僕と弟と神様

「ねぇねぇ、神様っているの?」弟が急に聞いてくるものだから私は回答に少し困った。
「いるよ。雲の上にいるんだ。」私がそう言うと、「でもさぁ、雲って水蒸気の集まりなんだよ。その上に乗れるわけないじゃん。」と困ったように言ってきた。
困った。変な回答をしなければよかった。だが、一度答えてしまったなら引くことはできない。
「それは神様の力で何とかするんだよ。神パワーだよ。」
弟は目を光らせていた。
「神パワー!?すごい!!」

私たちは昼食を取りに林檎の木が沢山生えてる森まで向かった。
森に向かう途中弟が聞いてきた。
「ねぇねぇ、神様って普段何してるの?」
また回答に困る質問をしてきた。
「人間を作ってるんだよ。」私がそう言うと、弟はとても納得した様子だった。
「だから、虫たちや動物たちはお父さんとお母さんがいるけど、ぼくらにはいないんだね。」弟は満面の笑みでそう答えた。
生まれた時からこの世界には僕と弟しかいなかった。でも、建物とか本とかはあるから、知らないこととかはあんまりないかも。
「そうだね、神様が僕たちを直接作ったんだと思う。」私はそう言って、弟の頭を軽く撫でた。
森に着くと、太陽の光が林檎の葉の間から差し込んでいて、柔らかな光の斑点が地面に映し出されていた。私たちは林檎の木の下に座り、昼食を広げた。サンドイッチと林檎、そして冷たいミルク。弟は楽しそうにサンドイッチを頬張っていた。
「ねぇ、神様ってどんな人なんだろうね?」弟がまた質問を投げかけてきた。
私は少し考えてから答えた。「きっととても優しくて、みんなを見守ってくれてるんだよ。僕たちが幸せでいることを願ってくれてるんだ。」
弟はその答えに満足そうにうなずいた。「そうだね、神様って優しい人なんだね。」
食事を終えると、私たちはしばらく森の中を散歩した。弟は木々の間を走り回り、時折、珍しい虫や花を見つけては私に見せてくれた。そんな風に自然と触れ合う時間は、私たちにとってとても大切なものだった。
やがて、森の奥にある小さな湖にたどり着いた。水面は鏡のように静かで、青空と周囲の木々を美しく映していた。弟は水辺に座り、石を投げて水面に波紋を広げて遊んでいた。
「ねぇ、お兄ちゃん。もし神様が本当にいるなら、お願いしてみようよ。」
「何をお願いするの?」
「もっとたくさんの人に会いたい。お友達が欲しいんだ。」
その言葉に、私は胸が締め付けられる思いがした。弟の無邪気な願いを叶えてあげたい。でも、この世界には私たちしかいないという現実が、それを許してくれない。
「うん、そうだね。神様にお願いしてみよう。」私は弟の願いに応えるために、空を見上げて心の中で祈った。
湖のほとりで静かに祈りを捧げる私たち。その姿はまるで、神様への小さな贈り物のようだった。

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