ライトハウス(2018)

前書き

 ひょんなことから仲良くしていただいている文芸学科三年の「ないつば先輩」と渋谷パルコwhite cine quintoにて本作を鑑賞して参りました。先輩は息を呑むほど耽美な純文学をお書きになっていて、以前より公開された作品を見るたび畏敬の念を抱いておりました。また先輩は小説だけでなく映画への造詣も深く、サイレント映画をはじめとする様々なテーマで熱く語り合った時間も非常に楽しかったです!

 フレンドリーなだけでなく、なんと同じ大阪出身で、最寄駅も一駅隣(今までに会った日芸生男子で最も近い)であるという共通点の多い「ないつば先輩」。今後とも末長く仲良くしていただけるとありがたいです😂

(「灯台の光源」という絶対的な光)

シナリオ

 絶海の孤島にある灯台を四週間管理すべく派遣されてきた、ベテランと新入り。仕事評価用の日誌を持つベテランは、灯台の光源を独占し、社会的地位の優位性を利用して新入りに執拗なパワハラを行う狂人であった。次第に海は荒れて四週間が経過しても迎えは来ず、過酷な環境の中で二人は狂気に呑まれてゆく…

(望遠レンズによる奥行きの収縮と、小さな照明。強い閉塞感)

白黒と光

 本作を語る上で外せないのが「白黒と光」「画面サイズと閉塞感」という形式面と「何が真実であるのか」というストーリー面の演出である。

 舞台が絶海の孤島における灯台であり、その灯台の光源に魅せられる二人の人間を描く物語である本作の主要テーマは「光」である。灯台の近くでは強すぎる光源とは裏腹に、灯台守二人の陰鬱とした居住空間には薄暗い照明のみである。この光の強弱を的確に観客に伝えるために本作が「35mmの白黒フィルム」を用いたことは間違いないだろう。また白黒画面は人魚や死体などの妄想が現実のものであるか否かを判断する材料を観客に与えず、解釈の可能性を広げる効果もある。

画面サイズ

 本作では正方形に近いスタンダードサイズ(1.19:1)が採用されており、これは主にトーキー初期に用いられた画像サイズである。スタンダードサイズの標準比率は1.33:1であり、『ジャズシンガー(1927)』以降のトーキー初期にはフィルムにサウンドトラックのスペースを確保するために削られたのだという。

 この画面サイズが本作に与えてくれる最大の利点は、「閉塞感」の強調である。息の詰まりそうな灯台の閉塞感を表現するために、画面サイズによる横幅の削減望遠レンズによる奥行き(被写体と背景)の収縮作用を用いている。

(これが本作で用いられた1.19:1の画像比。灯台の光源の正体とは一体…)

謎と真実

 抽象的な表現が多いために難解であるとされる本作であるが、これは登場人物が両方発狂しているために発言の数々に矛盾が生じていることが原因である。そこで私は視覚上で起こったことを真実とし、超常現象の類は起こらなかったのだと仮定することにした。なぜなら人形やタコの触手などの異形のものが新入りの妄想の域を超えたことは作中一度たりともなかったからである。

 故に例えば、人魚の像は新入りが自分で持ってきたものであり、斧を持って片方を追いかけたのはベテランである。

 またベテランが独占し、新入りが求めた灯台の光源の正体が一体何であったのか「分からない」ものの、私は結局何でもないただの光であったのだと考える。重要なのは「光源の正体」ではなく、それが「分からない」ということである。なぜなら人類は自分の理解できない存在を畏れ、崇め奉るものであるからである。

 新入りの本名が「ウィンズロー」ではなく、ベテランと同じ「トーマス」であるか否かという問題、私は新入りの本名は本当に「トーマス」であったように思う。なぜなら新入りは自分の「ウィンズロー」という名前が偽りであることを、自分の過ちと共に真剣な顔つきで話していたからである。ベテランと新入りの名前が偶然同じであったというのは不思議な話であるが、ベテランの名前を聞いた際の新入りの驚いた顔を見る限りでは、これは単なる偶然の一致であるように感じた。

(ウィレム・デフォーもロバート・パティンソンも狂人役が上手すぎる!)

引用

 本作にはメルヴィルの『白鯨』やギリシャ神話など様々な引用が用いられているのだが、教養不足の私には殆ど説明しきれない。この章ではその一部を紹介する。

 外は豪雨、中は薄暗い閉塞空間に狂ったモラハラ上司。灯台は海の中で孤立しているという点で捕鯨船ピークォード号を彷彿とさせ、作中でもベテランがエイハブ船長の真似事をしているとの言及がされている。また一度はゼウス(ベテラン)に勝利して「プロメテウスの火(灯台の光源)」を得た新入りの末路がギリシャ神話の「プロメテウスの罰」そのものであるというのも分かりやすかったように思う。

(灯台や住居、雨や海の不快感も凄まじいが、海鳥たちの不快感はダントツ😭)

まとめ

 大学の先生方はいつも僕らに劇場へ積極的に行くことを勧めるが、つい最近まで私にはその意味が理解できていなかった。出費が嵩む上、現在は配信が非常に便利であるからだ。しかし、本作の強すぎる光や波風、繊細で不快な音響は劇場でしか味わい尽くすことができないのである。鎖の擦れる音や歯車の回る音、腐った木の床が軋む音、豪雨の音、激しい波の音、サイレンの音がはっきりと聞こえる劇場は我々をかの地獄へと誘ってくれた。

 バイトが始まってから二ヶ月ほどnoteを更新していなかった私だが、今回本記事を更新することができたのは、本作が僕の心を射抜く優れた作品であったことだけでなく、更新を楽しみにしてくださるとのお声をたくさん拝聴させていただくことができたからだ。今回お付き合いいただいた「ないつば先輩」をはじめとする皆様に心から感謝申し上げると共に、今後とも宜しくお願い致します!

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