが手がけ、一度聴いたら病みつきになるようなノリのいい楽曲がたくさんあります。ストーリー展開も非常にわかりやすく、最後はハッピーエンドで観客も一緒に歌ってフィナーレ。また「ありのままの他人を受け入れる」「自分がなりたい自分になる」という、非常に元気づけられるメッセージも各場面に散りばめられています。

公演から2年以上経ちますが、自分の気持ちを”Raise up”したいときには今でも2016年版の公演CDを聞いています。このミュージカルに出会えて本当に良かった。そう思える作品・公演でした。

特別映像が示す”三浦春馬のローラ”へのリスペクトと愛

この動画は、三浦春馬さんと彼の演じるローラへの、リスペクトと愛が詰まっています。

動画の中身は海外のキンキーブーツ関係者からのコメントと、三浦さんが訪米した際の映像、そして初公開のシーンを含む公演映像や写真。「悲しみを前面に出した動画ではなく、彼と彼の演じたローラをこれからも変わらず愛し続けよう」。これが今回の特別映像の公開に携わった方たちの思いであると拝察しました。

この動画は、愛が詰まっている。彼の死を、「消費コンテンツ」かのように扱った一部のメディアやネット記事とは違います。彼の死を、人々の不安と悲しみを無責任に扇動することに利用した一部メディアとは違います。

「この動画を見て悲しむのではなく、笑顔になれるように」。そうすることが三浦さんへの最大限のリスペクトと愛であると、その確信をもって編集されたのだと思います。特に動画の最後は、三浦さんの笑顔のシーンがまとめられていました。「春馬ローラの笑顔で、あなたも笑顔に。あげてあげる。ただなりなさい」。携わった方々の、クリエイター・表現者としてのプライドすら感じます。

特別動画 見どころ

公演時はどうしても舞台との距離があるので、細かい表情などまで見えません。しかも舞台は生ものなので、全く同じ公演なんて存在しません。

この動画を見ると、三浦さんのミュージカル俳優としての演技力・表現力が随所で垣間見れます。指の先まで神経を行き届かせて、見えるか見えないかの一瞬の表情などにも気を配っていることが良く分かります。

また公式のプロモーション動画などで公開されてないシーン・楽曲も多く採用されています。「キンキーブーツ」のファンにとっても貴重な映像。以下は僕が思うシーンごとの見どころです。

サムネイル
まずサムネイル画像が最高すぎます。動画が公開され、YouTubeのトップにこの画像が表示されているのを見て、自然と涙が流れていました。劇中のローラは笑顔のシーンが非常に多いですが、その中でもトップクラスに輝かしい笑顔です。
「私に落とされた男は、あの人が最初じゃないのよ。そして約束するけど…最後でもないわ!」。このセリフの直後に笑顔を見せるシーン。ローラが初登場する「Land of Lola」。ローラの自信とユーモアが笑顔に表れています。

特別映像(訪米シーンとカンパニーコメント)
動画の冒頭は、三浦さんが訪米した時のシーンと、カンパニーのコメントで始まります。世界各国で「キンキーブーツ」は上演されていますが、「三浦春馬のローラ」が三浦さんにしかできないローラであり、愛されたということが伝わってきます。三浦さんがこのローラという役に、キンキーブーツという作品に真剣に体当たりしたからこそなのでしょう。

上演映像(LAND OF LOLA)
ローラ初登場シーンの楽曲。ドラァグクイーンとしてのローラの魅力である「男性らしい力強さ」「女性らしいしなやかな強さ」があふれる楽曲で、その両方を表現する三浦さんの演技、体の使い方が神です。

そのあとの小池さん演じるチャーリーが、ローラのために靴を作ることを約束した後のシーン。巻き舌で「(作ってほしい靴の色は)rrrrrrrレェェェッド!!」。どんだけ巻くねん、というくらいの巻き舌をぜひお聴きください。

