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【ひとり感想部 第1回】「ダメージ(傷)」を受け入れるか「オブセッション(執着)」するか、どちらがお好み?

 さてひとり感想部、記念すべき第1回は、Netflixのドラマ『オブセッション/執着』。このドラマが、ひとり感想部を始めるきっかけになったと言っても過言ではない。・・・いや、正直に言うと、このドラマの前につくられた映画についてどうしても書きたかったのだ。
 たまたまこのドラマを観てしまったがために、その昔、レンタルビデオ屋で赤面しながら借り、親に隠れてこっそり観た当時の私の倒錯した想いが甦ってしまったのだ。ただ、その想いを聞いてくれる奇特な友人も残念ながらいない。そうなると、このnoteに書いて浄化させるしかない。
 きっと同じような想いを持っている人がひとりくらいはいるはず・・・そう信じて書いてみた次第だ。そのひとりに、このnoteが届きますように。届いたら、「スキ」を押して、こっそり心の片隅にしまっておいてほしい。
 というわけで、ひとり感想部のはじまりはじまり~。(ややネタバレがあるのでご留意を!)

「これ、あの映画と同じやん」 
 Netflixのドラマ『オブセッション/執着』の第1話を観たときに最初に思った感想はまさにこれ。ネットなどで予習もせずにたまたま見始めたドラマだったが、一旦そう思ったが最後、最終話が終わるまで比べてしまい、結局、映画をまた観たくなってしまったのだ。途中、ネットで調べると、案の定ドラマと映画の原作は同じだった。その映画のタイトルは『ダメージ』。1992年(日本では1993年)に公開された。今から30年以上も前のことだ。

 現代風のアレンジが加えてあるドラマも悪くはないが、映画と比べてしまうと、一つひとつのシーンが記憶に残らなかった。映画にはあった「余韻」がドラマにはまったくないのだ。逆に、遠い昔に観たはずなのに、今でもいくつかのシーンと狂おしいほどの感情を思い出せる映画がすごいのか。

 『オブセッション/執着』は、イギリスドラマで2023年4月に配信が開始された。あらすじは『息子の婚約者と恋に落ちてしまった、ロンドンの一流外科医。快楽に深く溺れる2人の関係はやがて互いの人生を大きく変え、家族をも巻き込んだ破滅へ向かっていく』(Netflix Japanより)というもの。あらすじを読むだけで息子が可哀そうすぎる…。しかも、ドラマを見終えてからこのあらすじを読むと、違和感が否めなかった。2人とも(特に外科医は)快楽には溺れていたが、2人が恋に落ちているとは私には到底思えなかったのだ。「好きかどうか分からないけど身体は欲しい」どちらかといえばそういった感情の方が適当な気がする。少なくとも婚約者は恋ではなかったはずだ。演技なのか、それとも脚本の問題なのか。ここは残念な点だった。
 それにしても、息子と義父の両方ともを手玉に取る婚約者・・・恐ろしいったらありゃしないよ。そんな近しい人間関係でなぜバレないと思うのか。二兎を追う者は一兎をも得ずって昔から言うじゃないかと心の中でツッコミを入れるが、2人の関係はエスカレートしていき、どんどん悪い方へと向かっていく。

 このドラマの基になっているのは、ジョセフィン・ハートの小説『ダメージ』。そして同じ原作の映画「ダメージ」は、イギリス人俳優のジェレミー・アイアンズとフランス人俳優ジュリエット・ビノシュの絡みとセンセーショナルな内容が話題になった。映画を観て、私のようにジェレミー・アイアンズ演じる完璧なのにダメな恋に狂っていく中年男スティーブン・フレミングに恋した人もいるのでは⁉︎今考えると、当時からダメ男に惹かれる傾向にあったのかと今更ながら反省・・・。それはさておき、スティーブンは大臣の椅子が約束されている下院議員で、仕事も家族もすべてが完璧なのに、どこか満たされないでいた。そんな中、息子の恋人アンナと出会い、情事に溺れていく。あらすじはドラマとほぼ一緒なのだが、スティーブンが今まで感じてこなかった渇望と欲望をアンナの中に見つけ、アンナも自分の持っている傷を少しずつ晒していく。感情のままに求める姿が映画では丁寧に表現されている。ロクでもない関係なのに、訳の分からない切なさが観る者の心に刺さるのだ。自分の欲望に従うことはこんなにも愚かで苦しく、でも分かっていても抗えない。そんな心情の移ろいが感じとれる点がドラマとの大きな違いかもしれない。

 ドラマでは、外科医は息子の婚約者に執着し、息子の婚約者は自分の傷を癒すために男性を誘惑することに執着する。誰もが誰かに執着するというまさにタイトル通りだった。そういった意味ではテーマと内容が一致していると言ってもいいだろう。けれど、他人の執着は観る者にとっては美しくもなく、感動もない。だから少なくも私の記憶に残らなかった。

 映画のラストは、スティーブンがあるパネルの前に座り、ずっとそれを見ている。私の好きなシーンのひとつだ。すべてを失った彼は、ほとんど物の置いていない部屋の中でただひたすらパネルを見つめる。その先には彼が愛したときのアンナがいた。とりかえしのつかないくらいの過ちの代償としてダメージ(傷)を彼は受け入れている。そして受け入れたうえでもなお、彼が愛したアンナをずっとこれからも愛し続けていくのだ。この余韻が永遠に続くような終わり方がとても印象的だった。これくらい愛されたいと思うのは狂っている証拠なのだろうか。もう本当にジェレミー・アイアンズ最高。これが言いたかったがために書きたかった…。

 執着が好きなら「オブセッション」を、恋に伴う痛みが好きなら「ダメージ」をお勧めします。どちらを選ぶかはあなた次第。
 というわけで、ひとり感想部第1回目はこれにておしまい!お読みいただき、どうもありがとうございました!


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