ストーリー・ビジョン・コミュニティとは何か?なぜ必要か?
ユーザベースの佐久間です。
起業家向けのコミュニティサービスでもあるライブアプリ「ami」の立ち上げ中です(もうすぐ正式リリースします)。
その過程でストーリー・ビジョン・コミュニティについて明確な理解を得たいという思いが強くなり、過去6年くらいのユーザベースでの実践から学んだ私の考えを書きます。
お題としてはエモいのですが、クリアな定義をつくりたいという想いがあり、今回の文章はドライです。そして長いです。
「今回の文章を書いたきっかけ」にもある通り、最初は、「コミュニティ」について考えをまとめようと思ったのですが、コミュニティについて書くには、ビジョン、ストーリーが必要で、長くなっちゃいました。
もちろん、人によって定義が異なる言葉なので、あくまで私の定義、私の考えで、決して絶対的なものではない、という前提でお願いします。
<目次>
・ストーリーとは何か?
・ストーリーはなぜ必要か?
・ビジョンとは何か?
・ビジョンはなぜ必要か?
・SPEEDAでのストーリーとビジョン
・コミュニティとは何か?
・コミュニティはなぜ必要か?
・コミュニティをつくるには?
・まとめ
・今回の文章を書いたきっかけ
ストーリーとは何か?
起業家にとってストーリーとは何か?それは「Why me」に答えるものだというのが私の定義です。
起業家にとって、「なぜ自分がこの課題に取り組むのか」、その疑問への答えを言語化したものがストーリーだと思います。
ストーリー = Why meへの答え
そして、ストーリーには「型」があります。
起業家自身の原体験があり、そこから解決すべき「社会の負」に思いがいたり、その負を「解決するためのアプローチ」が今つくっているサービスである、という一連のつながりが、その「型」です。
ストーリーの型
原体験 → 社会の負 → 解決アプローチ
ストーリーはなぜ必要か?
その理由は下記の2点だと思います。
1. 自分自身がその事業をやり抜く拠り所になる
2. 他者の共感を得て、仲間を集める拠り所になる
事業づくりは苦難の連続で、必ず、「なぜこんなに苦しいことをしているんだ」、「なぜ自分がやらなければならないのか」と悩むタイミングが来ます。と言うか、毎日のように来ます。
その悩みの答えを「ストーリー」として明確に言語化し、その悩みに向き合い続けることは、事業をやり抜くために不可欠だと思います。
また、当たり前ですが、言語化することで人と共有することができます。
共有することで、ストーリーに共感してくれる人が現れるかもしれません。そして、その共感が高まり、社員、ユーザー、パートナーなど「仲間」になってくれる可能性が生まれます。損得でも人は動くかもしれませんが、ストーリーで得た共感はより強力で、持続的です。
ストーリーはどこまでも具体的である必要があります。人は具体的な話にしか共感しません。
多くの人の共感を得るには、自分の弱みや過去の苦しみ、失敗をオープンに開示することが重要だと考えています。これは、自分自身がやり抜く理由をクリアにするためにも重要です。
ビジョンとは何か?
天下り的に、私の定義を述べます。
ビジョン = 事業の存在意義 = Why usへの答え
ビジョンは、ストーリーを抽象化し、ビジョンに共感する人が自分自身のストーリーに落とせる余白を持った形で「事業の存在意義」を記述したもの。
ストーリーが「Why meへの答え」であるのであれば、ビジョンは「Why usへの答え」で人と共有可能なもの。
ビジョンはなぜ必要か?
人は、自分自身のストーリーを見つけてこそ動ける。やり抜くことができる。これは、起業家自身がストーリーをつくる理由の1番目に書いたものと同じです。
起業家のストーリーへの共感だけでは不十分で、共感を得た人が、その人自身のストーリー、「Why me」を見つけてこそ、「仲間」になります。
従って、多くの人が、自分自身のストーリー(「Why me」への答え)に落とせるように、起業家自身のストーリーを抽象化し、余白を持たせたものが必要です。それがビジョンです。
ビジョン = ストーリーを抽象化、一般化したもの = Why usの答え
ストーリー = ビジョンを具体化、個別化したもの = Why meの答え
ビジョンは、その事業に関わるすべての人の個別のストーリーの共通部分であるとも言い換えられます。
ストーリーについては、自分がやり抜く理由をクリアにするためにも、共感を集めるためにも、「どこまでも具体的である」、「弱みや失敗をオープンにする」ことが必要であると書きました。
では、ビジョンに必要な要素とは何でしょうか?
