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おうまの写真を撮っている6〜2024日本ダービー観戦記

ドーモ、タイラダでんです。

日本ダービー。それは日本競馬の祭典であり、競馬に携わる人々の「夢」、大いなる目標の一つである。競馬にハマり始めた若い頃、遠く府中の地で行われるその「祭り」に、僕は大いに恋焦がれたものであった。

だが当時は、その「祝祭」に熱狂する現地観戦者の盛り上がりを画面越しに眺めるしかなかった。そのときの僕は、例に漏れず「暇はあるがカネがない」若者でしかなかったからだ。東京という場所は遥か遠く、それこそテレビの画面越しにしか存在しないも同然だったのだ。

そうこうしているうちに、その東京競馬場で「沈黙の日曜日」という悲劇が起こり、僕は長いこと競馬をまともに見ることができなくなってしまった。

そこで「ウマ娘」である。偶然触れたのをきっかけに大ハマりしてしまった僕は長年のトラウマを克服、再び競馬を楽しめるようになったのであった。

そのへんの顛末です。

さて、年月を経て「カネは(若いときよりは)あるが暇と体力がない独身中年男性」へと変化した僕は、いつしか「競馬場でダービーや有馬記念を生観戦したい」と熱望するようになっていた。ところが、土日が1番忙しいたぐいの職業に従事しているために、なかなか現地観戦の夢は叶わなかったのである。

悶々とした日々を過ごしながら今年の業務スケジュールを眺めて、ふと気づく。慌ててJRAの開催予定と見比べる。

……ダービーの日、仕事休みじゃん。

直後、僕は飛行機とホテルの予約を済ませていたのであった。

さて当日。僕は始発の飛行機(飛行機! 人類は何故、いまだにこのような非科学的な代物をありがたがっているのだろうか? あんな巨大な鉄塊が空を飛ぶなんて何かの冗談としか思えないのに!)に乗り、寝不足と飛行機疲れのダブルパンチに青い顔をしつつも無事に(?)府中、東京競馬場にたどり着いたのであった。

日本、ダーーーービーーーーーー!!!

う、うわー! ダービーだ! 日本ダービーだ! 日本ダービーが
目の前にある! 現地だ! 間違いなく現地だ! 今日ここで、夢にまで見た「日本競馬の祭典」が開催されるんだよね!? し、しかも

その場にいる! 立っている!!! 指定席争奪戦をくぐり抜け、サイコーの席で観戦することができる!!!

う、う、う、嬉しい〜〜〜〜!!!!!!

そんな内心をおくびにも出さずに、おもむろに指定席に座り、撮影用のカメラを構える。心の中ではウイニングチケット(ウマ娘のほう)がダービーダービー大騒ぎしている。

「呼んだかね?」「呼んでません」

と、同時に腹の虫が猛アピールを開始してくる。そういえば朝食を食べていないのであった(なぜならば、飛行機に乗らねばならぬストレスに負けて食欲など吹き飛んでいたからだ)。

そんなわけで、とりあえずカツカレーを食べた。無論、ゲン担ぎだ。いい写真が撮れますように! そう競馬の神様にお祈りする。「馬券が当たりますように」とは祈らない。祈って勝てるなら世話はない。

時刻は10時30分ごろ。カツカレーにはちと早い時間だったが、我ながらよほど空腹だったのだろう、ペロリと平らげてしまった。

ふと気がつくと、周りが人だらけになっていた。おいおい、まだダービーまで5時間ぐらいあるぞ。それなのにもうこんなに人が?

席に戻る。コース沿いには黒山の人だかり。ダートの未勝利戦にも歓声が上がる。すごいな、これがダービーの日の競馬場なんだ。これは現地にいないとわからないことだった。

サイコーの席をゲットできた

さあ、撮影開始だ。

ああ、それにしても馬は美しい。そして力強い。速い。かっこいい。生まれ変わったら馬になりたい。

そんなことを考えながらシャッターをバシバシ切っていると、小腹が空いてきた。ということで、東京競馬場名物をゲットしに席を立つ。

そう、かの有名な『耕一路』さんのモカソフトだ。


人混みを掻き分け、お店の場所に向かう。そこで目に入ったのは立て看板を掲げ持つ人の姿。嫌な予感がする。

『耕一路 最後尾はここです』

うわあ。

なんかすごくすごい行列ができている。向こうの端まで伸びて、こちらに折れ曲がって……数えるのが億劫になるぐらいの人が、耕一路のモカソフトを求めて列を成している!