上演映像(SEX IS IN THE HEEL)
ローラがチャーリーの作ったブーツにダメ出しをして、自分のデザインしたブーツをお披露目する一幕。舞台を大きく駆け回る楽曲ですが、三浦さんの歩き方はセクシーな女性のそれです。この楽曲のローラは金の鱗粉を散らしながら舞う青い蝶。履き心地じゃない、とにかくヒール。「赤色」の重要性を、青い衣装で説く姿は視覚での鮮やかさもバツグン。

上演映像(NOT MY FATHER'S SON)
このシーンの公開だけでも感謝しきれないレベルで見どころ満載。シーンとしては、ブーツデザイナーとして工場に来るにあたり、周りに気遣って男装できたローラが、男装姿を逆にからかわれてトイレに閉じこもってしまうというシーンの後。チャーリーとローラが互いに「父の期待に応えられなかった」という共通項で友情を深め、ブーツの完成に繋がっていく楽曲です。

三浦さんの表現力・歌唱力の高さがうかがえる楽曲で、「歌う」というよりチャーリーに話しかけるような表情と歌い方。もはや「歌う」って何?と考えることすら許さない圧巻の「表現」。「♪二人はチャーリーボーイ、同じね」の一瞬前、一瞬微笑むところとか、チャーリーに握手を求められたところで少しずつ口元が緩むところ、舞台ではなかなかここまで細かい表情を見れませんが、映像化されたからこそ見れるポイントでした。

上演映像(EVERYBODY SAY YEAH)
ブーツの完成を工場全体で喜ぶ、第一幕の終盤楽曲。ここはどちらかというとチャーリーの見せ場が多いのですが、高い音域を踊りながら出せる俳優はなかなかいないと思います。公開されている映像は短めですが、結構長い楽曲なので、ずっと動いて踊っているということを考えると本当にすごい。工場全体の喜びを包み込むような笑顔のシーンを所々で見ることができます。舞台で見るときはどうしても主演に目が行きがちですが、映像化してくれるとほかのキャストの動きにも注目できますね。

上演映像(WHAT A WOMAN WANTS)
ローラが女性陣を味方につけていき、最後までキンキーブーツを受け入れられない従業員のドン(演:勝矢さん)に、「女が欲しいものは何か」を説きながら「真の男を決めるため」の挑戦状をたたきつけるシーン。高音域な歌ですが声だけではなく、目元や指先も歌い踊っているような、細かい表現力。こちらは赤い軌道を描く黒い蝶です。

上演映像(IN THIS CORNER)
挑戦状とたたきつけた結果、ドンとローラがボクシングで対決するシーン(ちなみにローラは幼少期からプロボクサーとして父の訓練を受けてきたので強い)。何より筋肉美が素晴らしいです。ローラの歌唱シーンは短いですが、しなやかな腰つきでこっちがノックアウトです。対決後のドンとローラの二人、ローラがこの作品のテーマの一つ「あるがままの他人を受け入れる」の大切さをドンに伝える大事なシーン。お茶目なところとシリアスなところの切り替えは、見ているこちらが息をのみます。表情だけでなく声色や話し方も一瞬で変わります。

上演映像(HOLD ME IN YOUR HEART)
チャーリーがブーツを展示会に出品するプレッシャーで孤立していき、ローラにもきつく当たるシーン。展示会には男装で来るようにとチャーリーが言い放つのですが、女装姿の自分を拒絶され、怒りと悲しみに震えるローラが、映像は一瞬ながらすごく伝わると思います。言葉にできない怒りを表情と呼吸で表現しています。

楽曲はチャーリーとローラが喧嘩した後、ローラは展示会行きの空港に現れず、父の病院(施設)でステージに立つシーン。歌の内容はローラと父のことにも聞こえるし、ローラとチャーリーのことにも聞こえます。力強いけどどこか優しさも感じる歌い方。包み込むような、聖母とでも言いましょうか。「LAND OF LOLA」で「ちょっと毛深いマリア」という歌詞が出てきますが、ここでは「めっちゃ慈悲深いマリア」です。三浦さんの歌唱力が一番光るシーンです。