たくさんの人の共感を集め、各々が自分のストーリーに落とし、自分の行動理由の一つとするようなビジョンとはどの様なものでしょうか?
ケン・ブランチャードという人の「ザ・ビジョン」という本では、ビジョンには、以下の3つの要素が必要だと書かれています。
・有意義な目的
・未来のイメージ
・明確な価値観
「有意義な目的」は、組織の存在意義であり、「なぜこの事業をやるのか」という質問に答えるもの。ストーリーの型「原体験 → 社会の負 → 解決アプローチ」の中での、「社会の負の解決」が「有意義な目的」になり得ます。
「未来のイメージ」は、最終結果に到達するまでのプロセスではなく、最終結果そのもののイメージ。原体験から特定した「社会の負」が解決された結果、どのような世界が生まれるかのイメージです。
「明確な価値観」は、目的を達成する過程で、どう行動していくべきかを示すガイドライン。これは、「バリュー」という言葉で、ビジョンとは別に定義する企業が増えています。ユーザベースにも「7つのルール」というバリューがあります。
SPEEDAでのストーリーとビジョン
抽象的な話が続いたので、SPEEDAでの具体的な話を書きます。
SPEEDAは、ユーザベースの創業者である梅田、新野の「原体験」からはじまっています。
それは、二人がコンサル、商社、投資銀行のジュニアメンバーとして、情報収集、情報整理、情報加工に膨大な時間を費やしてきたこと。その「分析」や「意思決定」の前段階に膨大に時間がかかり、創造的な仕事に打ち込む時間が中々取れなかったこと。
その原体験から、
BtoCの世界ではGoogleがあるが、BtoBの世界では情報収集・整理・加工の決定的なサービスがなく、多くの人が苦しんでいる
という「社会の負」の解決を目指します。そして、
BtoB版のGoogleのような、BtoBのクローズドな情報を収集・整理して、その加工まで容易に行えるプラットフォーム(SPEEDA)をつくる
という「解決アプローチ」にいたります。
この「原体験 → 社会の負 → 解決アプローチ」の流れが、梅田、新野のストーリーであり、「社会の負 → 解決アプローチ」自体が、ほぼSPEEDAのビジョンです(正確には、ユーザベースのミッションという形で当時言語化されていました)。
この「ビジョン」は抽象度が高いため、梅田、新野と全く異なるバックグラウンドを持つ人にとっても、その人自身のストーリーに落とすことができます。
例えば、法人営業の担当の方。
担当企業への提案作成にあたり、事前の企業・業界調査に膨大な時間を費やしている。肝心の提案内容を練る前に力尽きてしまっている。
この問題の解決は、SPEEDAのビジョンに合致します。従って、この人は自分自身の原体験に根ざしたストーリーをつくり、SPEEDAのビジョンに重ねることができます。
このように、起業家自身のストーリーとビジョンが組み合わさることで、共感した人自身が自分のストーリーをつくり、「仲間」になってくれる可能性が広がります。
コミュニティとは何か?
2018年はコミュニティの年として記憶されるかもしれません。
そのくらい、コミュニティの重要性が叫ばれ、コミュニティに関する議論が盛んで、コミュニティづくりを支援するサービスが多く出ています(amiもその1つです)。
改めてコミュニティを定義します。
コミュニティ = ビジョンを共有する集団
コミュニティは、昔は地域的なつながりを指す言葉でしたが、今では、ビジョンによるつながりを指す言葉になってきていると思います。
ビジョンが「事業の存在意義」を指すとの定義だったので、事業に付随するコミュニティとは、「事業の存在意義を共有する集団」ということになります。
ビジョンを共有する集団は、自社内のメンバーに留まらず、サービスに関わるすべてのメンバー、ユーザーやパートナーを巻き込み、コミュニティという形に成長し得ます。
コミュニティはなぜ必要か?
