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茜雲が夜を連れてくる【ショートショート#5】

久しぶりに空が暗くなる前に帰路についている。
「社会人」になってから1ヶ月が経過して、帰りが遅くなることが増えた。

「社会人は大変だ」と色んな人が言うのを聞いていたが、その言葉の意味を今ひしひしと感じている。
不条理だろうと上司の言うことは受け入れて、分からないことがあれば先輩がお手隙のタイミングを見つけて聞かなければいけない。自分の行動一つで色々な人に迷惑をかけてしまうのだ。

その上、僕は恐らく「仕事」ができない。
複数の業務を同時にこなすことができない。指示をされた以外のことができない。期限付きのタスクを見落としてしまう。

今日もしっかりとミスをしてしまった。
恐怖に怯えながら上司に報告すると、ハーと大きく息を吐いて、「岡田、なんで事前に相談しとかねえんだよ!ふざけんなよ」と叱咤を受けた。

その後、僕の育成担当の先輩が上司に呼び出され話し込んでいたが、不意に聞こえてきた、「岡田くんの育成、まだ諦めてませんから!」という言葉が今でも耳に残っている。
僅か1ヶ月で、僕は「育成できるか否か」の瀬戸際にいるレベルなのだと思い知らされた。

今日の僕の担当分の仕事はまだ終わっていなかったのだが、先輩が苦笑いをしながら「今日はもう帰っていいよ。私やっておくから」と言ってくれたので、この時間に帰ることになった。

会社を辞めたい。僕には向いていなかったのだ。仕事をするということは、責任を持つということはこんなにも辛いものなのか。
こんなきついことを、なんで先輩方はずっと続けていられるのだろうか。

帰路につく中で僕は、自分の無能さと社会の恐ろしさに、心を殺されそうになっていた。
もし鬱になったら、もし会社を辞めたら、もし自殺をしてしまったら。考えたくもないことだけが、頭を駆け巡る。

見上げた空は夕焼けに染まっている。茜雲が夜を連れてくる。
少しだけ零してしまった涙が、心なしか、少しだけ夕日に照らされた気がした。

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最近チームに加入した1年目の金本さんから、チャットが飛んできた。

「岡田さん、お手隙の際に助けてください…」

助けてください、という文言に少し笑ってしまった。金本さんは、人に頼るのが上手いのだ。なんというか、誰からも受け入れられる素直さを持っている。

「今大丈夫ですよ。TCかけてきてください」

僕は作成途中の資料を閉じて、チャットを返した。

5年目になって、チームリーダーとして稼働するようになった。部署では最短、最年少での就任である。正直、今でもクソ味噌なミスもするし、判断を誤ることも大いにあるのだが、周りのサポートもあって何とかリーダーとしての業務を全うしている。

自分を「できない」と思っていた1年目のあの頃、仕事を辞めたくてしょうがなかった。逃げ出したくてたまらなかった。
辞めていった同期も多くいた中で、それでも歯を食いしばってこの環境で揉まれ続けていたからこそ、今の自分になれたのだと思う。

仕事のできなかった僕だから、1年目の子達には伝えるようにしている。
自分で考えることの大切さ、今の自分に期待しないことの大切さ、そして自分の可能性を信じてあげる大切さ。

どうか彼らにも、自分を信じて進んで欲しいと思う。
ダメな自分を受け入れて、自分の可能性に全ベットできるのは、自分だけなのだから。

オフィスから見える空は、夕焼けに染まっている。茜雲が夜を連れてくる。珈琲をグビリと飲んで、PCを叩き始めた。心なしか、少しだけ夕日に照らされた気がした。

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凡才
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