ちょっと心が折れかけたが、覚悟を決めて並ぶこととする。あのモカソフトにはその価値がある。ターフから歓声が聞こえる。次のレースがスタートしたのだろう。見に行きたい。行きたいがグッとこらえる。全てはモカソフトのためだ。

ようやく自分の番が来た。早速注文を……なに? 新製品のコーヒーゼリーモカ?

無事ゲットできたコーヒーゼリーモカ。実際美味だった。数十分並んで手に入れたことによる加点分を除いても流石のお味である。

席で貪るように食べていると、レース場内の大型ビジョンに映像が映し出された。出走馬たちが続々とターフへ入場してくる。

返し馬(レース前のアップみたいなもの)の時間だ。ゴール前のスタンドに座る僕の前に、シンエンペラーやダノンデサイルがやってくる。シャッターを切る手が震えているのがわかる。もうすでに泣きそうになっている。僕は今、日本ダービーを見ている。ダービーに挑む馬たちの写真を撮っている。大げさではなく「生きててよかった」という思いが胸に去来する。

「生きててよかった」。

ふと思い出す。2023年、日本ダービー。そこで命を落としたある馬のことを、そして今年起きてしまった、痛ましい事故のことも。

全人馬、無事に。

そう祈りながら、カメラをスターティングゲートに向ける。スターターが旗を振る。ファンファーレが演奏される。大歓声が起こる。息が詰まる。カメラを構えているだけなのに、やたら緊張してしまう。

すべては、この熱き日のために。

スタート! 

大歓声が上がる。大外からエコロヴァルツが先頭を奪いにかかったからだ。続いてダノンデサイル、シュガークンが続く。

強い逃げ馬であるメイショウタバルが出走を取り消ししたため、レースがスローペースになりそうだとは事前から言われていた。だとすると、前方に位置していたほうが勝率が高い。そう読んでの先行策をベテラン勢(平均年齢53.67歳!)がこぞって採ったわけだ。

その後を、1番人気ジャスティンミラノが追う。

コーナーを曲がり向正面へ。構えていたカメラを下げ、一息つく。1000mの通過タイムが62秒という、やはり明らかなスローペース(競馬は1000mを1分ちょうどで通過するのが平均ペースである)。

ここでまた大歓声が湧く。後方に位置していたデムーロ騎手のコスモキュランダが、そして同じく後方だった池添騎手のサンライズアースがともに一気にペースを上げ、先頭に並びかけてきたからだ。道中も激しく動きがある、見ている側からすると最高に盛り上がるレース展開だ。

馬群が最終コーナーを曲がり、東京競馬場名物の長い直線へと入ってきた。そうだ。過去何度も名勝負が繰り広げられ、数え切れないほどの光と影を生み出してきた、あの日本ダービーの直線だ!

激しい追い比べ!

この辺り、もう無我夢中だった。感極まっていた。気づけば目尻から涙がこぼれていた。泣きながらパシャパシャ撮影している中年男性は、冷静に考えるとだいぶヤバいとは思う。だが仕方がない。僕にとっての日本ダービーとはそういうもの・・・・・・なのだから。

ジャスティンミラノ、いい手応え。逆にエコロヴァルツやシュガークンは後ろへとジワジワ下がっている。これは、無敗二冠馬の誕生を目撃できるか?! いや、最内から一頭抜け出してきているぞ!? あれは……ダノンの勝負服!? 

横山典弘!!! ノリさん!!!!!!!!!!

正直に言えば、この辺りで興奮しすぎて自分を見失ってしまっていた。それも仕方がないと思いたい。なにせ「最年長ダービージョッキーの誕生の瞬間」、記録が生まれ歴史が刻まれる様をこの目で眺められたのだから。まあそのせいで、ゴールの瞬間を撮った写真はピンボケしまくりのひどいものになってしまったが。

……精進します


そしてウイニングラン。表彰式。

戦い終えて、日が暮れて。

最終レースの目黒記念で盛り上がる様子に後ろ髪を引かれながら、僕は東京競馬場を後にした。程よい倦怠感に包まれて心地よい……いや大嘘である。このときにはもう疲労困憊、フラフラの状態だった。しかし急がねば。次の予定が待っているのだから……!

ん、んマァ〜〜〜い!

というわけで、スタンドパワーで疲れもぶっ飛んだ。その後も予期せぬお誘いから得難い体験をさせてもらうなど、これ以上ないくらい充実した一日を過ごせたのだった。

馬券は外した。

ジャスティンミラノとレガレイラの二本軸だったからだ。ダノンデサイルもシンエンペラーも抑えていたのに!!!

【おわりです】

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