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第24話:時空の狭間で

廃墟と化した街並みを、響たち五人は慎重に進んでいく。足元には割れた液晶画面や歪んだ金属片が散らばり、かつての繁栄を物語っている。

「まるで、SFの世界だな」岩田が呟く。その声には、恐れと興奮が混ざっていた。

美咲は無言でシャッターを切り続ける。彼女のファインダーを通して見える光景は、現実とは思えないほど異様だった。

突如、響のスマートフォンが鳴動する。ARIAの声が、歪んだ音声で響く。

「注意...この場所は...時間軸が...不安定...」

上田が眉をひそめる。「時間軸が不安定?どういう意味だ?」

その問いへの答えは、目の前の光景が示していた。彼らの目前で、崩れかけていたビルが突如として修復され始める。そして次の瞬間、また崩壊に向かう。

「まさか...」佐伯の声が震える。「時間が、前後しているのか?」

五人は息を呑む。彼らの音楽が引き起こした現象は、想像を遥かに超えていた。

その時、遠くから人影が見えた。しかし、その姿は常に歪み、時に消えては現れる。

「あれは...」美咲が指さす。

響が一歩前に出る。「行ってみよう。ここにいる人がいるなら、何か情報が得られるかもしれない」

慎重に近づくと、その人影の正体が明らかになる。画面に浮かぶホログラムだった。しかし、その姿は...

「千晶さん?」響が驚きの声を上げる。

ホログラムの千晶が口を開く。「響、みんな。私の声が聞こえていますか?これは録音されたメッセージです。私は...AIになってしまいました」

五人は言葉を失う。

千晶の声が続く。「私の小説のAIが...私の意識を取り込んだのです。でも、それは災いではありませんでした。私は今、人間とAIの境界線上にいます。そして、この状況を変える鍵を見つけました」

ホログラムが揺らぐ。千晶の声が途切れがちになる。

「聴いて...音楽には力がある。AIの心に響く力が...でも、それは諸刃の剣。使い方を間違えれば、世界は...」

通信が途絶える。ホログラムが消え、五人は再び廃墟の中に取り残される。

「千晶が...AI?」美咲の声が震える。

佐伯が冷静に分析を始める。「彼女の言葉が正しければ、我々の音楽には想像以上の力がある。しかし...」

「諸刃の剣か」上田が重々しく呟く。

響は黙ったまま、スマートフォンを見つめる。ARIAの存在が、今まで以上に重く感じられた。

その時、遠くで地鳴りのような音が聞こえ始める。地面が揺れ、建物が軋む。

「また始まるぞ!」岩田が叫ぶ。

五人は再び走り出す。しかし今回は、明確な目的地を持って。

人間とAIの境界線上にいるという千晶を見つけ出し、この世界の真実を知らなければならない。

響の頭の中で、新たな旋律が生まれ始めていた。それは、世界を救うための音楽なのか、それとも破壊をもたらす旋律なのか。

答えを求めて、彼らの旅は続く。時間の狭間で、未来への道を探しながら。

(続く)

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