上演映像(RAISE UP/JUST BE)
フィナーレ。展示会で自らキンキーブーツを履くチャーリーのもとへ、ローラがやってくる場面。喧嘩別れした二人ですが、やっぱりお互いが必要だと再認識し、ハッピーエンドを迎えます。ローラの笑顔は、ローラとしてでなく、三浦さん自身の自然な笑顔のようにも見えます。後半の「JUST BE」の部分は「キンキーブーツ」で伝えたいメッセージが詰まっています。

ローラが示す6つのステップは、まさに今僕たちにも直接響きます。「追え真実」「学べNew」「自分受け入れれば人も」「愛を輝かせ」「プライド掲げ」「自分が変われば世界も変わる」。

最後はローラの笑顔のシーンを集めた総集編
各場面の笑顔がピックアップされています。それぞれ一瞬ですし、公演をご存じでない方はどのシーンかの把握も難しいと思いますが、どの笑顔もシーンごとに少しづつ色が違うんですよね。同じ笑顔でも演じ分けがある、と言いましょうか。でも逆に「どの笑顔も、見ている僕らを笑顔にしてくれる」という点では同じです。締めにサムネイルの笑顔を持ってくるのも、本当にニクい演出。

推しは推せるときに推せ

「キンキーブーツは恵まれている」ということも、この動画は示してくれました。すでに公演を終えた作品に、多くの人、お金、時間が動いています。それは一重に三浦さんとこの作品自体が、観客だけでなくキャストや制作陣に愛されているからこそ、動画公開が実現できたのです。

これは決して”当たり前のパターン”ではありません。どんなに人徳があっても、どんなに作品に多くのファンがいても、突然それを見ることができなくなるかもしれないわけです。キンキーブーツは、全編映像化こそ叶いませんでしたが、幸いなことに特別動画という形が残ったわけです。これは文字通りめったにあることではなく、「有難い」ことなのだと思います。

今の世の中、ともすると「愛」よりも「非難」「バッシング」「中傷」…そんな言葉と感情の刃の方が届きやすい、また大きく聞こえる世界です。時に否定や批評は人を強くする要素となりますが、とは言えその刃は、あまりに研ぎ澄まされすぎていることも少なくないと思います。

だからこそ、自分が好きなものは全力で、「好き」と直接言える間に愛し尽くすことが大切と思います。愛し尽くす、ということのかたちは、とにかくお金を使う、SNSやファンレターでの応援メッセージ、ブログやnoteで感想を書きまくる、など様々だと思います。

残酷なことにこの動画を何回見ても、三浦さんにはもう感想も、愛も、感謝も届かない。だからこそ、本当に好きなものは好きだと言えるうちに伝えるべき。彼の死とこの動画はそのことを僕に教えてくれました。

永遠の愛をこめて

「また3回目、再々演、再々々演と続いていける作品になれば」。千秋楽の挨拶で三浦さんが語っていたキンキーブーツ再演から2年。

この動画を見返すことで、春馬ローラをいつでも思い出すことができる。そして彼の笑顔に元気をもらうことができる。感想は本人に届かないけれど、悲しむことも嫌と言うほどできるけど、それよりも彼に笑顔をもらうことのほうがずっと幸せな気がします。この動画は本当にたくさんのリスペクトと愛の結晶です。

もし今後キンキーブーツをキャストを変えて公演するとしたら、ローラ役の人はものすごくプレッシャーに感じるかもしれません。絶対に春馬ローラと比べる人が出てきます。でも僕は、春馬ローラは春馬ローラとして心に残しておいて、その方のローラも受け入れたい。それが春馬ローラが教えてくれた、この作品が教えてくれたことのような気がするから。

この動画の公開に携わったすべての方と、キンキーブーツ日本公演に携わったすべての方、そして三浦春馬さんに感謝と永遠の愛をこめて。

動画公開から1年の節目によせて。2021年10月27日。

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