スタートアップにとって、事業にとって、なぜコミュニティは必要なのでしょうか?なぜビジョンを共有する集団(サポーター)を増やすことが必要なのでしょうか?
これは別のnoteに私の体験と考えを書いたので、ぜひ読んで欲しいです。
このnoteの結論だけを書くと、コミュニティをつくること(≒ 応援するサポーターを増やすこと)は、開発(プロダクトマーケットフィット)、マーケティング、採用、事業提携などの事業上の大きな問題の解決につながると考えています。
コミュニティをつくるには?
コミュニティをつくるにはどうすればよいのか?
ユーザーを巻き込んだコミュニティをつくるために、メンバーと一緒に様々なトライをやってきました。一定の成果に結びついたものもあれば、中々上手く行かず失敗したものもあります。
そこでたどり着いた一つの答えが下の文章です。
自社内で実現できていないことは、コミュニティでも実現できない
コミュニティはビジョンを共有する集団であり、自社メンバーはその共有・共感度合いが最も高いコア集団のはずなので、よく考えればこれは当たり前のことです。
下の図のように、コミュニティの中心に自社があるイメージです。
お互い学び合い、アウトプットを共有するコミュニティをつくりたければ、まず、自社メンバー同士が互いに学び合い、アウトプットを共有している状態を実現する必要がある。
顧客紹介が生まれるコミュニティ(Sell through the community)をつくりたければ、まず、自社メンバーの中から顧客紹介がたくさん生まれている状態を実現する必要がある。
オープンでフラットなコミュニティをつくりたければ、自社でオープンでフラットなカルチャーを実現できている必要がある。
コミュニティは自社の中で温められた「熱」が社外にも拡散したものです。まず、自社の中に「熱」がないと、何も生まれません。
なので、逆説的に、
コミュニティをつくりたいのであれば、まず自社内のビジョン共有度を高め、コミュニティで実現したい組織文化を自社で高い次元で実現すること。
ということが成り立つと考えています。
まとめ
長い文章にお付き合いいただきありがとうございました。
今回書いたことをまとめます。
・ストーリー:「Why me」に答えるもの。起業家自身がやり抜くためにも、共感を集めるためにも必要。
・ビジョン:起業家のストーリーを抽象化し、「Why us」に答えるもの。起業家のストーリーとビジョンへの共感からその人自身のストーリー(Why meへの答え)が生まれ、「仲間」になってもらうために必要。
・コミュニティ:ビジョンを共有する集団。ユーザーを巻き込んだコミュニティをつくっていくことでスタートアップの大きな問題が解決する(別note参照)。そして、コミュニティのコアは自社メンバーなので、コミュニティで実現したい組織文化をまず自社で実現することが重要。
今回の文章を書いたきっかけ
今回の文章を書いたきっかけは、前田ヒロさん@BEENEXTとの対話です。
「SaaSの経営者にとって最も重要なことは組織へのコミットだ」
という前田さんの話に反応して、
「SaaSの本質はコミュニティ。コミュニティは自社をコアにするので、自社で組織文化が確立できていない会社がコミュニティをつくれるはずがない。なので、SaaSの経営者にとって最も重要なことはまず自社の組織文化へのコミット。非常に共感します」
などと話したのですが、そこにいたる自分の考えを整理したく、今回の文章を書きました。
SaaSはサブスクリプション(継続課金)モデルで、ユーザーにリアルな価値を届けられなければすぐに解約される「ウソがない」ビジネスです。ユーザーのインセンティブとサービス提供企業のインセンティブが完全に合致します。
であるからこそ、ユーザーを巻き込み、オープンなコミュニティをつくり、一つずつ愚直にユーザーと価値を共創していくことが重要だと考えています。
SaaSの経営者にオープンな方が非常に多い(佐久間調べ)のは、「ウソがない」SaaSビジネスがそのような人に合うからであり、また、今回書いたような、オープンなコミュニティをつくることでビジネスが発展していくメカニズムが、特にSaaSビジネスに当てはまるからではないかと思います。(終わり)